社員の意欲を高め、儲かる会社にするには何をすべきか。リクルート、ユニクロ、ソフトバンクと、名だたる企業を渡り歩いてきた経営コンサルタント・松岡保昌氏に、時代の変化にも柔軟に対応できる「人が動く組織づくりの秘訣」をお聞きしました。(3/3)
※このインタビュー記事は、全3回にわたってお送りしました。
■松岡保昌 氏(まつおかやすまさ)/株式会社モチベーションジャパン 代表取締役社長
人の気持ちや心の動きを重視し、心理面からのアプローチを得意とする経営コンサルタント。同志社大学卒業後の1986 年‐2000 年、リクルートで「就職ジャーナル」編集や、組織人事コンサルタントとして活躍。その後、柳井正氏が率いるファーストリテイリングに参画。人事総務とマーケティングの執行役員を歴任し、ユニクロ事業の飛躍の契機となる「製造小売モデル」への転換期にあった同社の急成長を、人事・組織の側面から支える。2004 年には孫正義氏が率いるソフトバンクに参画。B to C事業の強化を図る中、初代ブランド戦略室長として、CIを実施。現在の同社ロゴマークを作成する作業なども主導。また、福岡ソフトバンクホークスマーケティング代表取締役、福岡ソフトバンクホークス取締役として、球団立ち上げにも携わる。売上1兆円の大台突破、営業赤字→営業黒字へと成長する過程を支える。現在は、これまでの経験を活かした企業コンサルティングに精力的に取り組む。
指示系統の統一が、現場の信頼を得る
Q 会長と社長というトップが二人いる組織において、社員を上手くまとめるためには何が必要でしょうか?
とにかく会長と社長の意見が一致していることが大切です。やってほしいのは、二人で徹底的に話し合って、考えを一つにしてからおろすということです。意見の相違は人だから絶対にあるのです。それをそのまま下にぶつけてはいけないということ。それをやると現場が混乱します。
意見の統合のやり方は、いろいろあります。会長と社長で、徹底的に話しているケースや、会長のほうが社長に任せているからということで、社長メインにしながらも、気になるときは会長が社長に伝えるケース。または、「私は社長になってはいるけれどもまだ見習いで、実質の経営はまだ会長がやっているので」ということで、何か思うことがある場合には、社長が会長に話をして意見調整しているケースもあります。会長と社長の間で、そのバランスはどちらでも良いのですが、とにかく指示系統が一つになっているというのが大原則です。そうすると現場は困らないし、現場が上を信頼します。
社員が上を一番信頼しないのは、会長と社長が現場を巻き込んで権力闘争のようなことをする時です。会長と社長から「俺の言うことを聞け」と言われたときに、何が起こるかご存じですか。現場は、言われたことをやっているふりをするだけになるのです。みんな会長と社長の両方と上手に付き合おうとします。どちらからも「何でそんなことをしているのだ」と言われたくないから、結局、やった振りをする。いつ変わるかわからないから結局やらない。つまり、何もしない組織になる最大の原因は、両トップが自分の我を通すところから始まっていることもあります。意見の違いをそのまま下にぶつける。それは絶対にやってはいけません。
「経営チームづくり」で、組織を次のステージに導く
Q 創業社長からバトンを受けた後継者が、社員と上手くコミュニケーションをとり、組織の連携を強めていくためには、どうすればよいでしょうか?
