来場者は、展示会に御社の商品を見に来ているのではない!
展示会の開催を2か月後に控えた、ある会社での打ち合わせ。
社長が担当者に尋ねます。
「今回、ブースには何を出すんだ?」
担当者は待ってましたとばかりに答えます。
「新製品Aと、主力商品のB。それから最近問い合わせの多いCも出したいと思います。せっかくなので、既存商品のDとEも並べようかと」
社長もうなずきます。
「そうだな。高い出展料を払うんだから、できるだけたくさん見せた方がいい。うちには、こんなにいろいろできるんだと分かってもらおう」
よくある展示会準備の光景です。
そして開催当日。
ブースには5種類の商品がきれいに並び、それぞれに説明パネルが付いています。カタログも商品ごとに用意しました。
ところが、通路を歩く来場者はなかなか足を止めてくれません。
立ち止まってくれた人に、
「こちら、新製品なんです」
と説明を始めても、
「へえ、そうなんですね」
と一言残して去っていく。
出展者側からすれば、「いい商品なのに、なぜ興味を持ってくれないんだろう」と不思議です。
でも、実は来場者からすると当然なのです。
なぜなら、来場者は御社の商品を見に展示会へ来ているわけではないからです。
こんにちは!展示会営業®コンサルタントの清永です。
弊社では展示会に出展した企業536名、来場した1,089名を対象に実態調査を行い、『展示会白書』としてまとめました。
その中で、来場者が「そのブースに立ち寄ろう」と思った理由を調べたところ、最も多かったのは、
「自社の課題に直結していると感じたから」
で、51.5%でした。
さらに、「デモンストレーションがあった」が40.1%、「事前に注目していた」が36.8%、「会場限定の情報や体験があった」が34.6%と続きます。
この結果には、展示会で成果を出すための非常に重要なヒントがあります。
来場者の頭の中にあるのは「御社の商品」ではない
出展者は、どうしても自社の商品を中心に展示会を考えます。
「今回は何を出展する?」
「新製品を目立たせよう」
「主力商品も置いておこう」
「せっかくだから、この商品も見せたい」
これは無理もありません。
毎日、自社の商品をアピールするために展示会に出るのですから商品を中心に考えるのは自然なことです。
しかし、来場者の頭の中はまったく違います。
たとえば、製造業の工場長が展示会を歩いているとします。
その人の頭の中には、
「最近、不良率が上がっている」
「熟練者が辞めて、若手への技能継承がうまくいかない」
「この工程の人手を減らせないだろうか」
「電気代がまた上がった。何とかできないか」
といった、自社の事情や悩み、問題があります。
その人が通路を歩きながら探しているのは、
「株式会社○○の新製品A」
ではありません。
「自分が抱えている問題を解決してくれる何か」
なのです。
だから、どんなにすばらしい商品でも、その商品と自分の問題とのつながりが見えなければ、足を止めません。
展示会では、この当たり前のことが意外なほど忘れられています。
「何を売るか」から考えると、ブースが分かりにくくなる
もう一つ、展示会現場でよく起きることがあります。
「せっかく出展するのだから、できるだけ多くの商品を展示しよう」
という発想です。
気持ちはよく分かります。
小間代、装飾費、人件費、交通費、宿泊費。展示会にはそれなりの費用がかかります。
だから、
「Aだけではもったいない。BもCも置こう」
となる。
さらに営業部から、
「この商品も売りたい」
開発部から、
「せっかくなので新技術も紹介してほしい」
社長から、
「うちが何でもできる会社だと分かるようにしてくれ」
という要望が加わる。
そうして完成するのが、商品がずらりと並んだ「全部盛りブース」です。
しかし、展示するものを増やせば増やすほど、来場者には分かりにくくなることがあります。
これは、飲食店を想像すると分かりやすいでしょう。
通りを歩いていて、
「ラーメン、寿司、カレー、焼肉、パスタ、うどん、何でもあります」
と書かれた店を見つけたら、どうでしょうか。
「ここは何がおいしい店なんだろう?」
と思いませんか。
一方、
「鯛だしラーメン専門店」
と書いてあれば、一瞬で分かります。
展示会も同じです。
何でもできることと、一瞬で伝わることは別なのです。
ブースで最初に決めるべきは「誰の、何の悩みか」
では、どのように考えればよいのでしょうか。
私は展示会に出展する企業に、
「ワンブース・ワンアイテム・ワンターゲット」
をおすすめしています。
一つのブースで、主役となる商品を一つに絞り、狙う相手も一つに絞る、という考え方です。
もちろん、会社に商品が一つしかなくてもよいという意味ではありません。
ブースの入口で伝えるメッセージを絞るのです。
まず考えてほしいのは、
「今回の展示会で、最も出会いたいのは誰か」
です。
たとえば、
「食品工場の品質管理責任者」
「人手不足に悩んでいる物流倉庫の責任者」
「新しいPB商品を探している小売業の商品開発担当者」
といった具合です。
次に、その人が今、何に困っているのかを考えます。
そして最後に、
「その困りごとに対して、自社は何を使えば一番お役に立てるか」
を決めます。
順番が大切です。
「商品Aを売りたい。誰か買ってくれる人はいないか」
ではありません。
「この人の、この困りごとに対して、自社ならどのようにできるか」
から考えるのです。
商品は、その答えとして登場します。
「商品名」ではなく「変化」を見せる
たとえば、御社が工場向けの清掃機器を扱っているとしましょう。
ブース正面に、
