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第105話 過疎地域に元気をもたらす一手か!?

北村森の「今月のヒット商品」

地域課題の解決をめぐっては、全国各地でさまざまな取り組みがみられます。もちろん課題のありかもそれぞれですから、話はそう簡単ではありませんし、どのような課題の解決に関しても、一足飛びですべてをクリアにできる魔法のような手立てを見いだすのはきわめて困難でしょう。

とはいうものの、それこそ一歩ずつ、できることから始めようと動いている地域が少なくないのは事実ですし、そのような地域の活動に対して、私は応援をしたいと考えています。今回はいま注目している取り組みの一例をお伝えしたいと思います。

 

 

ぼたもちの話です。お餅とあんこを使ったお菓子ですね。ぼたもちなんて各地に存在するじゃないかと感じられるかもしれませんが、順にお話ししていきます。

熊本県八代市の中心部からクルマで小1時間ほど走らせた山あいに、坂本という地区があります。いまは八代市の一部ですが、かつては坂本村でした。この旧・坂本村には8つの校区がもともとありました。

この8つの校区では、昔からぼたもちづくりが根づいていたといいます。実に興味深いのは、8つの校区でぼたもちの製法が微妙に異なること。記事にさつまいもを練り込むのは共通しているようですが、ぼたもちの姿かたちも、あんこのつくり方も、その味わいも、違いがみられるのです。

坂本のぼたもちは、八代市ではよく知られていて、市街地などでの催事で出張販売すると瞬く間に売り切れるほどに人気が定着し、親しまれてきた存在と聞きます。坂本まで足を延ばせば、できあがってからまもないぼたもちを購入することもできます。ただし、いま、それほどまでに評判を呼び続けている坂本のぼたもちは存亡の危機にあるらしい。

ぼたもちのつくり手が高齢化しているためです。そもそも坂本のぼたもちは、どこかの企業が製造ラインによってつくっているわけではなくて、地域の家々に伝わる製法にしたがって、それぞれのお母さんたちが中心となって少量をこしらえ続けてきたというものです。だから、8つの校区それぞれのレシピが明文化されているわけでもない。つくり手がいなくなれば、消滅してしまっても致し方ない状況であったのでした。そして実際、坂本地区の人口減少と高齢化のために、ぼたもち文化はいつ消えてもおかしくないところまできてしまった。

 

 

どれだけ歴史を刻んできた食文化であっても、その地域から一度消えてしまうと、復活させるのは容易ではありません。坂本のぼたもちの場合、さらにいうと先ほど触れたようにそのレシピは8つの校区にいるお母さんたちの頭の中にしかないわけです。

それでいいのか、と立ち上がったのが、八代市の坂本支所の職員たち、そして坂本に暮らす地域おこし協力隊の女性でした。

まず、8つの校区に根づいているぼたもちのレシピをしっかりと記録化することを決め、職員と女性は地域内を歩き続け、家々をめぐります。この作業ひとつ、大変だったそうです。ほぼ口伝えのようにして家ごとに継承されてきたレシピをお母さんたちに「教えてください」と頼み込むわけです。それでも、記録にとどめる意義をお母さんたちは徐々に理解してくれて、記録化は進みました。

職員と女性は、ここで動きを止めませんでした。次に進めたのは、ぼたもちの商品化でした。どういうことか。ここ坂本地域が誇る食文化であるぼたもちを、八代から遠く離れたところにいる消費者にも知ってもらおうと決断して、冷凍ぼたもちのセット販売に踏み切ろうと考えたのでした。ネット通販によって、ぼたもちの存在を広げようという考えでした。

これには坂本のお母さんたちも当初、かなりの難色を示したといいます。ぼたもちはあくまで家々でつくり受け継がれてきたものであって、ネット通販などで大々的に売るための菓子では決してなかった。しかも、できたてを口にしてもらうことこそが大事であって、せっかくつくったぼたもちを冷凍するなんて、と…。

それでも職員と女性は説得に説得を重ねます。広く知ってもらってこその食文化であり、このぼたもちの存在を伝えることが坂本地区にとっての将来にも明るさをもたらすのだと伝え続けます。つくってもらったぼたもちを実際に冷凍して、解凍したものをお母さんたちに食べてもらい、そのおいしさがほぼ変わらないことも理解してもらうなど、動きを緩めませんでした。

すると、お母さんたちは、その意義を理解してくれ始めたそうです。自身のつくるぼたもちの味わい、そして坂本の魅力の一端をしてもらう一助になるなら、ということです。

今年初めに第一弾として、5つのぼたぼち食べ比べセットを「坂本町のふるさと物産館」、見事に完売しました。現在は第2弾を販売中で、5つの食べ比べセットが1990円(送料別)です。第3弾以降は2200円での販売を予定しているそう。

この冷凍ぼたもち、それぞれの校区で聞き取りを進めたレシピをもとにメーカーが製造しているわけではなくて、これまでの坂本のぼたもちと全く同じで、地元のお母さんたちの手でつくられ、それぞれを冷凍にかけていると聞きます。最高齢のつくり手は87歳の女性だといいます。

山あいの地域によるちいさな取り組みかもしれません。でも私には、この取り組みの進展が、多くの過疎地域への大きな励みをもたらすのではないかと思えてなりません。できること・やらねばならないと考えることを着実に進めるのだという姿勢、また、地域内の人々のあいだで思いが分かれがちな局面でも一緒に動けるよう説得を重ねる努力。さらには、答えを出さねばならないと強く踏まえる覚悟…。

いずれも地域課題の解消にあたって大事な要素であり、坂本のぼたもちをめぐる活動からは、そのどれもを学べるからです。

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