先日、米国・ハワイのオアフ島に出張してきました。休暇ではなく仕事です。ホテルはワイキキで押さえたのですが。みなさんご存じの通りで、もう何をするにも高い。円安の影響だけではなく、物価そのものが高騰している印象です。私は取材の仕事で2020年初頭、2022年、2025年、そして今回(2026年)とオアフ島を訪れていますが、行くたびにますます苦労することに…。
ごくごく手軽なはずの飲食店でワンプレートのメニューを頼んでも15ドル(2400円強)前後はかかりますし、ビアバーではビール2杯とフィッシュ&チップス1品で60ドルほど(約9700円)となり、覚悟はしていたとはいえ、ちょっとのけぞりました。コンビニで売っているカップヌードルに1食を助けてもらおうかとも考えたのですが、これも2.19ドルに州消費税がかかって約370円。カレーヌードルだと600円台半ばほどします。

せめて、1回の食事だけでも費用を抑えようと思いました。でも、仕事とはいえ、せっかくのハワイですから、ローカル(地元に暮らす人たち)に人気の食を選んで、この島を訪れている実感は得たいところです。
で、出張中のある朝に向かったのは、「Mana Bu’s」です。2008年に日本人がハワイで開業したおむすび屋さん。近年のハワイで「ムスビ・ルネサンス」の潮流のきっかけを生んだ一軒として知られています。場所はワイキキの中心あたりからクルマで10分ほど走ったところであり、観光客はまず訪れないだろうと思われる立地です。実際、地元客と観光客の比率は9:1程度だそうです。
私、この「Mana Bu’s」には何度か行っていますが、朝6時30分のオープン時にはいつもお客が並んでいて、午前中には売り切れてしまう。代表に聞いてみたら、1日1000個を超えるおむすびを店内に並べ。それが毎日わずか数時間でさばけてしまうらしい。
おむすび1個の価格は2ドル台半ばといったところですから、400円ほど。ハワイにあっては手ごろな値段と言っていいのではないでしょうか。一番人気は「Baked Salmon」(焼き鮭)で、2.75ドルです。昨年(2025年)のいまごろにも訪れていましたが、そのときは2.5ドル。1年で少しの値上げがあったとはいえ、ハワイの物価上昇を考えれば、私は十分に良心的だと感じます。
おむすびの姿かたちや味わいはどうかというと、これが日本国内のおむすび屋さんのものを彷彿とさせる「ちゃんとした、普通のおむすび」なんです。気を遣うてらったところがなくて、ハワイふうのアレンジを凝らしているのでもなく、まさに日本のおむすび。これがハワイのローカルから熱烈な支持を受け続けているところがとても面白いところです。

代表によると、この「Mana Bu’s」、ハワイの地元メディアが催す複数のアワードで、毎年のように最上位クラスに食い込み続けているらしい。開業からもう少しで20年を迎えるお店(しかもテイクアウト専門の店舗であり、お店の規模はそう大きくない)で、こうした評価を獲得しているのは見事だと思います。
ただ、この店は2008年以来、順風満帆な経緯というわけでもなかったようです。業績が大失速した時期を経て、復活を遂げているらしい。代表から聞いた話を順にお伝えしていきましょう。
2008年に「Mana Bu’s」が創業する前にも、おむすびを出す店はホノルルにありました。ただ、「Mana Bu’s」が明らかに違ったのは、おむすびそのものの姿かたちや味でした。先にお話ししたように、日本のおむすびとほぼ変わらない姿と大きさで、ご飯の握り方も具材の使い方もまた、日本のものとさほど変わらないものです。そんなおむすびを、地元で暮らし、働く人たちに提供しようと、ローカルの人に利便性のある立地を、代表は選んだのでした。
2008年の創業当初は、現在の商品ラインナップとは異なっていたそうです。いまは毎日25種類を超えるおむすびがずらりと並んでいますが、最初のころは、日本食のデリカテッセンといった趣でした。野菜中心のおかずが4割、和のスイーツが2割、そしておむすびが4割、といった比率だった。ところが、おむすびばかりが午前から売れに売れた。そこで、創業2カ月目に、おむすび中心にラインナップを大胆に変え、また、開店時刻を早めたそうです。10時30分だったのを10時に変え、さらには9時にした。それでも店先に行列ができるため、最終的には現在の6時30分まで早めています。さすがにこの時刻が限界でした。
代表が驚いたのは、来店客の購入の仕方にもありました。1人で4個買うのは当たり前で、あるいは1人で20個も購入して職場で分けるという常連客も相次いだそうです。

「Mana Bu’s」のおむすびは、ほぼ一貫して手づくりところです。実は2008年の創業まもないころ、おむすびを握る機械を導入したのですが、1カ月だけ使って、すぐやめたといいます。機械だと、ご飯を攪拌するときに粒の表面にキズが付くこと、それと、機械で握るためにはご飯に(油などの)混ぜ物を入れないといけなくなり、代表が思う味にならないからだそうです。
また、一度はワイキキのホテルにからの依頼で、おむすびをおろし始めたそうですが、陳列時のコンディションが悪いからと、これも1カ月で取りやめています。
話はここからです。2016年、代表夫妻は、ご家族の事情から日本への帰国を決断します。屋号を「Mana Musubi」へと変更し、第三者に運営委託することとしました。ところが、1社目との契約満了ののちに2社目に選んだ委託先が現場スタッフのケアを怠って、品質もサービスもひどく落ち込んだ、と代表はいいます。そんな状況下で、2020年にはコロナ禍に見舞われます。客足は途絶え、月の売り上げは往時の9割減にまでしぼみました。コロナ禍のためというより、ローカル客の信頼を一度失ったのが痛かったようです。
代表はここで、日本国内からリモートでスタッフ教育に乗り出します。次に、自社運営へと回帰させることを決断しました。
一度成功した事業が落ち込み、そこからの復活を期す道のりは、考えようによってはゼロから成功をつかむより難しいかもしれません。代表はここで、自身がハワイに戻る判断を下しました。みずからが再び毎日、厨房に立ちます。
すると、かつての常連客たちが、「Mana Musubi」が元の状態に戻るかもしれない、と、クチコミで情報を広げてくれました。
2008年の創業当初の売り上げは月8000ドル。それが2016年には月45000ドルへと成長。委託運営にしたのち、最悪の月は2016年当時の9割減にまで下落。それが、代表が戻ってからは、以前のピークを超える売り上げを続けています。
お店の名は現在、「Mana Musubi」から創業時の「Mana Bu’s」へと戻されています。接客やオペレーションを代表の陣頭指揮のもとで磨きつつ、炊きたてのごはんをすぐさま手で握るところはいまも貫いています。
ホノルルではいま、値段の張る、つくりたての高級おにぎりをアピールする店舗も増えているようです。「Mana Bu’s」はここからさらにどう戦うのでしょうか。
「私にとって、おむすびとは『さんざん持ち歩いてから食べて、なんぼのもの』であってほしい」と代表はいいます。つまりはやはり、「ごく普通で、おいしいおむすび」を、ハワイのローカルな消費者に向け、変わらず志向し続けるのですね。
試行錯誤を繰り返しながら再興を遂げた「Mana Bu’s」の話、改めての学びとなりました。いっときの失速はあったものの、おむすびとはそもそもどうあるべきかという代表の考えを揺るがさなかった結果、いまに至っているのだと思います。


























