前回、「注意を受けた後の姿勢」についてお話をしました。今回は「予測して動けるようにする」についてお話致します。
仕事ができる社員は、言われたことができるだけではなく、言われなくても「先回りしてできる人」が多いです。皆さんは「仕事ができる社員」の定義を、どのようにお考えでしょうか?仕事ができる社員のどなたも入社した時からビジネスマナーについて優秀だったのでしょうか?
そのようなことはありません。各企業様から新人研修のご依頼を毎年いただきますが、参加者のほとんどの方々はその研修で初めてビジネスマナーや仕事の進め方などを学びます。まれに研修の内容に近い動きが天性のものとしてお出来になる方もいらっしゃいますが、その方々ほんの一握りです。つまり「仕事のできる社員」は、どなたも新人研修で学んだことを個人のスキルとして身につけ、その能力を今なお維持する努力を地道になさっている方々です。基本のスキルを「日々意識してできる」ようになると、その先には『無意識でも出来る』レベルに到達します。このとき目の前の景色が変わります。景色の中に気づきも見えてくるのです。この立ち位置に達することが大変重要です。
ただ「重要」であるにもかかわらず、その後のフォローアップやクレーム研修・コミュニケーション研修などまで、どちらの会社様もある程度期間があいてしまいます。例えばお辞儀の仕方では、私は「型」を説明しますが、現場では自社に合った「形」に落とし込むのは可です。むしろ皆さんのお役目としてそのようにお伝えもしております。
ですから、「先生は手を組む位置はおへそ近くの丹田あたりが良いとのことだったけど、サービス業の私たちの手の位置はもう少し上の方が、華やかさが出てよいのではないかしら」などと、さらに現場で話し合うことで、より自分達に合ったマナーになります。加えてどんなに優秀な方々でも、慣れからくる動きには「崩れ」が認められます。現場で「形」に変わったフォームと「崩れ」もしくは「つもり」で変わってしまったフォームには、確実に差がでます。学生のときは周りの方々が協力して皆さんを育ててくださいました。社会人になったらどうですか?自分を育てるのは、もちろん『自分』なのです。

自立する直前に皆さんに私からのお勧めは、「レーダーチャート」という図形です。これは基本のビジネスマナーの効率的なフィードバックの一つの方法です。基本のビジネスマナーは皆さんがお考えになるよりも大事なものですから、再スタートの直前にご自分の基本のビジネスマナーの達成度を過大評価・過小評価なく是非可視化なさってください。複数項目の数値データをクモの巣状に可視化し、項目間の関係を比較するグラフです。外れ値が見やすいため、どの項目を補強するべきか一目瞭然で分かります。項目は自分が習った身だしなみ・挨拶・お辞儀のし方・ご案内の仕方・お茶の淹れ方・席次の理解・正しい言葉遣い・電話応対の仕方・仕事の進め方など、それぞれの会社で必要な項目を書き込み、自己評価は勿論ですが、他者評価もお願いなさるとより良いでしょう。
繰り返しで恐縮ですが、基本の徹底の維持の努力から「ゆとり」も生まれ、そこに有った今まで見えなかった「もの」に気づけるという構図です。
「無理なく、かつ継続しやすい」を考慮した上で目指すスキルとして、私がお勧めするのは『読書』です。皆さんは『読書』がスキルですって!と感じたかも知れません。読書にはいろいろな効用があります。パソコンの急激な普及から、一人当たりの読書時間は明らかに減少傾向にあります。人間1人の経験はほんの僅かにすぎません。それを十分に埋めてくれるのが本です。確かにパソコンは便利です。調べたい言葉を入れて検索したら数秒もかからず答えが出てきます。ものすごく忙しいときには有効活用は可と思います。ただ基本の立ち位置としては、「自分の脳を使う」に軸足を置いていないと、「気づく」というアンテナが錆ついてしまうので「気づき」ができない頭になってしまいます。私たちは『読書』の効用を分析して納得して、今まで以上に賢く本とお付き合いするべきではないでしょうか。それこそ読みたいと思いさえすれば、私たちは古今東西の本を読むのも自分次第です。
【読書の効用1】脳を活性化する
読書は脳の様々な部位を使うので、記憶力
・思考力・判断力などを高める。特に相手に何かを伝える時、相手にとって分かり易く伝えることを構成できる。相手からの質問に対して的を射た的確な返答ができるようになる。
【読書の効用2】知識の向上
今まで知らなかった分野の知識や情報を得ることができる。今まで知らなかった語彙や表現力を増やすことで、話し方のグレードアップができる。尊敬語・謙譲語を正しく使えると「社格がアップする」とも言われている。
【読書の効用3】集中力を高める
文章を詠み込むのに意識を集中させるので、自然と集中力が身につく。文章の中の言葉遣いは文法で理解する知識としての尊敬語や謙譲語ではなく、より実践的で血の通った言葉として頭に入りやすい。
【読書の効用4】想像力・共感力を育む
小説を読むときなど、今読んでいるページの先を活字の通り楽しんで読み進めるだけでなく、もし私が作者だったらどういう流れで書くだろうかと、先のイメージを楽しむことができる。さらに小説の複数の登場人物の気持ちを、作者が表現している以上の深堀をトレーニングとして試すこともできる。
【読書の効用5】自分が関わっている仕事の能力をさらに専門的に深められる。
※豆知識。18歳以上であれば登録して国立国会図書館の利用可。蔵書数(4753万1625点、2023年時点)、レストラン・喫茶などもあり。
本から得た複数の刺激が、重層的な効果をもたらし、今までの自分の視点の立ち位置が上がり、全体の景色が見えやすくなります。そのため気づきは今までの何倍にもなるでしょう。気づかなければその対応はできません。
最後に、人それぞれ読書の仕方は自分好みのルールがあるでしょうが、私の読書の仕方が参考になればと思い書き記します。
私の読書の仕方は、一日の隙間時間の長さを3種類確保します。その3つの長さの隙間時間に①自分の仕事関係の本(新しい情報のインプットのため)一冊、②自分が好きな分野の本(気分転換や自分へのご褒美のため)一冊、③「最近読んで面白かった本ある?」と人に聞いた本(自分からは手に取らないだろうと思う本、言い換えると読書の間口を広くするため)一冊の計3冊を机の上に一目で見られるように並べておくのがポイントです。
私はこれらの3冊を、研修で出かけない日は毎日平行して読んでいます。勿論本の内容や本の厚さによって隙間時間の数字はフレキシブルに変えているので「本を読まねばならない」という縛りは全く感じません。
もう一つ継続のプチポイントがあります。研修が多い月は本を読み続ける対策として、自宅から徒歩5分の市立図書館であえて本を借ります。返却期限が2週間と決まっているので、読む速度が速くなる気がします。自分ではタイトなルールではないので、しばらく続いています。ちなみにある時期「あれ?最近仕事関係の本しか読んでいない」と気づいたとき考えた読書のマイルールです。楽しんで継続する『読書』は、まさに「予測して動けるようにする」スキルが総合して身につく優れものです。























