本日は、「生ビール500円から550円、販売量前年並みを維持」を生んだスタッフ参加の「値上げ会議」&「従業員も納得」だからこそきちんと伝わる「お客に対する報・連・相」というテーマです。
お店の利益はお客さまからしか生まれません。
ですから、お客さまをどのように増やしていくかが経営そのものなのです。
しかし、お客さまの来店数を増やすことで、多くの商品を買ってもらえるかというと、決してそんなことはありません。
商品を買うかどうか。全ての決定権はお客さまが100%持っていて、売る側は0%なのです。
お客さまが全てを決めているのです。
これは経営をする上で絶対原則です。例外はありません。
全ての決定権を持っているお客さまから商品を買ってもらうには、競争相手以上にお客さまに好かれて、競争相手以上にお客さまから気に入られて、競争相手以上にお客さまに喜ばれて、忘れられないようにしなければなりません。
そのためには、徹底してお客さまに報・連・相を行うのです。
新入社員の研修に参加すると、例外なく報・連・相というのが出てきますが、これは「上司に対して、報告、連絡、相談しましょう」と学びました。
しかし、販売の仕事をする人は、お客さまに報・連・相をするべきなのです。
報告とは、経緯や結果を知らせること
連絡とは、情報を正しく関係者に知らせること
相談とは、迷ったときに意見を聞くこと、伝えること。
先日、研修で「お客さまの不便を解消する」というテーマでワークを行いました。
体験発表で「お客の立場で嫌な思いをしたことはありませんぁ」というテーマで話をしてもらったところ、一人の男性がこんな発表をしてくれました。
「おかしいなぁ」と感じたが、何も触れず食事を済ませた
「こんなことがありました。お客さまにお食事に誘われてあるお寿司屋さんへ行きました。
ご主人は50歳前後で愛想が良く、落ち着ける雰囲気のお店だったので、それから何度か個人で食事へ行きました。
ある日のことです。カウンターに座り、生ビールを2杯注文しました。
いつもは、生ビールを注文するとジョッキでビールが出てくるのですが、今回はグラスで出てきました。
生ビール中と生ビール小を間違えて注文したかな?と思ったので、メニューを取り、確認しました。
表紙の付いたメニューを開いてみると、筆文字で「生ビール中 550円」と書いてあり、生ビール小の表記はありませんでした。
「おかしいなぁ」と感じましたら、そのことには何も触れずに食事を済ませました。
ある時、ニュースでビールの仕入れ価格が上がっていたことを知りました。
ビールをジョッキからグラスに替えて価格を据え置いたのだと思いました。
店主はビールを値上げすると客離れが起こると思ったのでしょうか。
私は、お店の対応に不信感を覚えました。と同時に、会計時に割高な印象を感じたことを思い出しました。」
お客さまに嫌な思いをさせて、嫌われてしまっては、せっかく築いてきた信用も台無しです。
ビール業界全体の値上げの現状を分かりやすく書いて、分かりやすいところに掲示しておけば、お客さまとの話題づくりの一つにでもなったでしょう。
お客さまへの「報・連・相」が客離れを食い止める大切な取り組みとなるのです。
値上げ対策について良い事例があるので紹介しましょう。
大阪に170年以上続く日本一古いおでん屋「たこ梅」というお店があります。
日本橋・道頓堀の本店と梅田の北店、分店、合わせて3店舗を営んでいます。
値上げ対策について会議での内容を教えていただきました。
「毎月の定例会議でビールの値上げについて取り上げ、まず現状の把握を、ということで、前年のビールの年間販売数量と金額を表にまとめました。
値上げをしない場合はどうなるのか。
1年で、どれだけのコストが発生し、店の年間利益がどれだけ減るのかを具体的に数字で分かりやすく伝えました。
これらの情報を共有して意見交換しました。スタッフみんなが積極的に考えを話してくれました。
「ビールを値上げしないことによって何が起きるのか」
「利益を減らさないためにはどうすればいいのか」
「トントンにするには、どれだけの量を販売すればいいのか」
「ビール以外のドリンクを積極的にすすめていくのか」
「ビールを値上げした方がいいのか」
「販売価格を据え置くことでお客さまの満足度は高まるのだろうか」
その結果、ビールの価格を値上げすることに決めました。
ただし、仕入れ価格が上がったから「何でもかんでも値上げします」というのではありません。企業努力をして、できることは精いっぱいやる、それで値上げせずに解決できることもあるはずです。たこ梅のお客さまがビールの価格が少々値上がりしたからといって「来店してくれる回数が減るだろうか」という問いがありましたが、全員「それはない!」と意見が一致しました」
「申し訳ない気持ちでビールを出されておいしいか」
これに対して岡田社長は、会議の様子を聞きながら、一点懸念していました。「スタッフがこの値上げにどういった感情を持っているのか」質問を投げ掛けました。
その上で、「お客さまにどう伝えたい?」と尋ねると、スタッフの誰かが「すみません、今回、仕入価格が上値上がりしたので改定させてもらいます」と言いました。
すみません??