「新型業務用洗浄機 ABC-3000」
と大きく書いたとします。
製品名を知っている人なら別ですが、多くの来場者は、
「自分に関係がある商品かどうか」
を判断できません。
では、
「工場床の油汚れ、清掃時間を半分に」
と書いてあったらどうでしょうか。
日々、工場の清掃に人手を取られている責任者なら、
「ん?」
と足が止まるかもしれません。
これは単なるキャッチコピーの話ではありません。
出展者の視点を「自社が何を売りたいか」から、「来場者がどんな状態になりたいか」へ移すことなのです。
展示会白書で、ブースに立ち寄った理由の1位が「自社の課題に直結していると感じたから」だったことを思い出してください。
来場者は、
「これは面白い商品だ」
より先に、
「これは自分に関係がある」
と感じたときに足を止めるのです。
「商品を減らすとチャンスを逃す」は本当か
ここまでお話しすると、経営者の方からよくこう言われます。
「でも、一つに絞ったら、ほかの商品を求めている人を取り逃がしませんか?」
確かに、心配になるのはよくわかります。
しかし、私は逆だと考えています。
入口を広げすぎることで、本当に来てほしい人からも「自分向けのブースではない」と思われてしまう方が、はるかにもったいない。
主役の商品を一つに絞ったからといって、ほかの商品を売ってはいけないわけではありません。
会話が始まった後、
「実は、そういう課題でしたら別の商品もあります」
と紹介すればよいのです。
大切なのは、最初の3秒で、
「これは自分に関係があるかもしれない」
と思ってもらうことです。
入口は狭く、会話は広く。
これが展示会ブースではとても重要です。
売りたい商品ではなく「相談してほしい課題」を決める
では、次の展示会に向けて、何から始めればよいでしょうか。
まず、出展商品を決める会議をする前に、次の3つを社内で話し合ってみてください。
一つ目。
今回、最も出会いたい相手は誰か。
業種だけでなく、できれば職種や立場まで具体的にします。
二つ目。
その人は、どんなことで困っているのか。
ここで重要なのは、自社の商品に都合のいい悩みを勝手につくることではありません。
普段、営業担当者や技術担当者が顧客から実際に聞いている悩みを出してください。
三つ目。
その課題に対して、自社は何を使って、どのように役立てるのか。
この順番で考えた後、初めて展示する商品を決めます。
すると、
「せっかくだから全部持って行こう」
ではなく、
「今回は、この課題を抱えた人に、この一商品をしっかり見せよう」
という判断ができるようになります。
展示会ブースは、自社の商品倉庫ではありません。
会社案内を立体化した場所でもありません。
来場者が、
「この会社なら、自分たちの問題を一緒に考えてくれるかもしれない」
と感じるための入口です。
社長が最初に聞くべき質問を変える
展示会準備の会議で、社長が最初に聞く質問も変えてみてください。
「今回は何を出すんだ?」
ではなく、
「今回は、誰の、どんな困りごとに応えるんだ?」
と聞くのです。
この質問をすると、その後の議論が大きく変わります。
展示する商品が変わる。
ブースに掲げる言葉が変わる。
スタッフが来場者にかける言葉も変わる。
そして何より、スタッフ自身が、
「この商品を売らなければ」
ではなく、
「この課題を抱えている人を探そう」
と考えるようになります。
すると接客も、売り込みではなくなります。
目の前の来場者に、
「この商品、すごいんですよ」
と説明するのではなく、
「このあたりで、何かお悩みのことはありませんか?」
と会話を始められる。
相手の話を聞いた結果、自社がお役に立てそうなら、そこで初めて商品を紹介すればよい。
逆に、あまり役に立てそうにないなら、無理に引き留める必要はありません。
展示会白書が示した「自社の課題に直結している」という51.5%。
この数字が教えてくれているのは、奇抜なブースをつくれ、ということではありません。
もっと根本的なことです。
来場者は、御社の商品を探しているのではありません。
自分たちの問題を解決してくれる相手を探しているのです。
だから次の展示会では、
「何を展示するか」
から考え始めないでください。
まず、
「誰の、どんな困りごとにお役に立つ展示会にするのか」
を決めてください。
商品は、その答えとして選べばよいのです。
あなたの展示会の成功を心から応援しています。
◎2026年10月から11月のおすすめ展示会
※展示会・イベントの日程は変更することがあります。公式サイトから確認をお願いします。

清永 健一(きよなが けんいち)
株式会社展示会営業マーケティング 代表取締役
展示会営業Ⓡコンサルタント。中小企業診断士。奈良生まれ、東京在住。神戸大学経営学部卒業後、メガバンク系コンサルティング会社など複数の企業で手腕を発揮し、2015年に独立、株式会社展示会営業マーケティングを創業する。「展示会は売上アップへの投資効率に最も優れた手法」と主唱。支援先企業からは、集客・受注・売上が大幅に増加したと好評の声が多数あがる。著書の「飛び込みなしで新規顧客がドンドン押し寄せる展示会営業術」「中小企業のDX営業マニュアル~オンライン展示会をきっかけとした営業改革術」(ともにごま書房新社)、「仕事のゲーム化でやる気モードに変える」、「営業のゲーム化で業績を上げる」(ともに実務教育出版)はいずれもamazon部門1位を獲得。行政、公益法人、金融機関、各地の商工会議所など講演実績多数。 ホームページ:https://tenjikaieigyo.com/
























