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採用・法律

第92回 『秘密録音は証拠として認められるのか?』

中小企業の新たな法律リスク

 生活用品やインテリア雑貨のお店を経営している高橋社長が、賛多弁護士のところへ質問をしに来られました。

* * *

高橋社長:賛多先生、以前は、カスタマーハラスメント(以下「カスハラ」と略します。)対応の件で、大変お世話になりました(第45回 カスハラの放置は許されない!)

 

賛多弁護士:ああ、あの後、厚生労働省から、カスハラ対応のマニュアル(注1)が公表されましたね。

 

高橋社長:はい。あのマニュアルの「ハラスメント発生状況の迅速な把握」の項目で、「必要に応じて電話を録音する、接客の状況を録画する。」と書かれていますね(マニュアル41頁)。

 

賛多弁護士:はい、そうですね。

 

高橋社長:以前にお伝えしたとおり、うちの店舗の防犯カメラは録音もできるので、カスハラ対策としての録音・録画は問題ありません。

 

賛多弁護士:そう仰っていましたね。では何が問題なのですか?

 

高橋社長:うちの取引先との間で納品トラブルがあり、その話し合いの席で、先方がこちらに断りもせず、録音をしているような気配があったのです。

 

賛多弁護士:ああ、なるほど。顧客との間の話ではなく、取引先との間で、録音が許されるのかというご質問ですね。

 

高橋社長: はい。あのマニュアルには、「ハラスメントは取引先企業との間でも生じる」と書かれていました。


先方が、ハラスメントの記録のために録音していたのだとすれば、うちも対顧客のハラスメント対策で録音・録画をしている手前、先方が録音をしていても許さないわけにはいかないのかなあと思ったりもしまして。

 

賛多弁護士:きちんとした法律上の定義はありませんが、いわゆる秘密録音とか無断録音といった、会話の相手方の同意を得ない録音の問題ですね。

 

高橋社長:はい、このような秘密録音は許されるんでしょうか。

 

賛多弁護士:話が違ってくるので、その取引先との会話が営業秘密に関するものではなかったかを確認したいのですが。

 

高橋社長:はい、営業秘密に関するものではありませんでした。
     お恥ずかしながら、カスハラ対応マニュアルを見ていて、少しドキッとしたくらい、どちらかというと、うちが先方のミスを責めるという話し合いでした。

 

賛多弁護士:そうなると、先方にとってはその秘密録音は、ハラスメントの証拠を保全するという意味を持っていたかもしれませんね。

 

高橋社長:秘密録音でも、例えば、パワハラ裁判の証拠になるのでしょうか。

 

賛多弁護士:はい。民事訴訟では、原則として証拠として認められます。
有名な裁判例(注2)で、「その証拠が、著しく反社会的な手段を用いて人の精神的肉体的自由を拘束する等の人格権侵害を伴う方法によって採集されたものであるとき」はその証拠は証拠として認めないとされているのですが、その裁判例では、酒席での会話を話者に無断で録音したテープについては、秘密録音の手段方法が著しく反社会的とは認められないとして証拠として認めました。

 

高橋社長:そうですか。じゃあ、取引先の秘密録音は裁判の証拠として認められる可能性が高いですね。

 

賛多弁護士:そうですね。最近の裁判例でも、証拠として認められなかった例はごく例外的な場合のもの(注3)しかありませんので、基本的には、民事訴訟では秘密録音も証拠として認められると考えて頂いた方がよろしいですね。

 

高橋社長:今は簡単に録音できるからなあ。
いつ相手に録音されていても恥ずかしくないような言動をするように気を付けます。

* *

 秘密録音については、例えば、会話の内容を第三者に漏らしたり、SNSにアップするなどの使い方をする場合は、プライバシー侵害や名誉毀損等で不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)の対象となり得ますが、例えば、パワハラ訴訟で証拠として用いるような場合には、その録音の手段方法が著しく反社会的ではない限り、証拠として認められます。
  カスタマーハラスメントは取引先企業との間でも生じるとされていることにもご注意ください。

(注1)「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(厚生労働省 令和4年2月25日公表)
        https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_24067.html
        https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf
(注2)東京高判昭和52年7月15日判例タイムズ362号241頁
(注3)東京高判平成28年5月19日

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 木元 有香

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