menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ

健康

第125回 木賊温泉(福島県) 生まれたての湯に浸かる川床の共同湯

高橋一喜の『これぞ!"本物の温泉"』

■名湯は川沿いにあり

 前回(第124回)のコラムで取り上げた湯ノ花温泉から、直線距離で5キロほど。南会津を代表する温泉地がもうひとつある。今から約1000年前、平安時代に発見されたと伝えられる木賊(とくさ)温泉だ。

 数軒の宿で形成される小さな温泉集落は、湯ノ花温泉に負けず劣らず素朴な雰囲気で満ちている。宿や民家のほかには、小さな商店が数軒ある程度。にぎやかな温泉地もよいが、人が少なくて、静寂に包まれた温泉地も居心地がよい。

 木賊温泉の名物は、西根川という清流の河原にある共同湯。通称、「岩風呂」だ。温泉ファンには有名な共同湯で、休日には多くの観光客が全国各地からやってくるという。

「岩風呂」へは、温泉街の通りから川の谷底まで徒歩で階段を下りていく。余談になるが、温泉街と川は切っても切り離せない関係にある。

 これまで訪れたことのある温泉街を思い浮かべてほしいのだが、川の流れに沿って温泉街が形成されているケースが多い。とくに歴史の古い山間部の温泉街は、川の流域から温泉が湧き出していることが少なくない。四万温泉、箱根湯本温泉、湯河原温泉、下呂温泉、山中温泉、三朝温泉、湯平温泉、黒川温泉……数え上げればきりがない。

 実は、温泉は川の近くから湧出しやすい。というのも、川の流れが地層を浸食することによって泉脈が地上に露出し、そこから湯が噴き出すケースが多いからだ。

今はボーリング技術の発達によって、市街地でも地中深くまで掘って温泉を汲み上げることができる。しかし、昔は温泉といえば、自然の力によって湧き出した湯を指していた。だから、自噴する(自らの力で湧き出す)温泉は、「天地の恵みを与えてもらっている」という気分になる。

■新鮮な湯が底からぷくぷく湧き上がる

 数十段の階段を下りていくと、「岩風呂」の簡素な湯小屋が見えてくる。透明度の高い清流が湯小屋のすぐ横を流れていく。湯船は川の水位とほぼ同じ高さにある。

 実は、「岩風呂」の湯船は、川床から自噴している温泉の真上につくられている。つまり、温泉が湧いていた場所に湯船をこしらえたわけだ。これぞ温泉の原点である。

 温泉を離れた場所まで引き込むのが大変だった時代は、源泉の真上か、すぐそばに湯船をつくるしかなかった。不便といえば不便だが、この方法は新鮮な温泉を堪能できる最善の方法でもある。なぜなら、温泉は湧出してから時間がたてばたつほど、酸化されて鮮度が落ちていくからだ。温泉も刺身や野菜と一緒で、鮮度が命である。

 湯小屋の中には、2つの湯船がある。上流側が熱めで、下流側がぬるめ。湯船は大きな天然の岩に囲まれているので、洞窟風呂のような雰囲気だ。

 おすすめは、源泉が湯底から直接湧き出している上流側の湯船。生まれたての湯に浸かるのが、温泉における最高の贅沢である。硫黄の香りを放つ新鮮な湯がぷくぷくと上がってくる。見た目にはあまりよくわからないが、湧き出す湯量はかなり多いようだ。湯船からあふれ出した湯が勢いよく、下流側の湯船に流れ込んでいる。

■川の増水のたびに復活!

 泉温は約45℃。少々熱めだが、湯船全体ではちょうど適温になっている。白い湯の花が混じる湯はクセがなく、肌にやさしい。いつまでも浸かっていたくなる極上湯だ。

 なお、岩風呂は混浴。女性専用の脱衣所があり、「湯あみ着」での入浴も可能だ。

 それにしても、これだけ川に隣接していると、雨などで増水したときに大変なのではないか、と心配になる。一緒に入浴した地元の常連さんによると、何度か洪水などの水害で破壊されたそうだが、そのたびに建て直しているという。

 脱衣所の壁に目をやると、復旧資金を寄付した全国の「岩風呂」ファンの名がずらりと並んでいた。この湯がどれほど愛されているかがわかる。「ずっと後世まで残したい」。そんな気持ちにさせてくれる名湯である。

 

第124回 湯ノ花温泉(福島県) 巨石に見守られながら浸かる神秘の湯前のページ

第126回 水無海浜温泉(北海道) 干潮時だけ姿を現す幻の海中温泉次のページ

関連記事

  1. 第49回 わいた温泉郷(熊本県) 温泉は見た目も大事 !? 湯けむりが自慢の出湯

  2. 第57回 岩井温泉(鳥取県) 熱い湯に有効な「湯かむり」文化

  3. 第47回 越後湯沢温泉(新潟県) コロナ禍で脚光を浴びる「雪国」の名湯

最新の経営コラム

  1. 朝礼・会議での「社長の3分間スピーチ」ネタ帳(2024年11月20日号)

  2. 第七十八話 展示会後のフォローで差をつける「工場見学の仕組みづくり」

  3. 第219話 少人数私募債の相続対策

ランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

新着情報メール

日本経営合理化協会では経営コラムや教材の最新情報をいち早くお届けするメールマガジンを発信しております。ご希望の方は下記よりご登録下さい。

emailメールマガジン登録する

新着情報

  1. キーワード

    第149回 EV(電気自動車)
  2. 経済・株式・資産

    第113話 税金を滞納するとどうなるのか?(3)
  3. 経済・株式・資産

    第66回「流行は追わずに、ひたすらわが道を行く強さ」ウェルシアホールディングス
  4. マネジメント

    第176回 『壁に突き当ったときの言葉』
  5. サービス

    83軒目 「福岡から日本全国へ!」
keyboard_arrow_up