menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ

マネジメント

交渉力を備えよ(42) 国際間の利害方程式を読み解く

指導者たる者かくあるべし

 田中角栄政権が誕生して、戦後の最大懸案の一つとして残されていた日中国交正常化交渉が動き出す。電撃的な田中訪中だと思われているが、田中が密かにその計画の可能性を探りはじめたのは、首相就任から遡ること一年。まだ通産相として日米繊維交渉に乗り出す前で、田中は自民党幹事長だった。
 
 1971年夏、田中は、外務省の中国課長・橋本恕(ひろし)と二人だけで会っている。
 
 「おい、おれは政権を取ったら日中をやる。それには準備が要る。どうだ、外務省きっての中国通の君の見識を見込んで頼むんだが、日中復交の見取り図を書いてみてくれんか。時期か?来年の7月だ」
 
 ポスト佐藤栄作の政権の行方は、いまだ混沌としていた。佐藤のあとは福田赳夫が有力だと、誰もが見ていた。その政治駆け引きに専心しているであろう段階で、すでに政権取りを前提に、田中政権の目玉を準備している。
 
 権力争いに全精力をつぎ込むようでは、権力を得ても燃え尽きてしまう。トップになったら何をなすか、先を見越して仕込む。おざなりになりだちだが、これがリーダーの重要な資質の一つだ。
 
 秘密裏に慎重に進めなければならない理由があった。米国大統領のニクソンは同年夏、外交補佐官のキッシンジャーを極秘で北京に送り込み米中国交正常化の地ならしに入っている。日本政府の先走りが表面化すれば、米国は牽制どころか露骨に妨害するだろう。
 
 さらにやっかいなのは、国内、とくに自民党内の親台湾派の抵抗だ。元首相として隠然とした力を持つ岸信介をはじめ、ライバルの福田も日中国交正常化に否定的だ。田中は“親中派”だということで、ポスト佐藤のレースから外されかねない。
 
 「でも、やらにゃ、いかん」と田中は確信していた。その信念を田中は回想している。
 
 「わたしの基本にあったのはね、日本と中国とアメリカで二等辺三角形をつくるべきだ、という考え方だ。これが正三角形になるとケンカばかりするようになって困るから、アメリカを底辺にして中国と日本が左右の二辺になる二等辺三角形を形成し、それに台湾と韓国が控えるという形だ。これなら極東の平和は確保される」
 
 東西冷戦構図から脱して、米国が中国と手を握り、ソ連を封じ込める。だれもが慌てた米中接近の事態を目の前にして、田中の外交コンピュータは、複雑な国際関係方程式の解を導き出していた。 (この項、次回に続く)
 

 (書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

※    参考文献

『早坂茂三の「田中角栄」回想録』早坂茂三著 小学館
『田中政権・八八六日』中野士朗著 行政問題研究所
『田中角栄の資源戦争』山岡淳一郎著 草思社文庫
『記録と考証 日中国交正常化・日中平和有効条約締結交渉』石井明ら編 岩波書店
『求同存異』鬼頭春樹著 NHK出版

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

交渉力を備えよ(41) 「決断と実行」で日中国交正常化交渉に挑む田中角栄前のページ

交渉力を備えよ(43) 今しかないタイミングを逃すな次のページ

関連記事

  1. 国のかたち、組織のかたち(22) 古代アテネの民主政(下)

  2. 逆転の発想(51) 不利なときこそ知恵の出番(真田幸村)

  3. 危機への対処術(9) フォークランド紛争と鉄の意志(マーガレット・サッチャー)

最新の経営コラム

  1. 朝礼・会議での「社長の3分間スピーチ」ネタ帳(2024年11月20日号)

  2. 第七十八話 展示会後のフォローで差をつける「工場見学の仕組みづくり」

  3. 第219話 少人数私募債の相続対策

ランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

新着情報メール

日本経営合理化協会では経営コラムや教材の最新情報をいち早くお届けするメールマガジンを発信しております。ご希望の方は下記よりご登録下さい。

emailメールマガジン登録する

新着情報

  1. 戦略・戦術

    第1回 なぜ香港なのか?日本人が進出しやすいその理由
  2. マネジメント

    日本的組織管理(5) 人材の見抜き方
  3. マネジメント

    朝礼・会議での「社長の3分間スピーチ」ネタ帳(2024年6月19日号) 
  4. 健康

    第13回 七里田温泉(大分県)体中がアワアワ!日本屈指のラムネ温泉
  5. サービス

    135軒目 「《沖縄まで旅をさせるレストラン》6six(シス)@沖縄県国頭郡」
keyboard_arrow_up