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採用・法律

第45回 『カスハラの放置は許されない!』

中小企業の新たな法律リスク

生活用品やインテリア雑貨のお店を経営している高橋社長が、従業員の直面する問題について相談するために、賛多弁護士のところにやってきました。
 
* * *
高橋社長:新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、お客様のストレスが増加しているようで、うちの従業員、特に、店舗で接客対応している店員に対するクレーマー(不当要求者)が増えているのですよ。
 
賛多弁護士:顧客が、従業員に対し、悪質なクレームを付けたり、理不尽な要求をしたりする「カスタマーハラスメント」、いわゆるカスハラの問題ですね。
 
高橋社長:うちの店員は、普通に接客しているだけなのに、お客様の機嫌が悪かったのか、接客態度についてクレームを付けられ、「バカ、死ね、辞めろ!」と怒鳴られたり、土下座を要求されたりするのです。
コロナ禍で発生した迷惑行為としては、「菌がうつるから近寄るな」と暴言を吐かれた、などがあります。
 
賛多弁護士:なんと!そんなに酷いことをされたのですか。従業員の人権を無視していますね。
 
高橋社長:そうなのです。従業員がお客様のストレスのはけ口になったり、従業員の尊厳が低く見られたりしているように思います。
 
賛多弁護士:カスハラは、①従業員の心身の健康を害したり、②従業員の離職が増えて経営を悪化させたり、③会社の従業員に対する安全配慮義務違反を発生させたりする可能性があります。
      会社はカスハラを放置することは許されず、組織的に対応する必要があります。
 
高橋社長:なるほど。では、カスハラに対応するために、何か参考になる国の指針などはあるのでしょうか。 
 
賛多弁護士: 厚生労働省のハラスメントに関する指針(注1)においては、顧客等からの著しい迷惑行為(暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等)により、その雇用する労働者が就業環境を害されることのないよう、雇用管理上の配慮として、
例えば、
(1) 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
(2) 被害者への配慮のための取組
を行うことが望ましい。また、
(3) こうした行為への対応に関するマニュアルの作成や研修の実施等の取組を行うこと
も、その雇用する労働者が被害を受けることを防止する上で有効と考えられる、
と記載されていますが、あまり踏み込んだ内容は示されていません。
 
高橋社長:うーん、そのような抽象的な指針では、我々のような中小企業は具体的に何をすれば良いかが分からず、困るなあ・・・。
 
賛多弁護士:そうですよね。中小企業の間では、高橋社長のように、具体的な基準や対応方法を示すことを求める声が強かったため、厚生労働省は、来年度に、企業向けのカスハラ対応マニュアルを策定する方針を決めました(注2)。
 
高橋社長:おお。それは助かります。
     そのマニュアルが公表されたら、その内容を実践したいと思いますが、それまでにも何かできることはありますか。
 
賛多弁護士:はい。抽象的とはいえ、先ほどご案内したハラスメント指針には、望ましい取り組みの大枠は示されていますので、当職の方で具体化して、高橋社長にお示しすることは可能ですよ。
 
高橋社長:ありがとうございます。先生は頼りになります。
 
賛多弁護士:今すぐにでも従業員の方々に周知して頂きたいことは、一人で抱え込まずすぐに本部に報告すること、二人以上で対応すること、顧客のクレームを録音・録画することなどですね。
 
高橋社長:録音・録画については、うちの店舗の防犯カメラは録音もできるので、大丈夫です。その他についてはすぐに従業員達に伝えます。
* *
  労働組合「UAゼンセン」は、12月3日、今年7~9月に実施した調査で、新型コロナ禍で小売・サービス業で働く組合員の5人に1人がカスタマーハラスメント(顧客による迷惑行為)を受けたという結果が出たことを報告し、国会議員や報道関係者に対し、世論喚起や法整備の必要性を訴えました(注3)。
  カスハラの放置は許されず、組織的な対応が必要です。
 
以上
 
(注1)事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)
 
(注2)令和3年度概算要求の概要 4頁
 
(注3)「コロナ禍 小売・サービス業の20%が被害 ~カスハラ調査結果を公表~」
 
 
執筆:鳥飼総合法律事務所 弁護士 木元 有香
 

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