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第32回 石和温泉(山梨県) 「単純温泉」は単純ではない!

高橋一喜の『これぞ!"本物の温泉"』

■「単純温泉」は特徴のない湯?
 法律の上では、温泉は10の泉質に分けられる。たとえば、「塩化物泉は塩分が強い」など泉質ごとに大まかな特徴はあるが、同じ塩化物泉でも源泉によって微妙な違いがある。人間と同じように、温泉は唯一無二の個性を有しているのだ。
 
 「単純温泉」という泉質の源泉にも、当然個性がある。単純温泉は、日本では塩化物泉に次いで2番目に多い泉質で、歴史ある名湯にも単純温泉は多い。
 
 「単純温泉」という言葉から、シンプルで特徴のない湯をイメージする人は多いだろう。単純温泉の定義を簡単にいえば、「泉温が25℃以上ありながら、溶存物質(温泉に溶け込んでいる成分量)が1000mg/kgに達していない源泉」である。だから、ほかの泉質と比較すれば、温泉に含まれる成分は少ないのは事実だ。
 
 だからといって、単純温泉の価値が低いというわけではない。単純温泉でも、「名湯」の名にふさわしい源泉はたくさんある。
 
 その典型例のひとつが、山梨県の石和温泉にある。石和温泉は、山梨県笛吹市の平野部に湯けむりを上げる温泉地。かつては熱海温泉に匹敵する歓楽温泉として団体客の人気を博したこともあった。歓楽温泉につきものの風俗街も生まれた。つまり、男性客がメインの温泉だったわけだ。
 
 その一方で、源泉の質はないがしろにされてきた面は否めない。石和温泉には、湯を循環ろ過して使い回している宿がほとんどで、源泉かけ流しの宿はわずかにしか存在しなかった。実際、いくつかの温泉宿を訪ねたが、ほとんどの湯船は循環ろ過されていて、湯の個性は完全に失われていた。
 
■浴室はあふれる湯で「洪水状態」
 そんなマイナスイメージを払拭してくれる温泉宿が、「旅館深雪(みゆき)温泉」。総客室数15室の中規模旅館だ。外観は、鉄筋コンクリート3階建ての特徴のない建物である。失礼ながら、年季の入ったロビーも「ひと昔前の流行らなくなった旅館」という雰囲気で、館内にはエレベーターもない。
 
 でも、出迎えてくれた女将は、ハキハキと感じがいい。3階の部屋まで案内してくれた仲居さんも、3階まで一緒に昇りきると、「長い階段、おつかれさまでした」と声をかけてくれた。建物や設備に少し難があっても、何気ない心配りをしてもらえると、ちょっとした不便は気にならないものだ。
 
 特質すべきは、「桃の湯」「柿の湯」という2つの浴室である。桃の湯の浴室に入ると、まずはその光景に驚かされる。20人ほどが入れそうな広々とした湯船から、大量の湯が静かにあふれ出し、浴室の床を流れていく。ちょっとした洪水状態である。
 
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 自家源泉「完熟の湯」は、1分間に計1415リットル自噴している。ドラム缶7本分に相当する量である。シャワーにまで温泉を使用できるのは、余るほど源泉が湧いているからだ。
 
■「湯あたり」しにくいから長湯も可能
 源泉には水を加えておらず、加温、循環ろ過、塩素殺菌もしていない。正真正銘の「源泉100%かけ流し」である。敷地内から湧き出す源泉と湯船の距離は、なんと5メートル。温泉が空気に触れて劣化する前に湯船に注ぐから、新鮮な状態を保つことができる。新鮮だから飲泉も可能だ。
 
 泉質は、弱アルカリ性の「単純温泉」。肌の角質を傷つけることなく汚れをとる「美人の湯」である。わずかに黄色をおびた透明湯は、しっとりとやさしい肌触りが特徴だ。ほんのりと硫黄の香りがするのは、本物の温泉である証拠。「石和の湯は、こんな魅力的な湯だったのか!」と感動してしまうほどだ。
 
 意外なことに溶存物質は、438mg/kg。日本には1000mg前後の温泉が多いので、かなり「薄い」部類に入るといっていいだろう。にもかかわらず、個性をしっかりもっているから単純温泉はおもしろい。「溶存物質が多ければ、濃くて良質な温泉」というわけではないのだ。
 
 単純温泉は成分が濃くないがゆえに、湯あたりをしにくく、何度入っても飽きないのがメリット。「単純ではない単純温泉」をぜひ体感してみてほしい。
 

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