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第52回 黒川温泉(熊本県) 「浴衣で湯めぐり」が温泉街の醍醐味

高橋一喜の『これぞ!"本物の温泉"』

■温泉街が活気を失ったワケ
 カランコロンと下駄の音を響かせて浴衣姿で湯めぐり――。これぞ温泉情緒をかきたてられる風景である。
 しかし、浴衣で湯めぐりを楽しめる温泉街は意外と少ない。おもな理由は2つ。ひとつは、温泉宿がお客を囲い込んでしまったため。大型旅館は館内に土産物店や食事処、エステなど、宿から出なくてもお客が時間を過ごせるように設備やサービスを充実させた。そのほうが儲かるからだ。経営努力の結果ともいえる。
 しかし、それによって温泉街を散策する観光客が減り、土産物店や飲食店がそのあおりを食うこととなった。2つめの理由は、温泉街が活気を失ったことである。寂れた温泉街を散策する気にはならないだろう。
 バブル期以降、全国の温泉地でこうした傾向に拍車がかかり、入浴客の活気にあふれる温泉街は数えるほどになってしまった。そんな元気のある温泉街の代表格が熊本の黒川温泉である。
 黒川温泉は阿蘇外輪山と久住の山々に抱かれた、標高700メートルの山間に湧く温泉地だ。日本の原風景ともいえる里山の風景が訪れる人をほっとさせる。
 
■旅館同士は「ライバル」ではない
 黒川温泉の最大の楽しみといえば、3カ所の旅館の露天風呂に入浴できる「入湯手形」(1枚1300円)。入湯手形は28軒の宿で利用でき、宿泊客や日帰り客が手形を片手に湯めぐりを楽しむ光景が見られる。今でこそ全国の温泉地で「湯めぐり手形」の類を見かけるが、黒川温泉こそ元祖である。しかも、黒川温泉以上に「湯めぐり手形」で成功している温泉地はない。
  その成功の秘訣は、温泉地の団結力にある。同じ温泉地といえども、それぞれの旅館はライバル同士。一緒に協力するには限界がある。しかし、黒川温泉の場合は、ほとんどの宿が入湯手形のプロジェクトに参加しただけでなく、人気が偏らないようにすべての温泉宿に露天風呂を協力してつくったり、予約が一杯の宿が空きのある宿をお客に紹介したりした。
 一軒の宿だけでなく、温泉地全体の魅力を高めて観光客に来てもらおうという作戦だったのだ。昔は、お互いの浴室を提供し合うなんて言語道断、というのが常識だった。それを考えれば、黒川温泉の挑戦は革命的な取り組みだったといえる。
 黒川温泉には数度訪ねたことがあるが、いずれも浴衣姿で湯めぐりをする人でにぎわい、温泉街には活気があふれていた。温泉というとお年寄りのイメージが強いが、若い女性やカップルが多いのが黒川の特徴である。
 
■個性豊かな露天風呂が魅力
 黒川温泉の旅館といえば、雑木に囲まれた風情のある露天風呂が特徴である。あえてお気に入りの露天風呂を挙げるとすれば、まずは黒川温泉ブームの土台を築いた後藤哲也さんが主人を務める「新明館」。本人がノミ一本でこつこつと掘った洞窟風呂は、執念とこだわりがひしひしと感じられる名物風呂だ。
  温泉街のはずれにある「山河旅館」もいい。静かな環境と雑木林に囲まれた石づくりの露天風呂は情緒がある。「今度は宿泊で訪れてみたい」と思わせる、センスあふれる宿だ。
 
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 もうひとつは、洗練された和風モダンの宿「山みず木」。渓流が迫るロケーションがすばらしく、黒川温泉の露天でもトップクラスの開放感を誇る。
 十数軒の宿をまわったが、透明湯や白濁湯、黄色や青色を帯びた湯など泉質や個性もそれぞれなので飽きない。しかも、いずれも源泉かけ流しなのがうれしい。
 熊本県の別の温泉地の共同浴場で一緒になったおじいさんは、「黒川は人が多すぎる。観光地化してしまった」と嘆いていた。たしかに、そういう面も否定できないが、温泉街には派手さが売りの土産物屋や飲食店は見られず、昔ながらの落ち着いた街並みを維持している。温泉街の関係者は、観光客が何を求めているかをよく理解しているのだと思う。
 

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