●米中貿易戦争対策は今年「北戴河会議」のテーマ
●3つの判断に基づく「以戦止戦」方針
●中国経済を安定させる「6穏」方針(6つの安定化)
◆米中貿易戦争対策は今年「北戴河会議」のテーマ
河北省北戴河は中国の人気避暑地として広く知られる。その一角には、中央政府要人招待用の別荘が並んでいる。
毎年、盛夏になると、党・政府の指導者や引退した党内の長老たちは北戴河に集まり、避暑しながら大政方針や重要人事をめぐり意見交換を行う。熱く議論した上で、ある程度の党内コンセンサスを形成し、今後1年間の党・政府活動の指針を示す。これはいわゆる「北戴河会議」である。
ただし、「北戴河会議」はあくまでも内部会議なので、決議もないし報道もしない。そのため、ベールに包まれる存在と思われる。
江沢民時代と胡錦濤時代において、北戴河会議はほぼ毎年開催していたが、習近平時代に入ると、執行部が必要と判断した時のみに開催するように変わってきた。
今年8月前半に開催した北戴河会議はテーマがたった1つ。それは米中貿易戦争への対応策だ。執行部メンバーと長老たちは、冷静に情勢分析を行った上で、「以戦止戦」(戦いを以て戦いを止める)という基本方針のコンセンサスが出来たという。
◆3つの判断に基づく「以戦止戦」方針
「以戦止戦」(戦いを以て戦いを止める)という米中貿易戦争の基本方針は、中国執行部の下記3つの判断に基づく結果と言える。
第一に、貿易戦争はトランプ政権の手段に過ぎず、中国台頭阻止、米国覇権維持こそアメリカの究極の目的である。
第二に、トランプ政権は貿易戦争を通じて、中国を屈服させようとしている。米国側が求めている中国の長期戦略「中国製造2025」の実施停止などは、中国の経済主権にかかわり、譲歩する余地がない。中国は戦うしか選択肢がない。
第三に、米国経済はいま上昇期にあり、トランプ政権も自信過剰な状態にある。そのため、11月米中間選挙まで、交渉しても妥結することが難しい。たとえ一時的に合意が出来ても、トランプ政権は必ずしも信用を守る保証がない。
◆中国経済を安定させる「6穏」方針(6つの安定化)
一方、米中貿易戦争によって、中国経済は大きなダメージを受けているのも事実だ。特に中国の資本市場と金融市場の影響が大きい。
今年4月3日、トランプ政権は中国の知的財産権侵害を理由に、600億ドル相当の中国製品制裁リストを発表した。これをきっかけに、中国の株価も人民元為替レートも急転直下の局面を迎えた。
図1に示すように、4月2日~8月21日、上海株価総合指数は3169.18から2733.83へと13.7%も下落した。一方、人民元対米ドルレート(中間値)は4月1日の1ドル=6.276元から8月15日の1ドル=6.885元へ下落し、元安幅は8.8%にのぼる(次頁図2を参照)。
出所)沈 才彬が作成。
実体経済にも影響が出ている。2018年1-7月の消費・投資・輸出は前年同期に比べ、それぞれ9.3%、5.5%、5%と増えたが、昨年通年の実績よりそれぞれ0.9ポイント、1.7ポイント、2.9ポイント減速となっている(図3を参照)。
出所)中国外国為替管理局のデータにより沈才彬が作成。
出所)中国国家統計局の発表により沈才彬が作成。2018年のデータは1-7月期。
厳しい内外環境に対応し経済成長を安定させるために、7月31日開催の政治局会議で、中国執行部は雇用・金融・貿易・外資・投資・予期など6つの安定化という「6穏」方針を決めた。「北戴河会議」で「6穏」方針を再確認した。
中国経済は米中貿易戦争に耐えられるか?今後1年間は正念場を迎える。この試練を乗り越えなければ、中国経済は挫折し中国台頭も中断するだろう。(了)