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第82話 「日本版」はどう進展するのか?

北村森の「今月のヒット商品」

本題に入る前に、ちょっと別の話をお伝えします。

 

「ルンバ」に代表される家庭用ロボット掃除機はすでに社会に根づいていますね。米国のアイロボットが初代の「ルンバ」を発売したのは2002年のことでした。その後、日本国内を含むさまざまなメーカーが、ロボット掃除機を投入してきました。

 

「ルンバ」が日本市場でも話題をさらい続けていた2000年代半ばのころの話です。国内の家電業界の関係者からこんなことを聞きました。「実は日本の家電メーカーもロボット掃除機の開発は以前から進められていたんです」。ではどうして「ルンバ」に先んじて発売しなかったのか。「メーカーの側に大きな躊躇があった」。それは何? 「もし万が一、和室にある仏壇にロボット掃除機がぶつかって、その拍子に火のついたロウソクが倒れて火事にでもなったら大問題だ、という議論が続いた」。

 

この話の真偽、今となっては、すみません正直わかりません。本当だったのかもしれませんし、国内メーカーが慎重な姿勢を貫く様子を皮肉った作り話かもしれませんね。ただひとつ言えそうなのは、日本の家電メーカー陣営がアイロボットに先んじて家庭用ロボット掃除機を世に送り出せた可能性はあったかも…ということだと思います。

 

ちなみに、皆さんもご存じかと思いますが、「ルンバ」にはバーチャルウォールという付属的機能があって、設定した位置の先に本体が侵入するのを防げるよう、安全対策を講じています。

 

新しいビジネスの創出によって消費者の不便を解消しようと臨む局面では、果敢に攻める姿勢がときに問われますが、安全をないがしろにしていいという話でもありませんね。アイロボットの戦術は見事でした。でも個人的には、市場投入に慎重を期した日本国内のメーカーの姿勢を全否定するとまでは言いません。気持ちは理解できます。

 

 

 

で、今回の本題です。

 

日本版ライドシェアがようやくスタートしました。私の暮らす東京では4月8日に始まりましたし、他の都市でも順次スタートを切っています。正確に表現すれば、ライドシェアの「一部解禁」です。それがどういう意味なのか、もう知っていらっしゃる方も多いでしょうが、念のためご説明します。

 

まず、ライドシェアとは、一般ドライバーの運転する自家用車に有償で乗車して目的地まで移動できるという事業(サービス)を指します。

 

これがどれほど便利で助かるか、導入済みである海外で体感した方もいるでしょう。私もそのひとりです。スマホアプリで簡単に呼べ、来て欲しい場所も行きたい場所も地図で指定できるので、現地の言葉で伝える苦労は要りません。料金は事前に決められていますので、その点も安心できます。海外の都市によっては、タクシーよりもむしろ不安なく移動できるとさえいわれています。

 

ただ、日本の場合には、ライドシェアでなくても、もうすでにタクシー配車アプリが主要な都市の多くで定着していますね。これを利用しさえすれば難儀はそうないはずです。

 

ところが、話はそう簡単ではない。けっこうな中核都市でもタクシー配車アプリが実質的に機能していない地域があるんです。タクシーの運転手さん不足のために、アプリを使ってもなかなか配車を果たせないケースがありますし、そもそも配車アプリに対応しているタクシー会社がほとんど存在していない都市もまだあります。私、ちょっと前のある夜に、地方のある大きな都市の郊外でどうやってもタクシーを呼べなくて、ホテルに戻る手段が閉ざされかけ、泣きそうになった経験がありました。

 

今回、日本でライドシェアがスタートした背景には、こういった問題を解消するのが主目的のようです。すなわち、タクシー不足を一般ドライバーの手で補うということ。「一部解禁」というのはまさにその点を反映した内容であり、例えばライドシェアを現時点で運営・管理するのは既存のタクシー会社。また、ライドシェアが解禁される時間帯なども都市ごとに限られています。

 

料金はタクシーを使うのと同一であり、配車を頼む際はタクシーアプリ(「GO」や「S.RIDE」など)から行う仕組みとなっています。試しに「GO」を使って、実際に利用してみましたが、ライドシェア車両だけを狙って呼ぶことはできず、タクシーもしくはライドシェアのどちらでも、といった指定の仕方になります(そこは利用者が任意に設定できる仕組み)。アプリで配車を試みて、結果的にタクシーが来るのか、ライドシェアの車両が来るのか、それはタイミングや場所次第ということになります。

 

 

こう見ていくと、今回の狙いがタクシー不足の解消という位置づけなのだと、改めて理解できますね。繰り返しになりますが、料金がタクシーとライドシェアとで同一であること、既存のタクシー配車アプリ利用のなかに組み込まれたシステムであることなどが、それを如実に示しています。

 

安全面に関しての懸念を抱く方は多いと思いますが、タクシー会社が運営・管理を担うことで、一定以上の水準を確保しようという話なわけです。これは余談ですが、ライドシェアのドライバーとして採用されている方は、タクシー運転手さんの経験者(つまり二種免許を取得されている方)が少なからずいるようです。

 

ここから先、わが国ではライドシェアがどう進展していくのでしょうか。まず、既存のタクシー会社の運営・管理だけによらず、独立系の新規参入事業者を認めるかどうか。ここには安全面をどうクリアするかという課題と同時に、タクシー会社の経営圧迫に直結する点について、どう折り合いをつけるかという議論も生じます。ですので、一足飛びにそこまではいかないのではないかと私は見ています。

 

別の話もあります。それは、過疎地域において、とくに高齢者が自由に移動できるような交通インフラが不足しているという課題。これをライドシェアの導入によって打開しようと模索している地域も多く存在します。こうした地域ではタクシー会社自体が減少していますから、ライドシェアの仕組みを用いるのが有効ではないかということなのですね。

 

ただ、その場合でも、人口が著しく減っている地域で、じゃあ誰がライドシェアの車両の運転を担うのか、という議論がまた生まれます。自治体がどこまで先導、サポートするのか、民間事業者に多くを委ねるのか、そういった部分も間違いなく問われてくるでしょう。

 

「日本版」ライドシェアと銘打つからには、ぜひ行政にはこうしたさまざまなところをひとつずつ(しかし急いで)詰めていってもらい、これこそがわが国のスタイルだというものが結果としてしっかりと確立できればいいなあと願っています。

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