4月8日、中国武漢市は新型コロナの収束に伴い、2ヵ月半ぶりに都市封鎖が解除された。これによって、市民生活や経済活動が通常に戻る。1000万人の武漢市民が大きな犠牲を払い、勇敢に未曾有の疫病と戦ってそれを打ち負かした結果である。武漢封鎖解除に象徴されるように、中国は主要国の中で一番先に新型コロナの封じ込めにまずまずの成功を収めた国となっている。
現在、中国では企業の大半が事業を再開し、多くの従業員が仕事に復帰した。世界経済が後退局面に入るなか、中国経済に「回復の兆しが見られ、希望を与える内容だ」と、国際通貨基金(IMF)は4月6日にこうした見解を示している。
中国進出日系企業も最悪の状況から脱却し、事業を再開して経営正常化に向かい大きく前進している。一方、新たな課題も浮上している。本稿は中国進出日系企業の現状と課題を報告する。
新型コロナの収束を迎える中国
現在、中国本土ではコロナ感染が収束局面を迎えている。次頁図1に示すように、新たなコロナ感染は3月11日以降、入国者を除く中国本土感染者は1桁に止まり、コロナ発生地武漢市所在の湖北省では4月4日以降、新たな感染者ゼロの状態が続いている。
4月12日現在、中国本土の感染者は累計で8万2,160人、死者3,341人にのぼるが、その内、7万7,663人が既に回復し退院したのである。入院中のコロナ患者数は1,156人まで激減し、5月末までほとんどの患者が退院する見通しとなっている。
但し、新たな問題が浮上し、これは入国感染者の急増だ。3月中旬以降、中国の新たな感染者のほとんどは入国者であり、4月12日まで累計で1,378人の入国者が感染を確認された。いかに水際対策を徹底させるかが今、中国政府の喫緊の課題となっている。
コロナの終息について、前回のメールマガジンで、中国呼吸器分野の権威・鐘南山医師は「各国が国レベルでの対策を講じる」ことを前提に、中国では「6月下旬に終息するだろう」と予測していると述べたが、この予測の前提は今、崩れている。6月下旬に終息する確率は低く長期戦の覚悟が必要と思われる。
出所)中国衛生当局4月13日の発表により沈才彬が作成。
「大恐慌以来最悪の不景気」に陥る世界経済
一方、中国本土のコロナ感染拡大の抑え込みと対照的に、感染拡大の震源地は今、欧米諸国に移っている。
米ジョンズ・ホプキンス大学の集計によれば、4月12日現在、世界のコロナ感染者は180万人超、死者が11万人を超えるが、感染者2万人超の14カ国のうち、欧州が8カ国、米州が3カ国を占める(図2)。死者2000人超の10カ国のうち、8ヵ国が欧米諸国だ(次頁図3を参照)。
出所)米ジョンズ・ホプキンス大学4月12日時点の集計。
出所)米ジョンズ・ホプキンス大学4月12日時点の集計。
IMF専務理事ゲオルギエワ氏は4月9日、今年の世界経済は「(1929年)世界大恐慌以来、最悪の不景気に陥る」と予測し、「2020年の世界経済が大幅なマイナス成長に落ち込むことは明らかだ」と述べている。また、「170ヵ国以上で、1人当たり所得が減少に転じ、中でも新興国や途上国の経済に深刻な打撃を与える」と、IMFは懸念を示している。
一方、アメリカ労働省は同日に、先週1週間で失業保険が660万6000件を新たに申請されたと発表。コロナ感染拡大で経済活動が停滞し始めた先月中旬からの3週間で、申請件数は合わせて1600万件を超える。言い換えれば、アメリカ生産年齢人口の1割に相当する人々が新型コロナのせいで仕事を失っている。
こうした未曽有の景気後退局面に入っている中、コロナ感染拡大の抑え込みにまずまずの成功を勝ち取った中国は、経済回復の兆しが見られ、世界経済に希望を与えている。
中国企業の事業再開率 中小72%超 大手90%超
