中国政府が12月7日から事実上「ゼロコロナ政策」を放棄し「ウイズコロナ」に転換した後、新型コロナは「コロナ津波」と呼ばれる感染爆発を迎えている。その背後には集団免疫を急ぎ、経済成長に全力投球する習近平政権の思惑がある。
◆1日感染者数3699万人、累計感染者数2.48億人
12月21日、中国国家衛生健康委員主催の内部電話会議が開かれた。筆者はこの会議の議事録を入手し、コロナ感染の最新情報の真相をキャッチした。
議事録によれば、12月20日の推計感染者数が3699.64万人、全国人口の2.62%を占める。コロナ感染が世界に前例がないスビートと規模で拡大している真実が明らかになった。そのうち、四川、安徽、湖北、上海と湖南など5省・市の新規感染者数の急増が特に目立つ。
12月1日~20日、全国の感染者数は累計で2.48億人に上り、全人口に対する感染率が17.56%に達する。
北京市と四川省の感染率が既に50%を超えている。ちなみに北京市に居る筆者の友人や知人のほとんどはコロナに感染している。北京市の人口は2189万人、四川省は8372万人だが、言い換えればこの2省・市だけで6000万人がコロナに感染し、日本全国人口の約半分を占める。
このほか、累計感染率が20%以上50%未満を占めるのは天津、湖北、河南、湖南、安徽、甘粛、河北など7省・市となっている。
累計感染者数が500万人を超える都市は北京、成都、武漢、天津、鄭州、重慶など6市となっている。
◆天津・四川・重慶・河北・湖北は感染ピークへ、北京がピークアウト
コロナ感染の推移から見れば、北京市は既に感染ピークを越え、新規感染者数は減少傾向にあるが、これから重症者数がピークを迎える。北京市はコロナ感染ピークアウトの最初の都市となる。
一方、天津、河北、四川、重慶、湖北など5省・市は今週に新規感染者数のピークを迎える。
地域から見れば、北京・天津・河北エリア、成都・重慶エリア、湖北・湖南エリアはコロナ感染爆発の段階にあるが、経済成長センターと呼ばれる長江デルタと珠江デルタ(広東省)、福建省及び東北地域、北西地域は相対的に新規感染率が低い。
◆今後3か月間、コロナ死者数は100万人突破の可能性
20日の推計感染者数が3699.64万人にのぼるにも関わらず、政府衛生部門は同日、全国31省・市・自治区で合計3101人のコロナ感染が新たに確認されたと公式発表している。政府内部会議で発表された感染者数の1万分の1にも及ばず、公式統計の信ぴょう性が完全に失ってしまった。
さらに、この内部会議の議事録では新規感染者数や累計感染者数が記載されているが、死者数と死亡率が発表されていない。公式発表では、12月20~23日に4日連続で新規コロナ死者がゼロだった。この公式発表の根拠は、「新型コロナ死亡」判断基準の変更にあると見られる。
これまで、中国ではコロナ感染して死亡したすべての死者を「新型コロナ死亡」に分類してきたが、政府は12月20日、新型コロナによる肺炎と呼吸不全で死亡した場合だけ「新型コロナ死亡」に分類すると説明した。新型コロナにかかって心・脳血管疾患、心筋梗塞などの基礎疾患が悪化して亡くなった場合は新型コロナの死亡者として認定しない。この判断基準の変更によって、数多くのコロナ死者が出たにもかかわらず、21日以降23日までの政府発表では、新規コロナ死者がずっとゼロだった。
実際、中国の新聞などマスコミやSNSでは、12月1日以降、著名人の訃報が急増している。北京市などでは火葬場に向かう車が長蛇の列を並び、火葬できない遺体が順番待ちをしている状態が続く。コロナ死者の多さが容易に想像できるだろう。
政府発表と現実の感染者・死者数のずれがあまりにも大きいため、中国人でさえ誰も政府発表の数字を信用しない。政府も公式発表を諦め、国家衛生健康委員会は25日、これまで毎日発表していた新型コロナウイルスの新規感染者数や死者数の情報について、同日から発表を取りやめると明らかにした。今後、下部組織の中国疾病対策センターが、「参考と研究のため」感染者数などの情報の提供を続けるという。
それでは、12月1日以降、中国では一体どれくらいのコロナ感染者が死亡したか?正確の統計がないが、筆者は日本のコロナ致死率に基づき試算をしてみた。
厚生労働省の統計によれば、今年12月24日現在、全国コロナ感染者数は累計で2,811万6,740人、死者数55,019 人で致死率が0.2%未満となっている。欧米諸国に比べれば、日本のコロナ致死率は極めて低い。
仮に日本のコロナ致死率0.2%を採用し試算した場合、12月1日~20日中国2.48億人コロナ感染者のうち、約50万人が既に死亡或いはこれから死亡することになる。全国的な感染ピークが春節前後に到来することを踏まえれば、向こう3カ月間の中国コロナ死者数は100万人前後にのぼる可能性がある。
◆来年3月まで「集団免疫」で経済成長に全力投球する習近平政権の思惑
これまで、習近平政権は「ゼロコロナ政策」を堅持してきたが、12月7日からこの政策を放棄し「ウイズコロナ」に転換した。まさに急転直下の政策変更だった。国民の心の準備ができて居らず、政府も「ウイズコロナ」実施のために必要な医療・薬品の供給システムを構築できていなかった。そのため、医療逼迫や医薬品不足の混乱が起き、結果的に死者急増に繋がっている。
それではなぜ中国政府は急転直下型の政策転換を実行したか? 次の3つの要素が考えられる。
まずは全国各地で発生した大規模な抗議行動に示された「ゼロコロナ政策」に対する民心の離反だ。2つ目は「ゼロコロナ政策」を支える国の財力が限界に達し、持続不能になってきた。言い換えれば、国民の支持と財的余裕という「ゼロコロナ政策」を支える2つの基盤はいずれも崩れた形となっている。「ゼロコロナ政策」を見直されなければならない段階に来ているからだ。
3つ目の要素は政治的な思惑だ。今年10月下旬に党大会が開催し、習近平総書記の3期目任期が決まった。政治的に「ゼロコロナ」を堅持する必要が無くなった。来年3月に全人代を経て習の側近である李強氏が首相に選出され、習近平3期目体制が正式に発足することになる。
習近平政権は新体制の下で、全力を挙げて経済成長を推進したい。しかし、「ゼロコロナ」やロックタウンのままでは、経済成長に全力投球ができない。
そこで、中国政府は「ゼロコロナ」から「ウイズコロナ」に急転換し、3月までに「集団免疫」を実現しようとしている。その結果、世界的にも前例がないスピードと規模で、コロナ感染が爆発的に拡大している。
「集団免疫」実現、経済成長に全力投球、実績作りを急ぐ習近平新体制の思惑は溶けて見える。習氏本人の賭けでもある。
中国の「集団免疫」が本当に実現されるか?「ゼロコロナ」で疲弊した中国経済は思惑通りに復調できるか? 賭けに出る習近平新体制には、厳しい試練が待ち受ける。