今年11月、4年に1度の米大統領選挙が行われる。中国は表向きでは外国の内政不干渉原則を表明しているが、内心ではトランプ氏の続投を熱望している。彼の続投は米国内と世界の分断を加速させ、米国のリーダーシップを危険にさらし、中国の覇権争奪に有利に働くからだ。
◆習近平政権の基盤強化助ける
トランプ政権の下で、史上最大規模を記録した対中貿易戦争、国家の力を動員してのファーウェイ制裁、中国の国民に屈辱を与えるファーウェイ幹部の逮捕、コロナ問題・香港問題・台湾問題・新疆ウィグル族問題・チベット問題をめぐる一連のチャイナバッシングは、一見すれば中国を窮境に追い込んだように見える。しかし同時に、中国国民の愛国心を喚起させ、習近平政権の求心力を強め、結果的には共産党政権の基盤強化を助けた。
だから、中国ではトランプを「川普(トランプ)同志」と呼んでいる。旧ソ連崩壊後、共産主義の世界的な退潮が見られた。中国でも共産主義のイデオロギーで13億人をまとめることが難しくなり、その代わりに愛国主義が台頭している。習近平政権にとって、トランプ大統領は愛国主義教育の絶好の反面教師だ。
◆独善外交は超大国の失墜を招く
トランプ政権は「米国第一」を掲げ、環太平洋自由貿易協定(TPP)離脱、気候変動パリ協定離脱、イラン核合意離脱、中距離ミサイル条約離脱、世界保健機構(WHO)脱退など一方的かつ恣意的な行動が相次ぎ、日本やEUをはじめ関係各国は翻弄された。
アフガンでの米兵らの戦争犯罪を捜査する国際刑事裁判所(ICC)当局者に対し、制裁の発動を可能にするトランプ氏の大統領令はヨーロッパ関係国を困らせている。
トランプ氏による唐突なロシアG7招待が示したように、米国の独善外交は同盟各国との亀裂を引き起こしている。米中貿易戦争は、世界の分断をもたらし、製造業のサプライチェーンに混乱を招き、日本を含む各国企業を困惑させている。いずれも米国の国際的地位に修復不能な禍根を残す可能性が高い。
トランプ氏が続投すれば、米国の独善外交が継続し、世界分断の加速及び超大国米国の威信と指導力凋落の加速を招きかねない。結果的には覇権を狙う中国の影響力拡大に繋がる。
◆米国内の分断を深刻に
トランプ政権の下で、米国は嘗てないほど国内分裂と分断が進んでいる。
新型コロナ対応の失敗及び白人警察の暴力による黒人死亡事件に対するトランプ氏の常軌を逸脱した言動は、国内分断・分裂を一層加速させ、彼の大統領資質さえ疑われている。
正にマティス前国防長官は今年6月に米誌に寄せた声明の中で指摘したように、「私の生涯において、トランプは国民を団結させようとせず、団結させるそぶりすら見せない初の大統領だ」。
特に、抗議デモに伴う暴動鎮圧に連邦軍投入も辞さないトランプの姿勢には、
マティス氏、パウエル元統合参謀本部議長など元軍最高幹部らが公然と反旗を挙げるのみならず、エスパー国防長官、制服組トップのミリ―米統合参謀本部議長など軍指導部もトランプと一線を画している。実に深刻な事態だ。
トランプが続投すれば、米国内の分裂・分断が継続し、超大国の凋落を加速させる。一方、習近平政権は喜ぶだろう。(了)