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第60話 中国経済も日中交流も改善の兆し

中国経済の最新動向

 最近、中国経済も日中交流も改善の兆しが出ている。本稿は中国経済と日中関係の最新動向を報告する。
 
◆李克強首相の「温刺激」対策が奏功
 今年第1四半期の中国経済指標は悪かった。2013年通年の実績に比べ、14年1Qの輸出、投資、消費、生産の伸び率はそれぞれ11.3ポイント、1.7ポイント、0.9ポイント、0.9ポイント低下していた。GDP成長率も7.4%増にとどまり、政府目標の7.5%を下回る結果となっている。
 
 景気の下振れに対し、李克強首相は「温刺激」という緩やかな景気刺激策を打ち出した。「温刺激」対策の第一弾(4月上旬)は鉄道建設加速(前年比6600キロ増)や古くなったパラック住宅の建て替えが主な内容である。第二弾は5月上旬に打ち出され、発電・送電のインフラ建設加速をメーンとする。第三弾(6月上旬)は金融緩和を実施し、農村及び中小企業向けの融資を担う一部銀行を対象に、預金準備率を0.5ポイント下げた。「温刺激」の規模は約1兆元(17兆円相当)程度、リーマン・ショック後に温家宝前首相が打ち出された4兆元規模(当時57兆円相当)の「強刺激」策に比べ、確かに「温刺激」と言える。
 
 「温刺激」対策を実施した結果、中国経済は好転の兆しが出てきた。輸出は2ヵ月連続の大幅減少を経て、4月からプラスに転換し、5月7%増、6月7.2%増となっている。5月の製造業と非製造業の購買担当者指数(PMI)はそれぞれ50.8、55.5に達し、いずれも好転か悪化かの分岐点である50を超えている。これは6ヵ月ぶりの高水準である。6月もそれぞれ51.0、55.5に達成し、景気復調の勢いを保っている。
 
 こうした良好な経済指標に支えられ、第2四半期(4~6月)のGDP成長率は7.5%で、一応政府目標を達成した形となっている。
 
 第3四半期に入ってからも経済指標は引き続き明るさを保っている。7月の輸出は前年同期比14.5%増。製造業の購買担当者指数は51.7で、2012年4月以来27月ぶりの高水準となっている。中国経済失速の懸念が後退し、2014年通年のGDP成長率は政府目標の7.5%前後を達成できる見通しとなっている。
 
 もちろん、懸念材料もないわけでもない。7月の中国非製造業購買担当者指数(PMI)は54.2で、6カ月ぶりの低水準となった。不動産市況の一段の悪化が響いたと見られる。われわれは引き続き不動産バブル崩壊のリスクを留意しなければならない。
 
◆「4つの解禁」で日中交流も改善
 今年の春から日中交流に関する「4つの解禁」が明らかになってきた。4つの「解禁」とは、(1)民間交流(胡耀邦元総書記の長男・胡徳平氏来日)、(2)地方交流(舛添東京都知事訪中)、(3)経済交流(経団連会長ら訪中)、(4)議員交流(高村自民党副総裁ら国会議員訪中)のことを言う。
 
 もともと昨年秋、中国政府は「民間」、「地方」、「経済」という3つの交流を解禁する方針だったが、昨年12月の安倍首相の靖国参拝によって、交流再開が凍結された。
 
 今年1-5月、日本企業の対中投資は前年同期比42%減という急速な減少に対し、中国政府は危機感を持ち始め、民間、地方、経済、議員という4つの交流再開に踏み切ったのである。
 
 日中交流改善の兆しは貿易と人的交流の拡大にも表れている。財務省の貿易統計によれば、日本の対中輸出は今年に入ってから6月まで6カ月連続増加、中国からの輸入も6月に2ヵ月ぶりの増加に転じた。来日中国人観光客は凄まじい勢いで拡大を続けている。1~6月の累計で前年同期比88%増の100万人を突破した。経済・民間交流の拡大は政府間交流を後押しする効果が期待される。
 
◆日中首脳会談に関する3つのシナリオ
 今年11月、APEC首脳会議が北京で開かれる。安倍首相はAPECに合わせて、日中首脳会談の開催に意欲を示しているが、本当に実現できるかどうかが今注目される。
 
 APECでの日中首脳会談の開催について、今年6月に筆者が北京に出張した際、中国政府内部では(1)正式な会談、(2)立ち話、(3)ノータッチという3つのシナリオを想定し、シミュレーションで検証したことが、関係者の話によって明らかになった。
 
 検証の結果、中国は今年APEC首脳会議の議長国であり、習近平国家主席はホストとして、ゲストを握手で迎えることは最低限の礼儀であるため、「ノータッチ」というシナリオ(3)は、大国にふさわしくない振る舞いとして、事実上否定された。
 
 一方、正式な首脳会談を行うシナリオ(1)もリスクが大きい。仮に安倍首相が日中首脳会談後、再び靖国参拝を断行すれば、習近平氏はメンツが潰されるのみならず、政敵に攻撃の口実を与え、政局不安に繋がる恐れがある。
 
 結局、シナリオ(2)の立ち話は礼儀上の問題もなく、リスクもなく、習主席にとっては無難であるシナリオだ。6月時点では、中国政府はシナリオ(2)に傾いているようであった。
 
 ただし、正式な会談というシナリオは完全に消えた訳でもない。実際、日中双方は水面下で首脳会談実現の可能性を模索し続けている。
 
 7月下旬、福田元首相は秘密訪中し、習近平国家主席と会談した。日中首脳会談の開催について意見交換が行われたと見られる。さらに8月9日に、岸田文雄外相はミャンマーの首都ネピドーで中国の王毅外相と会談した。両国外相の会談は2012年12月の第2次安倍政権発足後初めて。会談の詳しい内容は一切明かされていないが、日中関係の改善に向けての意見交換や今年11月のAPECでの日中首脳会談開催実現に向けた意見交換などを行ったと見られる。双方の努力で長引く日中対立の着地点(妥協点)を見出すことができれば、日中首脳会談の可能性が出てくると思う。

 

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