前回、「言い換えのポイント」についてお話をしました。今回は「注意を受けた後の姿勢」について、注意を受けた内容をどのように心に留めて次に生かしていくかをお話致します。
皆さんの中には上司から「注意」を受けた経験をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。人情としては気持ちがよいものではないと思います。注意をする側の気持ちは、どうでしょうか?あなたをこらしめようとか、いじわるしようというような動機から注意をしているのではありません。注意する側の方の裏側の気持ちには後輩の成長を願っての「好意」が宿っていると私には感じられます。現に、毎年新しい年に入ってから研修で伺うと、「春にはどんな方が入って来るか、今年も楽しみです」という言葉が耳に入ってきます。言葉を変えて申し上げると、好意の添えられた「注意」は有難いということです。もちろん人は十人十色ですから全員がそうだとは限りません。好意が注意のスタートにあると認識すると、注意を受ける側の心の受け入れ窓口が広くなり、言われたことをじっくり聴くことが出来ます。
では、注意を受けるときの心構えを大きく分けて3点お話します。
1. 相手の注意をよく聴く。
これが一番大事です。是非「積極的傾聴」を心がけてください。積極的傾聴の6項目を挙げます。
① 頷く
・肯定的な気持ちを表すときは、首を縦に振ってその意を示す。アイコンタクトを取りながら、首をゆっくり深く頷く
② 相槌を打つ
・相手の話のスピードに合わせると、相手は話し易さを感じる。話が活発になる
③ オウム返し
・話し手の発言のポイントとなる言葉を繰り返す
④ 要約をする
・話し手の発言を聴き手が明確にする
→言葉の順序を並び変えて、正しい文章 にする
→より適切な言葉に置き換える
→言葉を補って返す
⑤ 質問をする
・開かれた質問…6W3HのWhen/Where/Who/Whom/What/Why/How/How much/How manyで質問をより深める
→理由を知りたいときに使う
→話が活性化する
・閉ざされた質問…「はい」「いいえ」で答えられる質問
→発言内容の確認、明確化に使う
→話の内容が整理できる
⑥ 気持や感情を返す
・話し手が表明した感情を返す
→話し手は自分の発言内容を再度聞くことにより、自分の言った事を確認できる。聴き手が間違えたり、ニュアンスで理解が違っていたら、話し手は訂正をする機会を与えられる
以上が積極的傾聴の仕方ですが、注意を受けている立場を考えるとお勧めは①から③、そして⑤、⑥などが状況によって参考にできるでしょう。⑤の質問するという項目ではよく聴いていてもわかりにくかったとき、話し手の話の区切りのついたところで「訊く(きく)」=質問をすると、良く聴いているからこそ出る質問と捉えてもらえます。さらに注意を聞いている間、必要であればメモを取ることをお勧めします。よく聴くことは、指摘された内容を分析するのに、また改善策を考えるのにも大いに役立ちます。その改善策は注意をいただいた方にアドバイスをお願いしてもよいでしょう。あなたのやる気を伝えられます。
2. ミスを素直に認めて、心からの謝罪をする。
「真剣に聴く」ことで客観的になれ、注意されたことの分析がしやすくなります。素直な気持ちでの謝罪も湧きやすくなります。そしてこの時はもちろん『言い訳などしない』が鉄則です。
ここで気をつけることは、謝罪に伴うお辞儀の仕方です。注意の内容に意識がいっているので、どんなに申し訳ない気持ちが心にあっても、気持ち自体は話し手には見ることができませんから、その気持ちはお辞儀に乗せて話し手の視覚に届ける必要があります。この意識があるかないかで、あなたの気持の伝わり方に差が出ます。気持ちが伝わるお辞儀をふだんから習慣にしていると大事な場面で役にたちます。このお辞儀の直前にはしっかりとしたアイコンタクトを取りながら、詫び言葉を言います。できれば詫び言葉を言う前に《目の前のこの方は忙しいにもかかわらず、大事な時間を割いて、私のことを思って時間を作ってくれている》と心にとめ直してから、詫び言葉や感謝を伝えると良いです。
例えば、「この度はご迷惑をおかけし、大変申し訳ございませんでした。また、貴重なご指摘ありがとうございました」と言ってからお辞儀をします。このときいつものお辞儀の角度より深めの角度で動作を止めて頭を下げている時間も多めに取ります。ここがあなたの真価をお見せできる場面です。相手の立場に立って考える少しの時間はあなたに素直に対応する態度を引き出してくれます。頭をあげてから、注意の分析を踏まえた具体的改善策が言えるとよいですが、すぐには無理でしたら、「少しお時間をいただけますか」や「改善策のご相談をさせていただいてもよろしでしょうか」などの積極的対応を示しましょう。ただ本日受けた注意については、可能な限り退社直前にもう一度「本日は貴重なご指摘ありがとうございました。大変勉強になりました」のようなお声かけをしてから帰りましょう。
実はまだ、自分へのもう一仕事が残っています。どれほどメンタルが強いと思っている方でも、予告なしに上司からの「注意」に遭遇したら、めげてしまうのは普通です。一つだけはっきり言えるのは、『注意は人格否定をされたのではない』ということです。そこは是非誤解なさらないでください。あなたが家族と暮らしているなら、「ただいまー。ねえ、聞いて聞いて。今日こんなことがあったの。昼食後、上司に呼ばれてね『~~~』と言れたんだ」と言葉に出して家族に話すだけでも胸が少し軽くなります。一人暮らしでしたら、友人の中で一番聴き上手な方に電話をなさるとよいでしょう。あるいは、他に自分に一番適した気分転換をすることもお勧めします。
さらに翌朝上司へは、爽やかな笑顔で(ただし反省も伝わるように80%位の笑顔で)「おはようございます。昨日は大変お世話になりました」と挨拶ができるとよいですね。何故なら注意をなさった方も翌日のあなたの様子をきっと気にされているはずだからです。前述の対応「1.」、「2」を丁寧に実践できると、結果として「君は何度注意されても変わらない人だ」にはなり得ません。
3. ハラスメント防止観点からの対応
組織におけるハラスメントは年々その発生件数が増えています。ハラスメントの種類もいろいろですが、職場においてはパワーハラスメントの数が圧倒的です。実際ハラスメントの研修依頼も増えています。パワーハラスメント・セクシャルハラスメント・マタニティハラスメントについては、2020年から事業主による防止措置が義務づけられています。万一あなたが上司の「注意」を「ハラスメント」かなと感じたら、その旨をすみやかに組織の窓口で相談できることも知っておいてください。パワーハラスメントの可能性がゼロではないことを頭に入れておくのは、自分を守るために大事なことです。
- ホーム
- デキル社員に育てる! 社員教育の決め手
- 第190回 コミュニケーション上手になる仕事の進め方114『注意を受けた後の姿勢』




























