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マキアヴェッリの知(2) 組織統治と維持の要点

指導者たる者かくあるべし

 世襲リーダーの場合

 〈血統による世襲によって領土(組織)を継いで維持するのは、新たに統治権を獲得したリーダーによる維持よりも容易である。なぜなら、それを維持するには、先祖伝来の秩序から逸脱しないようにし、諸々の出来事に対して適切に対処するだけで充分だからだ〉


 マキアヴェッリは、「君主論」の冒頭で、統治権について世襲と新興リーダーの二種類があることに触れた後、世襲リーダーに関して比較的あっさりと触れている。これは、同書が、フィレンツェの統治者として返り咲いたメディチ家に擦り寄る道具として書かれたためで、いわゆる挨拶文のようなものだ。


 〈したがってもしリーダーが普通程度に勤勉であれば、その権力を奪うような非常に強大な勢力が存在しない限り、その権力を維持できるだろう。たとえ、その権力を失ったとしても、簒奪者に不都合な事態が生ずれば、権力を再び獲得するであろう〉


 まさに共和制政体に一度は追放されながら復帰したメディチ家のことだ。続けて彼は書く。〈支配権が長い間にわたって連綿と続くところでは、革新の記憶も理由も消滅する〉。読みようによっては嫌味でもある。共和制のもとで軍事、外交を担当し、メディチ家統治の復活後に政権から追放されたマキアヴェッリは、古代ローマの共和制こそ理想の統治形態だと強く信じている。激動の時代の変革者を自認している彼の政治論の本当の主題は、続く「新興の(複合的)君主論」で展開されることになる。

 

 新興のリーダーの場合

 〈新しく興った君主権(リーダーシップ)には、種々の困難がつきまとう。その困難かから変革が生まれてくる。変革の過程で人々は自らの状況の改善を求めてさらに支配者を変えたがる〉


 一つの変革は次の変革を呼び込むことになる。それ故に、安定体制下の世襲リーダーと違い新興指導者には、組織維持のために特別に優れた統治の才能が求められる。


 なぜなら、新しく指導者の地位についた者は、権力獲得の過程で誰かを傷つけており、傷ついた人たちは敵にまわる。かつて権力獲得を支持したかつての味方だった人々も、期待した利益が得られないとなると離反することにもなりかねない。かといって、〈一旦は同志として協力と恩義を受けた相手であるから、彼らに対して強力な手段を用いることもできないことになる〉。統治力量が問われることになる。


 なんのことはない。現在クライマックスに向かいつつある大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の主人公・北条義時(ほうじょう・よしとき)が抱える苦悩である。共に権力奪取に動いた恩義ある御家人頭領である和田義盛(わだ・よしもり)一族を、北条政権安定のために討てるかという悩みこそが、まさにマキアヴェッリの指摘そのものである。マキアヴェッリを知れば大河ドラマは一層面白く見ることができる。

 

 リーダー十訓

 マキアヴェッリは、新しく国を興した者が守るべき項目を書き記している。

  1、敵から身を守る方策を立てること。
  2、味方を獲得し、そのネットワークを確立すること。
  3、力によってであろうが策略によってであろうが勝利すること。
  4、民衆に愛されるとともに怖れられる存在になること。
  5、部下に慕われるとともに畏敬されること。
  6、反旗をひるがえす可能性がある者はあらかじめ抑え込んでおくこと。
  7、旧制度を新制度に改革すること。
  8、厳格であるとともに思いやりを持ち、寛大で気前よく振る舞うこと。
  9、忠実でない軍隊を解体し、新しい軍隊を創設すること。
  10、他国の指導者たちとの間に、友好関係を維持すること。これは彼らが進んでこちらのために尽くす利益のほかに、侵略意図に歯止めをかけるためである。

 読者諸氏が関わる組織、企業に置き換えて考えれば、どんぴしゃりと当てはまるのではないだろうか。

(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

※参考文献
『君主論』ニッコロ・マキアヴェッリ著 佐々木毅全訳注 講談社学術文庫
『マキアヴェッリ語録』塩野七生著 新潮文庫

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