★ヒットを導く鍵は「人を動かす隠れたホンネ=インサイト」
売れる商品と、売れない商品は何が違うのでしょうか?優れた技術や高品質な素材を使っていても、なぜか売れないものがある一方で、シンプルな発想から生まれた商品が爆発的に売れることもあります。では、この違いを生む要因とは何なのでしょうか?
そのカギを握るのが、「人を動かす隠れたホンネ」――つまり「インサイト」です。競合他社が気づいていないだけでなく、顧客自身すら明確に言語化できていない感情や欲求をとらえて言語化することで、「そうそう、それが欲しかった!」と思わせる強い共感を生む商品をつくることができます。
では、どのようにして「インサイト」を見つけ、売れる商品を生み出すのか?それを事例から学ぶ上で、実は“ビジネス書”はとても参考になります。ビジネス書は、ビジネスパーソンの悩みや課題を解決するための知見やノウハウが書かれるものです。ゆえに、ベストセラーになるビジネス書には、多くの人の心を動かす「隠れたホンネ=インサイト」が含まれていることが多いのです。
さらに、ビジネス書はタイトルや帯といった「言葉」で本の中身を端的かつ魅力的に伝え、読者の悩みや欲求を突いて手に取ってもらうことが勝負の商材です。そのため、インサイトがタイトルや帯にわかりやすく表現されていることもしばしばあります。
今回は、近年ヒットしたビジネス書ベストセラーを題材に、インサイトを捉えることでヒットを生み出す方法を紐解いていきます。
★ビジネス書界では「言語化」本がブーム
どんなテーマのビジネス書が売れているのかといった、ビジネス書のトレンドは時代を映す鏡です。ビジネス書の人気テーマにはいくつかのトレンドがありますが、その中でも「言語化」はここ数年で注目を集めているテーマのひとつです。
「今年特に広まった」と感じられる言葉や、普段の会話やSNSでよく使われるようになった言葉が選ばれる、「三省堂 辞書を編む人が選ぶ「今年の新語2024」」(2024.12.3発表)でも、「言語化」が大賞に選ばれました。
「言語化」という言葉が世の中でよく使われるようになった背景には、インターネットやSNSの普及により、誰もが自分の言葉で表現する必要性が高まったことが大きく関係しています。普段の生活で自分が見聞きしたものをどのように頭にインプットし、どのように整理し、言葉にするのか。この「言語化」のプロセスについて、人々が深く考えるようになったのです。
出典:三省堂 辞書を編む人が選ぶ「今年の新語2024」特設サイトより筆者まとめ
https://dictionary.sanseido-publ.co.jp/shingo/2024/
ビジネス書の世界で「うまく言葉にすること」をテーマにした本が売れ始めたのは、2016年に発売された『「言葉にできる」は武器になる。』(日経BP、梅田悟司・著)がきっかけだと言われています。その後、2020年に『言語化力 言葉にできれば人生は変わる』(SBクリエイティブ、三浦崇宏・著)が「言語化」というキーワードを使用し、ヒット作となりました。
それを皮切りに、「言語化」をキーワードにした本が続々と売れるトレンドが生まれ、最近でも『こうやって頭のなかを言語化する。』(PHP研究所、荒木俊哉・著)などがヒットしています。
「言語化」というキーワードでのヒット作の流れを作った『言語化力 言葉にできれば人生は変わる』の担当編集者であり、サンマーク出版の多根由希絵氏は、「言語化ブーム」の背景には「個」の強まりがあると見ています。
今回、多根氏にヒアリングをしたところ、5年前と比べて現在は「会話本、思考整理本よりも、言語化の本が売れる傾向がみられる」といいます。「それは人間関係の調整よりも自分を出すことが大事であり、よりインスタントに言葉にすることが大事という価値観が高まっているためなのではないか」と多根氏は考察します。
多根氏はさらに、「もしかしたら、『言葉にしないと認めてもらえない』と感じている方もいるのでは」と言います。
確かに、SNSをはじめとするさまざまな場面で、言葉にして発信できる人が力を持つ風潮があります。言葉にできる人には、見た目が派手でなくても、話し方が上手くなくても、強さやパワフルさ、エネルギッシュさが感じられます。
逆に、言葉にできないと、議論で言い負かされてしまったり、自分の提案を通すことができなかったりすることも少なくありません。
こうした、「言語化できること」が力強さや優位性を持つという風潮が、「言語化」本のヒットを支える一因になっているのでしょう。
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