コロナの抑え込みに伴い、中国企業の事業再開が活発化している。国家統計局の発表によれば、今年3月の製造業購買者指数(PMI)は52.0で前月より16.3ポイント高く、非製造業PMIは52.3で前月より22.7ポイント高い。両者とも好不況の境目である50を上回り、経済の回復を裏付けている。
勿論、3月PMIの急上昇は前月の急落に対する反動の側面があり、経済活動が既に正常の水準に戻ったと意味しない。しかし、企業の事業再開は確実に増えており、経済正常化へ大きく前進したことは確かだ。
政府当局の発表によれば、3月末まで中小企業の再開率は72%超、大手企業が90%超となっている。特に石油・化学、通信、電力、交通輸送分野の事業再開率は95%を超える。
一方、中国進出の外資系企業も事業再開を加速している。中国商務省のデータによれば、今年3月末まで、大手外資系企業8,756社のうち、再開率が70%を超える企業が67%に上り、再開率50%未満の企業は14.5%に過ぎない。業種から見れば、製造業の企業は回復が速く、7割以上の企業は稼働率が70%を超えているという。
中国経済の回復は日系企業に希望を
コロナ収束に伴い、中国経済の回復の兆しが見えてきた。予測によれば、今年1Qの中国経済成長率は▼9%前後だが、2Qは前年並み、3Qからはプラスに転じ、再び成長の軌道に乗ると見込まれる。
自動車産業を例にすれば、中国経済の回復はトンネル走行中の日本企業に希望を与えている。
3月末時点で、トヨタをはじめ日本自動車メーカーの欧米工場の半数が生産停止となっている。4月1日からは大手8社が日本国内でも相次いで生産休止と発表している。タイ、インドネシア、マレーシア、ベトナム、フィリピンなどASEAN諸国では日系各社が生産休止や減産に追い込まれている。
現在、主要国の中で、日本企業の新車生産と販売が好転している国は中国だけである。日産は、3月13日に中国湖北省襄陽(じょうよう)市の四輪車工場で生産を再開し、中国にある全ての完成車工場を復旧。販売店なども3月末までに90%以上が業務を再開した。ホンダが、新型コロナの震源地となった湖北省武漢市の四輪車工場で、今月中に通常時の生産体制に戻すことを目指すなど、正常化に向けた動きが進んでいる。
新車販売の実績を見ても、日系各社の事業活動は急速に回復していることがわかる。今年3月、トヨタ自動車など5社合計の新車販売台数はで前年同月比で約4割減の25万3423台となり、約8割減の5万3320台だった2月から減少幅が大幅に縮小した。そのうち、トヨタの3月販売台数は10万1800台で、前年同月比15.9%減にとどまり、5社のうち減少幅が最も小さかった。
予測によれば、中国における日系各社の新車生産や販売は早ければ第2四半期、遅くても第3四半期から前年並みの水準に回復する見通しだ。
中国進出日系企業の新たな課題
中国本土のコロナ収束に伴い、日系企業の経営環境は大幅に改善されたが、新たな課題も浮上している。
まずはコロナの「パンデミック」(世界的な大流行)によって、中国も日本も相手国からの入国禁止や隔離措置を取っているため、日系企業の日本人管理職や技術者の職場復帰に支障が出ている。現地出張もほとんど途絶えている。
2つ目は国際物流の渋滞及び空運・海運など輸送コストの大幅上昇によって、日系企業の経営を圧迫している。
3つ目は日米欧サプライチェーンの断裂によって、日系企業に必要な原材料や中間財の輸入が困難となっている。
4つ目は深刻な外需不振だ。世界経済は後退局面に入り、「大恐慌以来、最悪のマイナス成長」に陥るため、世界的な需要不振が起きている。中国進出の日系企業の多くは輸出向け企業であり、海外からの注文キャンセル又は大幅な減少が長く続けば、致命傷となりかねない。
これらの新たな課題をいかに解消し、未曾有の危機をどう乗り越えるか?中国進出日系企業のリスクマネジメント手腕が問われている。(了)