賃金管理研究所 所長 弥富拓海
「毎年少しでも良い人を採用しようと努力しているのですが、最近は選考すらままならない。内定通知を出しても辞退する学生が多くて」と悩む人事担当者がおられました。
本気で質の高い人材を採用したいと考えているのであれば、少なくとも地域の賃金相場以上の採用初任給を提示しなければ、応募者すら集まりません。
話を大卒の採用に絞れば、その初任給は需要増のあおりを受けており、賃金表で決められた大卒の基本給額では見劣りしてしまいます。より良い人を採りたければ、初任給相場にあわせて提示額を引き上げる方策が必要です。
しかし、採用初任給を決めるにあたって、賃金表上の号数を場当たり的に「今年は5号俸高いⅡ等級17号に変更すれば20万円を超えるからちょうど良い」などと、安易に変更してはいけないのです。賃金表ベースで大卒だけ、その初任等級号数を引き上げれば、同年齢の高卒社員や短大・専門卒社員とのバランスが崩れるほか、先輩社員との賃金バランスも壊すことになってしまいます。
そこで合理的に決められている賃金表の仕組みを壊すことなく採用初任給を引き上げる方法が、基本給に定額を加算する「初任給調整手当」なのです。
例えば大卒初任給(基本給)がII等級12号=197,400円の会社が、204,900円の初任給を提示しようとする場合、その差額の7,500円が初任給調整手当となります。この調整手当は翌年4月の昇給時から定額で減額し、4年目には不支給とします。
つまり、入社1年目の調整手当は7,500円、2年目5,000円、3年目2,500円、そして4年目には0円(不支給)というように設定します。
なお、この手当を設定するときには、新入社員にのみに初任給調整手当を付けるのではなく、2年目の先輩社員には5,000円、3年目の先輩には2,500円と設定する必要があります。そうしなければ後から入った新人社員の方が、業務を経験し、やる気満々の先輩社員より給与が高くなってしまうからです。
大卒社員の基本給が評語Bで6,400円昇給する会社で、調整手当以外に特別な手当がない場合の所定内賃金の推移を確認してみましょう。
年齢 | 等級号数 | 基本給額 | 初任給調整手当 | 所定内賃金額 |
---|---|---|---|---|
22歳 | II-12 | 197,400円 | 7,500円 | 204,900円 |
23歳 | II-16 | 203,800円 | 5,000円 | 208,800円 |
24歳 | II-20 | 210,200円 | 2,500円 | 212,700円 |
25歳 | II-24 | 216,600円 | 0円 | 216,600円 |