ICOでは、資金調達の手段として、少人数私募債をお勧めしています。会社が社債を発行し、経営者がその社債を引き受け、経営者自らが会社にお金を貸しつける方法です。(少人数私募債の詳細は、本コラム第190話「少人数私募債を活用しなさい」をお読みください。)お金を会社に貸しつけているので、経営者にとっては相続財産です。
「少人数私募債として会社に預けているお金の相続対策は、どうすればいいでしょうか?」
といったご質問を受けることがあるのです。
対策1:毎年、数口ずつ贈与する
少人数私募債は1口の金額を決めて、49口以下を発行する社債です。
これまで実際におられたのは、毎年、2~3口を後継者やそれ以外の子供に贈与する、という経営者です。その方曰く、「現金で贈与すると、すぐに使ってしまうかもしれないので、少人数私募債を1口単位で贈与することにしました。」とのことでした。
確かに、社債で贈与する方が、もらう側としたら使いづらいし、そのまま残りやすいです。
「贈与税はどうしたんですか?」とその経営者に尋ねました。
「私から息子たちに現金を渡して払わせました。」とのことでした。
直系への贈与であれば、贈与税の控除額も大きくなります。500万円の贈与で贈与税は約50万円、概ね10%です。その経営者は、それを数年にわたって、子供たち数人へ贈与されていたのです。
贈与を受けた子供たちには、その社債金額が、会社から償還されてゆきます。数年の時間をかけて、その経営者は少人数私募債が丸ごと相続財産になることを回避していったのです。少人数私募債は1口単位なので、贈与するにもやりやすかった、ということもあったと思います。
少人数私募債の名義変更をするには、取締役会の承認さえあれば可能です。それに、この経営者には子供が数人いたからできた、というのもあるかもしれません。それぞれに、自分にあった対策をすればよいのです。
対策2:毎年、現金で償還してもらう
少人数私募債は発行して1年後から、取締役会の承認を得れば、1口単位で返還してもらうことが可能です。ある経営者で、少人数私募債の一部を毎年、現金で返還してもらっている方がいました。
その理由を聞くと、「銀行へ行くと、私の年齢では多額の現金を引き出すのは、たいへんですからね。」と言われました。
そのとおりです。高齢でなくとも、銀行で数百万円の現金を引き出すとなれば、あれやこれやと聞かれます。
「ほっといてくれ!」と言いたくなりますが、「マネーロンダリングの対応でいま、厳しいんです。」と、銀行員から必ず言われます。さらに高齢者であれば、詐欺に騙されていないか、などの懸念も含まれ、高額の現金を引き出すのはかなり面倒です。
しかし、会社に貸しつけた少人数私募債の一部を現金で返してもらうのは、会社にお願いするだけです。会社も銀行に「現金の用意をお願いします。」と言えば、そう抵抗されることもなく、準備できます。理由を聞かれても、“賞与で使います。” “株式の買い取りで使います。”などと言えば、それ以上は何も言われません。
先の経営者は、会社から返してもらった現金を子供たちに時折、手渡していたのです。その際に、「絶対に銀行口座には入れるな。使うか、現金のまま貯めておくかしろ。」と子供たちに伝えていたのです。やがて相続が発生して仮に調査があったとしても、現金の動きは掴みようがありません。調査官から、この現金はどうなったのか、と聞かれても、相続人の銀行口座に預けられていなければ、「さあ、わからないですねぇ・・・。」で終わりです。
それに、銀行口座を遡ってチェックされるのは、最長10年です。相続税調査から過去10年以上を経過していたら、もはや調べようもありません。
だから、この経営者はなるべく早く子供たちに贈与すべく、少人数私募債を現金で返してもらったのです。皆さん、本当にいろいろとお考えになり、取組まれているのです。
対策3:債権放棄を活用する
少人数私募債を引き受けてはいるものの、「別に返してもらわなくてもいいけどなぁ…。」という経営者は、一部におられます。そのような経営者がとった策として、債権放棄をした、という事例があります。
それは、コロナ禍の時でした。その会社はコロナ禍の影響をもろに受け、大赤字になっていました。その時に、その会社の経営者は、引き受けていた少人数私募債の半分を、債権放棄したのです。
債権放棄とは、返してもらうべきお金を、返してもらわなくていい、と会社に依頼することです。言葉通り、お金を貸しつけている債権を放棄するのです。債権放棄がなされると、会社は返すべき負債を返さなくてもよくなったので、会社としては利益になります。
返すべき債務が消えるので、「債務免除益」として特別利益に計上されます。課税対象の利益となるのです。しかし、冒頭の会社は、コロナ禍で大赤字だったため、債権放棄による債務免除益、という利益が発生したとしても、まだ赤字だったのです。債務免除益の利益はコロナ禍における赤字で、帳消しになったのです。
債権放棄をするには、私募債の引受人が取締役会に申し入れ、承認決議が得られれば可能です。要は、何らか赤字が発生する時に、債権放棄を同時にぶつければ、債務免除益が出たとしても相殺され、課税されることはなくなるのです。一度に全部を債権放棄するのではなく、数年を開けて何度かにわけて全額を債権放棄するなど、時間をかけて債権放棄することで目立たなくする、という経営者もおられます。
必要性に迫られた経営者の行動には、学ぶべきことが多いのです。
以上、紹介させていただいたような3つの方策をうまく活用し、少人数私募債の相続対策を済ませた経営者が、実際におられるのです。
「少人数私募債を引き受けて会社にお金を預けても、出口対策がわからない。」という方は、ぜひとも参考にしていただきたいのです。