menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ

経済・株式・資産

第42話 次の債務危機は本当に中国なのか?

中国経済の最新動向

 最近、中国経済の減速傾向が続くなか、多くの国際機関や投資家及びアナリストは、中国の地方債務問題の深刻さを指摘し、次の債務危機は中国で発生する確率が高いと予測している。中国の債務情況の実態はどうなっているか?債務危機は本当に発生するか?国内外の関心が高まっている。
 
 中国はいったいどのぐらいの債務を抱えているか?中国の政府債務は国債、外債、地方債に分けられている。国債について、政府統計によれば、2012年末時点の残高は7兆7,565億元(1元=16.6円)で、同年DDP(51兆9,322億元)の約15%を占めている。国際的に見れば、極めて低い水準にとどまっており、国家レベルの債務危機の発生は考えにくい。
 
 対外債務の残高は2012年末時点で7,370億ドルとなり、同年GDPの9%を占め、外貨準備高3兆3,116億ドルの22.2%に過ぎない。デフォルト(債務不履行)に陥る可能性はまずない。
 
 にもかかわらず、なぜ多くの国際機関は中国の債務危機の発生を警告しているか?それは中国の地方債、つまり地方政府が抱える債務が問題視されているからである。
 
 現在、中国の地方債の規模はどのぐらいあるだろうか?地方債は国債、外債と違い、公式統計がなく、その実態は誰も正確に把握することができない。国家審計署の責任者は、地方債の規模は15~18兆元になると推測しているが、項懐誠・元財務相は、20兆元超と見ている(「人民日報」海外版)。どちらも推測に過ぎない。
 
 仮に地方債規模を20兆元超とすれば、GDPに占める割合は39%となる。国債と加算すれば、GDPに占める政府債務の割合は54%にのぼる。それでも日米欧主要国に比べ、債務率はかなり低い。現時点では債務危機が発生する確率はゼロに近いと言っていい。「次の債務危機」は中国だという国際機関の論調は「誇張的」と言わざるを得ない。
 
 しかし、国際機関の警告に耳を傾けるところも多い。1つは中国の地方政府の融資ルートは多様化、隠ぺいの特徴を持つため、正確な債務規模は把握しにくい。実際の債務規模は20兆元より高くなっても低いことはないと見られる。
 
 第二に、地方債急増のリスク。20兆元の地方債のうち、7割以上は金融危機以降の4年間に増加したものと見られる。このまま膨張すれば、危機発生の確率は確実に増える。
 
 第三に、地方政府の返済能力が疑問視される。ここ数年、高度成長に伴い、中国の財政収入も二桁増加が続いている。現時点では中央政府も地方政府も債務返済能力に問題がない。懸念されるのは、これから中国経済の緩やかな減速局面に入り、政府財政収入の伸び率の鈍化が予想される。政府の債務返済能力がだんだん弱まっていくのは、誰の目から見て明白である。
 
 第四に、地方債の多くは土地を担保とするものである。地方政府は期限通りに返済できるかどうかは、不動産価格の上昇か下落かに大きくかかわっている。仮に不動産バブルが崩壊すれば、多くの地方政府はデフォルトに陥る可能性が大きい。その際、債務危機をきっかけに、金融不安が広がるリスクは急速に高まる恐れがある。
 
 要するに、中国には今すぐ債務危機が発生する可能性はないが、投資牽引型成長方式を是正し、地方債務規模の膨張に歯止めをかけなければ、将来的には債務危機の発生は十分有り得る。特に不動産バブルが崩壊する時、債務危機発生の確率が高い。
 
 現在、中国政府も地方債リスクに対する危機感を強めている。5月6日、李克強首相が主催する国務院常務会議(閣僚会議)は、「地方債のリスク管理を強化する」方針を打ち出した。中国は本当に債務危機の発生を防げるか。それとも米国のサブプライム住宅ローン危機や欧州債務危機の徹を踏むか?中国債務問題の行方を注意深く見守りたい。

第41話 PM2.5、鳥インフルエンザ、大地震-習近平体制の多難の船出前のページ

第43話 中国の最も豊かな地域は上海ではなく天津だ!次のページ

関連セミナー・商品

  1. 沈 才彬(しん さいひん)「爆発する中国経済」CD

    音声・映像

    沈 才彬(しん さいひん)「爆発する中国経済」CD

関連記事

  1. 第14話 なぜ朱鎔基前首相は 日本の子供たちの行動を絶賛したか?

  2. 第47話 中国経済はハードランディングするか?

  3. 第112話 なぜ日中は第三国市場で競争から協力へ方向転換か?

最新の経営コラム

  1. 第36講 カスタマーハランスメント対策の実務策㉓

  2. 第132回 弛まず進める製造装置の改良で競争力向上はエンドレス(やまみ)

  3. 第181回 コミュニケーション上手になる仕事の進め方104『相手に好かれる聴き上手のスキル』

ランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

新着情報メール

日本経営合理化協会では経営コラムや教材の最新情報をいち早くお届けするメールマガジンを発信しております。ご希望の方は下記よりご登録下さい。

emailメールマガジン登録する

新着情報

  1. キーワード

    第30回 デリバリーロボット・Marble
  2. 戦略・戦術

    第60回 『地方の活性化・中小企業の活性化はこうする!?』地方の活性化は、人口商...
  3. ブランド

    vol. 6 名称が作るブランド・イメージとアイデンティティ伊ブランド「ヴェルサ...
  4. マネジメント

    第52回 経営の多角化への視点~谷口工務店 谷口社長の挑戦~
  5. コミュニケーション

    第62回 「はじめまして」の挨拶メールで心をつかむ
keyboard_arrow_up