まず、後継社長は、自分の経営チーム=自分の幹部チームをつくることです。幹部チームができていない会社は、2代目だろうが、1代目だろうが、サラリーマン社長だろうが、会社は強くなりません。一つのチームになっていないからです。ですから、強い会社の共通項は、経営チームの意思疎通が図れていて、やると決めたら手分けしてできることです。
そして、もうひとつ考えなければならないのは、先代のやり方で動く社員の習慣をどう変えるかです。先代というのは創業者であることが多いと思いますが、創業者は、やり手が多いですよね。自分でガンガン決めて、言うこと聞けと。社員を引っ張っていくタイプが多いのです。ところが、後継者にはそこまでの強引さはない。いい意味でも悪い意味でも創業者とは違います。代わりに、もっといいものを持っていることも多いですね。バランス感覚とか、社員に主体性を発揮させようとする姿勢とか、経営に大切なものを持っていることが多いのです。つまり、やり方が違うのですから、自分のやり方に合った経営チームをつくらなければならないのです。
私はいま、幹部チームをつくるところから手伝いしている会社があります。以前は、前社長の指示で動いていたので、幹部が指示待ちなのです。逆に言うと指示が来れば、すぐに動く。それが悪い訳ではないのですが、自分たちでは考えられない。指示で動くことが習慣になっているのです。そのような幹部を刺激して、自分たちの役割を認識してもらい、主体性を発揮してもらいます。そうして、やっと幹部チームができるのです。
さらに、幹部チームができたら、社員がやる気になるような言葉を、その幹部チーム内の共通言語にしていくのです。例えば、「こういう新しい意見がお客さんからありました」「それいいね、やってみようよ」などです。これが当たり前の会話になっている会社では、どんどん新しいことに挑戦する気風が生まれます。逆に、「何言うとんねん、うちはそんなことするわけないやないか」というような言葉が頻繁に出てくる会社では、新しい提案など生まれないでしょう。幹部で理想の会社像を決めて、それにふさわしい言葉を使うようにしていきます。そこから組織が変わりはじめます。
自社の強みを磨き、自社に合った制度の確立を
Q 最後に一言、社長へメッセージをお願いします。
一言でいうと、良い事例を聞いたから、見たからといって、他社をそのまま、まねしないで欲しいということです。人事に絡む施策の良い事例を知ったら、すぐに自社にも取り入れようとする人が多いのです。なぜ、いけないのかというと、これは「人が動く組織のつくり方」講話の中や、私の書籍『人間心理を徹底的に考え抜いた「強い会社」に変わる仕組み』(日本実業出版社)で、3つの枠組みとして説明しているのですが、人事の仕組みや制度というのは「企業理念」を実現させるような行動を促進させるものでなければいけないのです。
そして同時に、「コアコンピタンス」つまり、自社の中核的な強み。他社と戦うときに何が強いのか、その中核的強みを強化させるものでないといけないからです。「企業理念」と「コアコンピタンス」、この2つを強化させるように、社員の行動や思考を促さなければ、逆に会社が弱くなることすらあります。「企業理念」は、「社外規範」、「社内規範」で構成されていることがほとんどです。それと「コアコンピタンス」を強化するように、人が自然と動くような仕組みをつくらなければならない。
人が動く組織がよいからといって、社員が勝手に適当に動いたら、逆にとんでもないことになりますよね。この2つの方向に対して人が自然と動く仕組みをつくらないといけない。ここを考えないといけないのです。他社とは「企業理念」も「コアコンピタンス」も違うはずです。それらが違うとやるべきことがまったく違いますから、それを知らずに他社のものをまねると、下手したら痛い目に遭いということを理解してほしいのです。その例を「人が動く組織のつくり方」講話の中で紹介しています。
ある地方の携帯会社が、都心の携帯会社の人事制度をまねて、効率を重視した人事制度を導入した結果、売り上げがガクンと落ちたという事例です。だから本当に、この人事の仕組み制度というのは、人が自由に動いたらいいわけじゃなくて、やっぱりあるべき方向に自然に動くように設計しないといけないのです。
具体的なやり方はこの「人が動く組織のつくり方」講話や、『人間心理を徹底的に考え抜いた「強い会社」に変わる仕組み』(日本実業出版社)中で、実際にユニクロをどうやって変えていったかという実例として紹介しています。その中には、皆さんが会社を実際に変えるときの参考になる考え方や具体的な方法がありますので、絶対に参考になると思います。そのベースにあるのは他社をまねしてはいけないということ。「自社独自のものをつくる」、それが一番大事です。
(全3回 インタビュー終了)ご拝読いただきありがとうございました。
松岡保昌氏「人が動く組織のつくり方」講話発刊記念 講師インタビュー
・第1回「時代の変化に対応できる組織をつくるには」
・第2回「心理的安全性を高める秘訣」