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採用・法律

第44回 『中小スタートアップが大企業と連携・取引する際の注意点』

中小企業の新たな法律リスク

太田社長が、昨年に立ち上げた新規事業について、賛多弁護士に相談しました。
 
* * *
 
太田社長:今年はコロナという予想もしなかった事態が生じました。ただ、我々のようなIT・WEB業界にとっては、テクノロジー化の推進は追い風になっています。アプリ会社とは別に、昨年、画期的な技術を用いたスタートアップを新たに設立していましたが、ここ最近いろいろと動きが出始めています。
 
賛多弁護士:それは良いことです。具体的にどのような案件が進んでいるのですか。
 
太田社長:大企業と研究開発を行う話が出ています。また、各所で注目いただいており、大手企業と提携して出資を受ける話も出始めています。ただ、このまま取引を進めて良いのか若干不安に感じています。 
 
賛多弁護士:どのような事で、不安を抱かれていますか?
 
太田社長:大企業側から提示された契約内容が、我々にとって不利ではないかと思うのです。ただ、スピード感を持って事業を進める必要がありますし、ある程度はやむを得ないとも思っています。
 
賛多弁護士:たとえば、どのような内容ですか? 
 
太田社長:まず、共同研究を行うか協議するにあたっては、お互いの技術・アイデアといった営業秘密に関する情報を出し合うので、相手方とNDAを締結し、開示された情報を利用したり流出させたりしないようにします。ところが、当初、NDAの締結なくして話を進められそうだったので、まずはNDAを締結しましょうと提案しましたが、相手方は当社が開示した情報を自由に扱えるような条項を提示してきたのです。
 
賛多弁護士:貴社は技術を売りにする会社ですから、開示された技術を不当に利用されてしまうリスクがありますよね。貴社としては、経産省のホームページ上に公開されている秘密保持契約書ひな形を提示すれば、相手方としても、国がお墨付きを与えた内容であるとして応じてくれることが期待できます。
 
太田社長:他にも、出資を検討していただいている別の会社は、投資契約において、当社や代表の私に対して、株式の買取りを請求できる条項を提示しています。
 
賛多弁護士:買取請求条項は、出資者がリスクヘッジのために資金を回収できるようにするものですが、代表者個人が買取請求先となると、万が一の場合に買取資金を捻出する必要があり、太田社長としては出資を受けることに躊躇してしまいますね。
 
太田社長:相手方からは、実務的には買取請求権を行使することはないので大丈夫であると言われていますが。
 
賛多弁護士:ただ、買取請求権を行使しない代わりに、別の要求を求められる可能性は否定できず、全体として、貴社が不利益を被る可能性があります。
 
太田社長:相手方の知名度が高いために、当社としても強気に交渉することが難しいのです。
 
賛多弁護士:たしかに、契約内容は当事者間の交渉力の高低に依存します。しかし、相手方の弱みを握りつつ、取引上の地位を高めて、相手方が不利益な条件を受け入れざるを得ないように仕向けることは、独占禁止法上、「優越的地位の濫用」という違反行為に該当する可能性があります。大企業とスタートアップの取引において「優越的地位の濫用」が生じうる事例が一部見られることは、公正取引委員会も問題視しているところです。
 
太田社長:我々のような交渉力のない会社がとりうる対抗策はあるのでしょうか。
 
賛多弁護士:当局(公正取引委員会)の窓口で相談して必要な是正措置を促す方法はあります。しかし、現実的には早期に資金を調達したいでしょうから、対案となる契約条項を提示してもよいでしょう。方法としては、買取請求権が発動する場合を限定してもらうことが考えられます。例えば、買取請求権の発動事由として契約違反が挙げられている場合は、契約違反が「一定期間に是正されなかった場合に限り」買取請求権を行使できるという限定を加えることで、相手方による買取請求の濫用を防止することができます。
 
* * *
 
昨今、中小スタートアップとの協業を行う大企業が増えていますが、その中には一部ではありますが問題のある取引が見られるところであり、今般、公正取引委員会は、そのような事例が独占禁止法上の違反行為にあたりうることを示しました。今後は、イノベーションを公正に促すことを目的として、スタートアップの取引慣行に関するガイドラインの策定が予定されています。このように経済政策の一環として取引スタンダードが策定される場合、国の後ろ盾に基づく「時流」をも味方に付けてビジネスを有利に進めることがより重要となります。
 
 
 
参考URL
経済産業省
秘密情報の保護ハンドブック 参考資料2
2020年6月30日 研究開発型スタートアップと事業会社のオープンイノベーション促進のためのモデル契約書ver1.0
 
公正取引委員会
2020年11月27日付 スタートアップの取引慣行に関する実態調査について(最終報告)
 
日本経済新聞
2020年11月25日付 「大手企業、新興の知財搾取」公取委が警鐘
2020年11月27日付 新興企業に不当要求、独禁法抵触も 出資者に警鐘
2020年11月28日付 新興企業への不当要求「独禁法違反の恐れ」 公取委
 
 

執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 古橋 翼

 

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