menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ

健康

第126回 水無海浜温泉(北海道) 干潮時だけ姿を現す幻の海中温泉

高橋一喜の『これぞ!"本物の温泉"』

■波打ち際の名湯

 みなさんは、山派だろうか? それとも海派だろうか? 筆者はどちらかといえば、山の温泉が好きだ。

 海岸沿いにも名湯は少なくない。しかし、しっぽりとした温泉情緒に欠けるところがある。たとえば、熱海温泉(静岡県)にしても、白浜温泉(和歌山県)にしても、かつてリゾート地としてにぎわっただけあって、「旅館」というよりも「大型ホテル」がメイン。温泉街も市街地化しているので、浴衣姿でカランコロンと下駄をならして歩く、という風情ではない。

 完全に個人的な好みだが、にぎやかな海岸沿いの温泉地よりも、ひっそりとした山あいの温泉地のほうが性に合う。
 
 一方で、海を見ながら温泉に浸かるのが、至福の時間であることも否定しない。海風を肌にじかに感じながら、はるか遠くに延びる水平線を望む。これぞ島国ニッポンならではの温泉スタイル。日本人として生まれてきてよかったと思う瞬間だ。

 海岸線に立つ大型ホテルのなかにも、「海を見ながらの湯浴み」を売り物にしているところは少なくない。しかし、これらの多くは湯の質がいまいちであるケースが多い。無理やり眺望がよい最上階に浴場をつくるものだから、温泉をわざわざポンプで引き上げなければならない。そうすれば、当然温泉の鮮度は悪くなるし、湯を循環ろ過させて使いまわすことになる。

 海を見ながら浸かるなら、波打ち際に湧く温泉にかぎる。泉源に近いから湯も新鮮だし、目の前が海だから視界を遮るものもない。そんな波打ち際の名湯のひとつが北海道にある。函館市から東へ約50キロ、太平洋に面した「水無海浜温泉」だ。

■入浴できるのは干潮の数時間だけ

 水無海浜温泉は、活火山である恵山の麓に湧く。恵山は618メートルという標高だが、赤茶けた荒々しい山肌からは白い噴煙が上がる。麓から見上げると、低山ながら大迫力である。

 そんな恵山の東麓に水無海浜温泉は位置する。しかし、タイミングが悪いと発見できないことがある。なぜなら、一日のほとんどの時間は海中に沈んでいるからだ。干潮の前後、数時間しか湯船は姿を現さない。時期にもよるが、入浴に適している泉温になるのは2時間程度。まさに「幻の温泉」なのだ。

 恵山岬灯台から海岸線へと降りていく。簡素な更衣室がある以外は何もない、ごくごく普通の海岸である。だが、一角に10人くらいの人だかりができていた。観光スポットなので見物客も多いのだ。

 事前に干潮の時刻を調べてから訪れたので、石とコンクリートでつくられた湯船は、しっかりと地上に顔を出していた。波打ち際の温泉というよりも、海の中に湯船があると言ったほうがいいだろう。だが、このとき入浴している人はいなかった。

 見物客がいなくなってから入ろうと待ってみたが、なかなか人手は途切れない。このままではいつまでも温泉に浸かれないので、観光客がいなくなった一瞬のすきを見計らって、エイヤと服を脱いだ。気軽に来られる場所ではないし、一日に数時間しか入浴可能時間がない。その上、波の高い日はそもそも入浴できないのだ。このチャンスを逃すわけにはいかない。

 すると、あとからやってきた中年男性が、「俺も入るぞ!」と言って服を脱ぎ出した。仲間がいれば勇気百倍である。なお、海水浴シーズンなど人が多い時期は水着着用のほうが無難だ。

■海と一体になれる絶景温泉

 透明の湯は、ちょうどよい湯加減。湯船の底から50℃ほどの源泉が湧き出しているので、干潮から時間が経ちすぎると熱くて入れなくなるとか。つまり、海水とブレンドされることで、いい湯加減になるというわけだ。

 湯船の底を見るとヒトデが生息していた。潮が引くときに取り残されてしまったのだろう。湯は海水ほど塩辛くはないが、すっかり「温泉の海」に浸かっている気分だ。海との一体感がすばらしい。

 入浴を楽しんでいる間にも何組かの見物客がやってきたが、湯船に入ってしまえばもう気にならない。羞恥心もなくなるくらい魅力的な温泉ということだろう。

 

第125回 木賊温泉(福島県) 生まれたての湯に浸かる川床の共同湯前のページ

第127回 川又温泉(北海道) 動物も入浴したくなる!? 鮮度抜群の野湯次のページ

JMCAおすすめ商品・サービスopen_in_new

関連記事

  1. 第1回 草津温泉(群馬県)――温泉地の横綱を支える「泉質主義

  2. 第60回 三内温泉(青森県) 秘湯や名湯にも負けない「温泉銭湯」

  3. 第143回 湯田中温泉(長野県) 松代藩の殿様も愛した「長寿の湯」

最新の経営コラム

  1. 相談7:含み損のある土地があるのですが、別会社で買うのがいいか、個人で買うのがいいか、どちらでしょうか?

  2. 第9回 注意しても部下が変わらないのはなぜか? ~原因は人ではなく仕組みにある~

  3. 第146回 地味ながら世のクラウド化の追い風を受けて高成長を遂げる サイバーリンクス

ランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

新着情報メール

日本経営合理化協会では経営コラムや教材の最新情報をいち早くお届けするメールマガジンを発信しております。ご希望の方は下記よりご登録下さい。

emailメールマガジン登録する

新着情報

  1. 仕事術

    第122回 テレビ感覚で使える超短焦点プロジェクター
  2. 社員教育・営業

    第79回「上手な話し方」話すことを楽しむ
  3. マネジメント

    第90回 失敗よりもしてはいけないもの
  4. 税務・会計

    第95号 BS「格言」 其の四十
  5. マネジメント

    第15回 社員の幸せを考えるブレない経営とは?~事例:ケーズデンキ
keyboard_arrow_up