申し訳ない気持ちがあるの?
値上げは申し訳ないことなの?
申し訳ない気持ちでビールを出されたおいしいかな。
どう思いますか。私はすごく違和感があります。
何のために値上げをするのでしょうか。
社員が楽しく仕事ができる。安心して会社で働くことができる。
そのために利益は必要なのです。
私はしっかり値上げに対して向き合うべきだと考えています。
値上げをしないと会社の利益が減る。
ずっと今月の利益はどうだろう?と心配していて、仕事は楽しい?
だから謝罪的な言葉を使い、お客さまに伝えることはやめましょう。
・ごめんなさい
・心苦しいですが
・申し訳ありませんが
値上げに対してネガティブにならなくてもいいのです。
前向きな言葉で「より一層頑張ります!」「よりサービスを向上させます」とポジティブに対応すればいいのです。
あとはどう伝えるかだけです。
・POPで貼りだしてもいい
・フェイスブックで告知するのもいい
・接客中の会話で伝えるのもいい
・トイレに業界の新聞記事をはるのもいい
値上げすることで、実際に売り上げが減少するのか。増えるのか。どうなるかやってみないと分からない。
私たちが楽しく仕事をしてお客さまに喜んでいただく、これが本来の姿で、商売に対する考え方がはっきりすれば、あとはお客さまへ伝えるだけです。
「満足度の前に不便解消を目指せ!」
スタッフの多比羅さんは「値上げ以上にサービスをより向上させて、お客さまに喜んでいただき、満足感を感じてもらえれば間違いなくファンは増えていくと考えています。
そこで私たちは、この不を解消する(お客さまに嫌な思い、不便をかけていることは何ですか?)シートをフル活用しています。
このシートは、お客さま目線で物事を考えるのにとても役立っているツールです。
この不の解消シートを各店で毎月ミーティングをして更新しています。
店に貼って確認して、気付いた時に書き込んでいきます。
2ヵ月連続同じテーマが残ることもあります。
「毎日お客さんの立場ならどうだろう?」と考えることで、気にしていなかったことに気付いたり、「また不便をかけたなあ」と振り返ったりできるので大変役に立っていると言います。不の解消シートを使ってお客さまに好かれて、気に入られて、喜ばれる店づくりを実践しています」
以上のようにたこ梅ではスタッフ会議を行い、商売の目的や値上げに対する考えについて共有することとともに、不の解消シートを活用し具体的な取り組みを始めました。
生ビール500円から550円へ値上げして6ヶ月経った後、たこ梅のビール販売数量は、昨年の実績と、ほぼ同じ販売数量を達成していました。
最後に、年内価格凍結宣言!と大々的に広告している大手スーパーの記事を新聞で読みました。「値上げで客足が遠のくのが怖い」とか「ライバル店との競争のため」などさまざまな理由が書かれていました。しかし、年内と期限を設定しているところをみると値上げは必ずおこなわれるでしょう。
たこ梅の取り組みから、値上げをネガティブに捉えるのではなく、商売の目的を再認識することや、働く人たちとどのような未来を描いていくのかを共有する良い機会になると私は感じています。
働く人たちが楽しく仕事ができること。安心して会社で働くことができること。
そのために利益は必要なのです。
この機会に値上げに対して積極的に向き合い、社員とお客さまと一緒になって考える良い機会だと私は信じています。