新型コロナの影響で中国経済は大きな打撃を受け、今年第1四半期の成長率は▼6.8%を記録した。経済成長がマイナスに転落したのは1976年文化大革命終結以来、44年ぶりの出来事だ。
しかし、コロナの終息に伴い、4月から中国経済は急速に回復し、輸出、投資、消費、鉱工業生産など主要経済指標をグラフで表示すれば、いずれも「V字型」回復を示している。主要国の中で、中国経済は「コロナショック」から一番先に抜け出す可能性が出てきた。
◆輸出・投資・消費が急速に回復
コロナ禍の最中にある1~2月を中国経済の底とすれば、3月から改善が見られ、4月からは急回復を見せている。図1に示すように、経済成長の三大要素と言われる輸出、投資、消費はいずれも「V字型」回復を示している。
出所)中国国家統計局の発表により筆者が作成。
先ず、輸出を見よう。人民元ベースでは昨年12月は9%増だったが、今年1~2月は一転15.9%減少し、3月▼6.6%と減少が続く。4月の輸出について、国際機関は揃って2桁減少と予測していたが、蓋をあけると、なんと8.2%増という予想外の結果だった。コロナのパンデミック(世界的大流行)による医療物資輸出の急増や在宅勤務のニーズに応えるパソコン輸出の急増などが、4月輸出のプラス転換に大きく貢献したと見られる。
次に、インフラ、設備、不動産などを含む固定資産投資を説明する。前年同期に比べ、今年1~2月の固定資産投資は▼24.5%だった。1-3月▼16.1%、1~4月▼10.3%と、月ごとにマイナス幅が縮小している。前月比では4月が6.2増となっている。
投資について特筆すべきなのは、外国直接投資のパフォーマンスだ。中国商務省の発表によれば、今年4月、外国直接投資は703億元にのぼり、前年同月に比べ11.8%も増えた。ドルベースでは8.6%増となっている。外国資本の「中国離れ」が盛んに喧伝される中、対中直接投資が減少ではなく増加するのは予想外の結果と言わざるを得ない。中国市場の魅力が減退してないことが裏付けられる。
中国政府は今、AI、5G、ピックデータ、クラウド、Iotなど「新基建」と呼ばれる「ニューインフラ整備」を行う大規模なインフラ投資計画があり、5月22日開催の全人代で批准されれば、6月より実施に移すことになる。第3四半期から固定資産投資がプラスに転換することは間違いない。
消費も同様の傾向を示している。小売総額は前年同月比で今年1~2月が
▼20.5%だったが、3月▼15.8%、4月▼7.5%と、月ごとにマイナス幅が縮小している。5月11日、上海ディズニーランドの再開に象徴されるように、コロナの終息に伴い、国民の生活が正常に戻り個人消費も回復するだろう。速ければ5月、遅くても6月の消費は前年同月比でプラスに転換すると思われる。
スマホ出荷と新車販売は久しぶりにプラス転換
消費全体はマイナス成長が続く中、明るい材料も出てきている。携帯電話の国内市場出荷台数と新車販売台数が久しぶりにプラスに転換したことだ。
次頁図3のように、携帯電話の国内市場出荷台数は昨年6月以降、マイナス成長が続いてきた。今年2月は僅か638万台を出荷し、前年同月に比べ56%も減少した。しかし、4月は一転して14.2%増の4,173万台にのぼり、10カ月ぶりにプラスに転換した。寡聞かも知れないが、国内市場出荷台数が1カ月で4,000万台を超えるのは初めてのことである。「コロナ不振」に対する反動とも言える。
4月の新車販売台数も2018年6月以来22カ月ぶりにプラスに転換した。同月の販売台数は207万台で、前年同月比で4.4%増えた(図4を参照)。中国政府の自動車産業支援策が奏功したと見られる。
中国経済の回復によって、日系自動車メーカー各社も恩恵を受けている。前年同月に比べ、今年4月、日産が1.1%増、マツダ1.0%増、トヨタ0.2%増と、日系各社の現地販売台数は伸びている。ホンダは▼10%で、まだプラス転換にならなかったが、3月の▼50.8%に比べマイナス幅が大きく縮小している。
出所)中国信通院、中商産業研究院のデータにより筆者が作成。
出所)中国汽車工業協会の発表により筆者が作成。
消費サイドより生産サイドの回復が鮮明に
消費サイドより生産サイドの回復がより鮮明になっていることは、今の中国経済の特徴だ。国家統計局の発表によれば、今年4月の全国鉱工業生産は前年同月比で3.9%増となり、1~2月▼13.5%、3月▼1.1%に比べれば急ピッチで回復していることがわかる(図2を参照)。
出所)国家統計局の発表により筆者が作成。
統計によれば、今年4月に鉱工業全業種41のうち28業種、612種目製品のうち60%の製品生産がプラス転換を実現できた。特に、ハイテク製造業の増加が際立ち、前年同月比で10.5%増となっている。光ケーブルなどハイテク製品の生産の伸び率は40%を超える。
工業生産のプラス転換は電力消費の増加からも裏付けられる。今年4月の電力生産は0.3%増、うち工業用電力生産が1.6%増だった。
今後、消費の回復と大規模なインフラ投資の実施によって、鉱工業生産の一層の増加は期待される。
勿論、中国をめぐる国際環境の悪化やコロナの影響など不確定要素がなお多く、中国経済の行方は決して楽観できるものではない。
しかし、主要国の中で一番早く「コロナショック」から脱却したため、中国経済は今年第2四半期からプラスに転換し、通年では2%前後の成長が実現できると思う。
今年、日米欧先進国の経済成長率がいずれも大幅なマイナスに陥ると予測される中、中国のプラス成長は一層の台頭を意味する。新興国中国の持続的な台頭は、覇権国アメリカにとって大きな脅威と見られる。今熾烈さを増している米中対立は、その背景には正に覇権の争奪という本質的な部分がある。(了)