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第154回 弁護士費用の損害賠償請求

中小企業の新たな法律リスク

スーパーマーケットを経営する伊藤社長が、賛多弁護士のところへ法律相談に訪れました。

***

伊藤社長:先日は、土地の売買契約書を作成していただきまして、ありがとうございました。

 

賛多弁護士:こちらこそ、ご依頼いただきましてありがとうございます。不動産の売買契約は、金額が大きいですし、複雑な内容となることが多いので、契約書の作成は専門家に依頼していただくことが良いと考えます。

 

伊藤社長:以前お伝えしたとおり、土地を購入し、その土地の上に店舗を新築し、2号店を開業する予定です。

手付金の支払を終え、残代金の支払準備もできているのですが、決済日になっても買主が土地を引き渡してくれないのです。

 

賛多弁護士:それは困りましたね。第三者に処分されてしまう可能性がありますので、処分禁止の仮処分を申し立てること、また土地明渡請求などの訴訟を提起することが考えられます。

 

伊藤社長:やはり、保全や訴訟の手続をする必要があるということですね。これらの手続の詳細については別途ご相談させてください。

 

賛多弁護士:分かりました。

 

伊藤社長:1つ気になることがあります。保全や訴訟の手続を弁護士に依頼する場合、弁護士費用が必要ですよね。この弁護士費用は、売主が売買契約に従って土地を引き渡していれば発生しなかった費用であると思うのですが、売主に支払ってもらうことはできるのでしょうか。

 

賛多弁護士:保全や訴訟に要する弁護士費用を損害賠償請求したいということですね。過去の裁判例に照らすと、今回のようなケースでは難しいと考えます。

その理由として、①契約当事者の一方が他方に対して契約上の債務の履行を求めることは、不法行為に基づく損害賠償を請求するなどの場合とは異なり、侵害された権利利益の回復を求めるものではなく、契約の目的を実現して履行による利益を得ようとするものであること、

②契約を締結しようとする者は、任意の履行がされない場合があることを考慮して、契約の内容を検討したり、契約を締結するかどうかを決定したりすることができること、

③土地の売買契約において売主が負う土地の引渡しや所有権移転登記手続をすべき債務は、同契約から一義的に確定するものであって、上記債務の履行を求める請求権は、上記契約の成立という客観的な事実によって基礎付けられるものであることが挙げられます(最高裁令和3年1月22日第三小法廷判決、裁判集民265号95頁参照)。

 

伊藤社長:それは残念です。弁護士費用を損害賠償請求することは、一般に認められていないのでしょうか。

 

賛多弁護士:いえ、認めている裁判例もあります。例えば、交通事故のような不法行為による損害賠償請求の場合や、労働者の就労中の事故に関する使用者に対する安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求の場合です。

 

伊藤社長:なるほど。本件について今後の対応を検討したいので、賛多弁護士に依頼する場合の御見積書をいただけますでしょうか。

 

賛多弁護士:分かりました。追ってお送りいたします。

***

訴訟追行に要した弁護士費用を損害賠償請求することができるかについては、過去の裁判例の蓄積により、事件類型ごとに一定の傾向があります。そのため、当該事案において請求が認められるかについて、事前に検討することが望ましいといえます。

 

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 小杉太一

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