前回、「予測して動けるようにする」について」お話をしました。今回は「話の伝え方」についてお話いたします。
「話の伝え方」の導入として、まず突然ですが人類が言葉を獲得するまでの経緯を少しお話いたします。皆さんが会社に入ったとき「社史」のお話をお聞きになると思います。それと同じような意味で、「言葉」のはじまりに触れて頂くことで、今までより「話す言葉」そのものを大切になさっていただけると考えたからです。
数字の単位が大きくなって恐縮ですが、かつて自分なりの興味から何冊かの本を読みました。約七百万年前頃アフリカ大陸は、気候変動により森林が減って草原が広がっていたようです→人類が二足歩行を始めたのがわかる約七百万年前頃の人類の骨が発見されています→二足歩行のメリットは、今までより遠くまで見渡せる・歩行時に息をはけるようになったことで喉の仕組みが変化し、言語が発達した・手で食料や物が運べる・子供を抱えられるようになった等が挙げられる。デメリットは四足歩行に比べて捕食者から逃げる時のスピードが劣る・骨盤が狭くなったことにより出産が困難になる等が挙げられる。
メリットの一つ「歩行時に息がはけるようになったため、言語が発達した」は、そのあとの複雑な話し言葉の発達にも繋がった。このように言葉の始まりは、人類が二足歩行を始めた遥か昔に遡ることが出来ます。言葉は以上のような莫大な時間の中で人類が育み守ってきた財産です。これを改めて知った皆さんには『言葉』を是非大事に丁寧に使っていただければ、大変嬉しいです。
では、「話しの伝え方」の本題に入ります。
この項目でビジネスに必要とイメージできるのは、「報告・連絡・相談」の場面での伝え方ではないでしょうか。
報告
「報告・連絡・相談」は、「ほうれんそう」という言葉で親しまれています。会社にとっての血液に相当すると言われているので、皆さんもよくご存じと思います。私も2025年の初頭、こちらのコラムで「報・連・相」を取りあげております。
ただ大事なことは何回読んでいただいても、いえ何回も読んでいただくことで頭にしっかり入ります。ドイツの心理学者エビングハウスは記憶に関する実験的研究の先駆者で、忘却曲線を発見しました。人は時間が経過するごとに記憶が減退していくので、一度覚えたことを記憶に定着させるためには復習までの時間を短くすると、最初覚えた時よりも覚えるためにかかる時間が短くなり、時間の節約率が高まるということです。その意味から更に「ほうれんそう」を実行するとき頭に入れていただきたいことを加えます。
「報告」をする前に、その大事な内容を「伝える順番に」書き抜いてみます。伝える時は「話す」のですから、「話し言葉」で書いてください。次にその文を自分の耳に向けて話します。報告をする側からの立場で抜けているところがあるかどうか注意しながら聴きます。つまり音声表現もりっぱに報告に含まれるスキルなので、心を込めてお話しください。
このとき、前述した「人類は二足歩行を始めた頃、言葉を獲得した」ことを思い出して欲しいのです。数えきれない何世代もの人々に守られ、いつくしまれた言葉を意識して欲しいです。ここで気になる言い回しがあれば修正します。今度は報告を受ける側の立場になって修正済みの文をお聴きください。この作業を行ってから、実際の「報告の予告に進めるとよいでしょう。このひと手間が「報告」の仕方のレベルを上げます。もちろんこのやり方が癖にまでなれば、簡単に脳内で準備運動としてなさるだけで良いでしょう。
(1)報告の予告
「課長、只今○○の件のご報告よろしいでしょうか?」
予告のタイミングをしっかり捉える判断は、重要なポイントです。それには同じ部署の方のスケジュールなどを押さえておきましょう。「今課長は何もしていないように見えるけれど、A会社訪問前に心を整えているところだな」のような相手側のコンデションが見え易くなります。この場合、今は報告のタイミングではない事がすぐにわかります。
(2)結論から話す
「○○の件を報告いたします。結果は○○です」
センテンスは簡潔に!「主語+動詞+結果を具体的な表現で」・・・敢えて「結果を具体的な表現で」と書いたのには、理由があります。2例あげます。①○○研修の最後のところで少し時間があると、参加者をアトランダムに指して研修の感想を伺うときに感じることです。
「この研修で気づきがいくつもあったので、それらを明日から気をつけていきます」とおっしゃる方が何人かいます。この発言を聞いて何か分かることがありますか?
たとえ目を輝かせながらおっしゃっていただいても残念ながらその中身は汲み取れません。強いて言うと、彼女は席次の説明のとき身を乗り出すような所作をしていたので、彼女の「気づき」には席次が入っているかもと想像するくらいです。ところが、「この研修で気づきがいくつもありました。例えば、綺麗なお辞儀をするには綺麗に立つことがまず必要ということ、席次では出入口に近いところが末席ということを知りました。」ですと伝わりやすくなります。
②もし自己紹介を求められた時「私の趣味は読書です」では不親切な伝わらない自己紹介です。「私の趣味は読書です。特に好きなのは歴史書です」この表現ですとOKです。分かっているのは自分だけと素早く気づき、具体的に音声に出します。『言葉に表して伝えないと、人には全く理解できない』ということをしっかり覚えておいてください。さらに言うと、音声に出しても的を射た使い方でないと伝わらないとも言えます。
(3)経過を伝える
「このイベントの来客数はスケジュールどおりに進めました。3日を過ぎたところで数字が少し落ちてきたため、チームでミーティングを開きました。接遇の密度をお客様は敏感に察知するのではとCさんから提案があったので、改めて3項目『アイコンタクトを取りながらの明るい挨拶・笑顔で話す・お帰りになるお客様の背中を見送る』の徹底をしました」のように、「経過」は「結果」の後に言います。これに対し何か聞かれたら、初めて私見を言います。(この例文の場合、中間報告として報告するかどうか迷うかも知れません。判断を仰ぐという意味から対応を伺うこともありです)
連絡
連絡は報告と違って、それ以上でもそれ以下でもなく、『そのまま』を伝えます。「D」は「D」で伝えるのみです。「D」を「D´」で伝えたら、それは「連絡」とは異なります。連絡では意識的に分かり易い言葉を選択してください。伝わる量が増えるはずです。
相談
・相談をする立場であれば、相談事の自分なりの答えを準備してからいくと、より真剣さを伝えられます。
・相談される側であれば、相談内容が言い易いように緊張をほぐすような会話からスタートしましょう。お天気は、一番無難な話材です。会話のキャッチボールが2,3往復できたら(相手の表情が柔らかく変化したら)本題に入ります。ここから相手の言葉を一言も聴き逃さないように聴き抜いてください、聴き浸ってください。ゆっくり深く頷いたり、相手が言いよどんだときは言葉をこちらから挟んだりせずに、相手が再び話始めるのを穏やかな表情で待ちます。
「間(ま)」を待てる対応は相手の安心や信頼に繋がります。私はコミュニケーション研修の中で、時々「十人十色」と言う言葉を使います。それぞれがそれぞれのフィールドを持って出会います。心からの敬意を持ってそのお一人お一人と向き合いましょう。この気持ちが、「話を伝えられる私」になれる近道と信じています。
























