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経済・株式・資産

第76話 2016年中国経済3大リスク

中国経済の最新動向

 2016年初頭、世界の資本市場と主要商品市場に激震が走っている。主要国株価は揃って急落し、原油価格は1バレル=30ドルを割り込み、12年ぶりの低い水準だ。「国際貿易の体温計」と言われる海運指標・バルチック海運指数は史上初の400割れとなった。激震の震源地は言うまでもなく中国である。この中国では今、株価暴落・人民元安・資本流出という3大リスクが表面化している。

◆株式市場 波乱の幕開け
 年明け早々、中国株式市場は波乱の展開となっている。1月15日上海株価総合指数は2900.97と昨年の最安値を更新し、僅か2週間で18%も値を下げた。(次頁表1を参照)。中国政府は株価暴落防止のため、1月4日から「サーキットブレーカー」(株価指数7%下落すれば、取引終日停止)という取引停止システムを導入したが、4日と8日、一週間で2回も「サーキットブレーカー」が発動された。特に8日には取引開始から僅か30分で取引終了という前代未聞の出来事が発生した。余りにも不評で、この新制度は僅か4日間で廃止されたが、株価下落の動きは止まる気配がない。いわゆる「サーキットブレーカー・ショック」である。

 上海株価の暴落によって、国際的にも連鎖反応が起こり、主要国株価は相次いで急落している。図1に示す通り、1月4~8日の1週間、主要国株価の下落率は、中国(上海総合)▼9.97%を筆頭に、ドイツ▼8.32%、日本▼7.02%、フランス▼6.54%、アメリカ▼6.19%、英国▼5.28%が追随している。特に東京株式市場は6営業日連続で下落を続け、下げ幅は1800円を超えた。年明けて6日続落は戦後初めてという。

 中国を震源地とする激震は世界の株式市場に限らず、主要商品市場にも波及している。中国経済の減速によって、資源やエネルギー需要が落ち込み、原油など主要国際商品価格の下落は止まらない。1月15日のNY原油先物市場では米国産WTI原油価格は前日比5.71%安の1バレル=29.42で取引を終えた。2003年12月以来の安値水準である。

 

表1 上海株価総合指数の推移

月/日 上海総合指数
2015年1月5日 3350.52
2月2日 3128.30
3月2日 3336.28
4月1日 3810.29
5月4日 4480.46
6月1日 4828.74
6月12日 5166.35
7月1日 4053.70
8月3日 3622.91
8月26日 2927.29
9月30日 3052.78
10月30日 3382.56
11月30日 3445.40
12月31日 3539.18
2016年1月4日 3296.25
1月7日 3125.00
1月15日 2900.97

出所) 上海証券取引所により沈が作成。


 

出所) 各国のデータにより沈が作成。



 世界の海運業も未曾有の不況に襲われる。15日、海運運賃指標であるバルチック海運指数は、初めて400を割り、1985年統計開始以来、過去最低を記録した。鉄鉱石、石炭、鋼材などの貨物の中国向けの荷動きは激減しているためだ。中国当局の統計によれば、2015年中国の貿易額は6年ぶりに減少に転じ、前年比8%減というリーマンショック以来の減少幅を記録した。中国をはじめ新興国の需要落ち込みによって、モノの動きが鈍くなり、世界の海運業を直撃している。

 リスク回避のため、今、株式から長期国債など安全資産への資金シフトが活発化している。これは投資家の株式離れ及び株価の下落に繋がっている。

 当面、中国の株式市場は不安定な動きが続き、リスク要素として株安及び実体経済への影響に深い注意を払う必要がある。

◆人民元 今年切り下げ幅は5%前後
 2つ目のリスク要素として人民元安を指摘したい。元安は次の2つの要素に影響されやすい。

 先ずは中国経済の動向である。現在、生産過剰、コスト上昇、輸出不振、デフレ懸念などマイナス材料が多く、中国経済の見通しは明るくない。これは人民元売り圧力の増大に繋がりやすい。

 2つ目の要素は量的金融緩和の終了に伴う米金利上げの影響である。米利上げによって、新興国から米国へ資金還流し、ドル高・新興国通貨安に繋がる。今年、4回の米利上げが想定されるが、新興国はどこまで耐えられるか、正念場を迎える。一部の新興国は通貨危機が発生する可能性さえある。

 中国は膨大な外貨準備高を持っているため、通貨危機の発生が考えにくい。だが人民元安から逃れられない。表2に示すように、昨年末から元安の傾向が続いている。今年1月15日時点で、人民元対米ドルレートは昨年11月末に比べ2.6%安くなっている。

 極端の人民元安は中国経済に悪影響を及ぼすのみならず、新興国の連鎖反応を引き起こし、通貨戦争にもなりかねない。また、米国の反発も予想され、米中貿易摩擦を激化させる恐れがある。そのため、中国政府による人民元防衛戦の展開が予想され、急激な元安は回避されると思う。結局、今年の人民元切り下げは限定的なものにとどまり、通年では5%前後の元安に落ち着くだろう。

 

表2 人民元対米ドル為替レートの推移

  元/1米ドル
2006年1月4日 8.0702
2014年12月1日 6.1369
2015年1月5日 6.1248
2015年2月2日 6.1385
2015年3月2日 6.1513
2015年4月1日 6.1434
2015年5月4日 6.1165
2015年6月1日 6.1207
2015年7月1日 6.1149
2015年8月1日 6.1169
2015年8月10日 6.1162
2015年8月11日 6.2298
2015年8月12日 6.3306
2015年8月13日 6.4010
2015年8月14日 6.3975
2015年8月31日 6.3893
2015年9月30日 6.3613
2015年10月30日 6.3495
2015年11月30日 6.3962
2015年12月31日 6.4936
2016年1月15日 6.5637

出所) 中国人民銀行により沈が作成。



◆資本流出・外貨減少は止まらない
 景気悪化、株価下落、人民元安など不安材料によって、現在、資本の中国逃避行が起きている。これは中国外貨準備高の急激な減少から裏付けられる。

 図2に示す通り、中国の外貨準備高がピークを迎えたのは2014年6月末時点であり、総額は3兆9932億ドルにのぼる。以降、緩やかに減少し続けている。

 ところが、昨年8月、突然の人民元切下げによって、中国の外貨準備高は急減し始めた。12月までの5ヶ月間、外貨準備高は3210億ドルも減少した。特に昨年12月単月の減少額は1000億ドルを超え、記録的な1079億ドルにのぼる。資本流出は急ピッチで進行している実態が明らかになっている。資本流失の加速は投資者心理を悪化させる恐れがあり、中国経済にマイナス影響を及ぼしかねない。

 

出所) 国家外貨管理局データにより沈が作成。



 これまでリスク要素として、株安・元安・資本流出などを述べてきたが、最後に中国の資本市場と実体経済のかい離を指摘したい。実際、中国の実体経済はそんなに悪くはない。昨年の実質GDP成長率は6.9%で、確かに減速したものの、主要国の中では依然としてトップクラスだ。中国の製造業は生産過剰のため苦戦が続くが、2桁増の個人消費に支えられ、サービス業は堅調さを保っている。中国経済を見る時、こうした資本市場と実体経済のかい離を見逃してはいけない。過剰な中国経済悲観論は禁物である。

 

 

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