外食産業の競合化は激しくなっている。“独自化の飲食業”を目指し、独自の商品開発と独自の集客力を発揮する元気な会社が上野市場グループの長岡商事株式会社(東京都台東区)。同社は上野を中心に、居酒屋、ビアハウス、スペインレストラン、ショットバーの業態など、飲食店6店舗を経営する企業である。
東京の上野、湯島界隈の飲食店(50軒)が行っている食べ歩き、飲み歩きのイベント「食べないと飲まナイト」(半年に1回、5月で3回目)は盛況だった。このイベントの仕掛け人の一人が同社の前川弘美取締役である。同社の販売促進の中核になっているのが「下町バル ながおか屋」で、ヒットメニューの「骨付きラムチョップ」「パエリア」を提供する繁盛スペインレストランである。
下町庶民の感覚は「舌は肥えているが値段には厳しい」ところがあるので、「クオリティーは高く、コストはリーズナブル」の飲食店の戦略をとっている。1本380円の骨付きラムチョップは、月間3000本以上を売るヒットメニューで、店の認知度も急激に上がっている。フォークやナイフを使わない「かぶりつきスタイル」を提案している。客層は30代から40代を中心とした男女(6対4)で、女性同士の客も増えている。
同店の販促活動の一つに音楽イベントとのコラボ企画がある。恒例の音楽イベント「FUJI ROCK Festival」(新潟県の苗場で行われ、集客力15万人)に、骨付きラムチョップの店を出店し、3日間で一昨年が2400本、昨年が3600本を売りつくした。この勢いに乗って、ながおか屋主催の感謝祭「アフター・フジロック・パーティー」が50人くらい集って賑やかに行われる。
人と人のつながりで新規の顧客を増やすこともある。感謝祭には遠く、青森、沖縄、香港からも仲間が参加している。夏の音楽イベントで食べたラムチョップを思い出して上京した際、店に寄るというケースである。販促の特徴の一つが、顔の見えるチラシ(ポスター)戦略である。社員の顔写真と自分の言葉で書くことを徹底し、手づくり感と安心感をアピールしている。
前川取締役は「顧客に想いを伝えることが大事」だという。また、「顧客が何をして欲しいのか、顔を見て分かるようになれ」と言い続けている。仕事中、手を止めて顧客の顔を見て、元気に返事をすることが基本だと言い切る。販促の役に立つ発想について、「店と顧客との関係づくり」をより深めていくことに尽きるという。
上妻英夫