人材派遣会社で20年超、1万5000人のキャリア支援と、製造・建設・不動産・サービス・金融業など多様な業界で、大手から中小企業まで約800社の社員定着の指導に関わってきた
組織定着のプロ・瀬戸山孝之氏。今回、『社員が辞めずに働きたくなる仕組み』音声講話の発刊にあたり、「入社3ヶ月でどんな人材も戦力に変える、中小オーナー社長が取り組むべき社員定着、育成の仕組み」をお聞きしました。
■瀬戸山孝之氏(せとやま たかゆき)氏/日本オンボーディング研究所 代表/組織定着コンサルタント
1970年宮崎県生まれ。パーソルテンプスタッフ株式会社にて20年以上にわたり営業およびマネジメントの最前線で活躍。これまでに累計15,000人以上のキャリア支援、製造・建設・不動産・サービス・金融業など多様な業界で、大手から中小企業まで約800社の社員定着の指導でも手腕を発揮。その豊富な経験をもとに、心理学と組織論を組み合わせ3つのステップで入社した社員が辞めずに3ヶ月で戦力化させる手法を確立させる。導入企業では、業界平均が20~30%の環境下で離職率10%未満を継続的に達成。また、同社において「スタッフコンシェルデスク」の立ち上げに関わり、現在は20,000人以上の新人の就業支援を行う傍ら、現場で培った知見をもとに、新入社員のトラブル防止や職場定着に向けた育成研修や講義を社内外で実施。著書『新人社員が職場に定着する入社初日の魔法』ほか多数。
社員が定着するためのカギは、人間関係にある
Qまず初めにお聞きします。『人が辞めない組織』をつくる最大の秘訣は何でしょうか?
一言で表すなら、「人は、人に定着する」ということです。
私自身、若い頃に長時間レストランフロアを歩き続ける激務で体重が大きく落ちた経験がありますが、それでも辞めなかったのは、周囲の方々の「ご飯食べた?」といった温かい声かけと、私のことを気遣ってくれる「人(仲間)」の存在があったからです。人は労働条件や仕事のスキルだけで動くのではありません。人との温かい関係や「ここにいてもいいんだ」という「居場所」の感覚があるからこそ、その会社で頑張ろうと思えるのです。
まず理解に徹し、そして理解される
Q具体的な取り組みについても教えてください。
例えば、新人を迎える時は、入社前にパソコンの設定を終わらせておく、名刺や制服の用意をしておくなどの「準備」が大切です。つまり、歓迎の意志をしっかりと伝えることです。
また、定期的な面談や「名前」を呼んで積極的に声をかけるという取り組みは、今いる社員にも有効です。
そして何より大事にしてほしいのは、会社のルールを一方的に押し付けるのではなく、社員の価値観や考えを先に理解しようと寄り添う姿勢です。それをもとにコミュニケーションをとる。この姿勢が揺るぎない信頼関係を生み、社員が辞めずに働きたくなる会社づくりにつながります。
Qこの講話では、新人が主力になるまでの受入体制を3つのステップで体系化していただきました。
新入社員が仕事に慣れて活躍するまでの期間を、私は「3日間」「3週間」「3ヶ月」という3つのステップに分けています。
最初の「3日間」。新入社員の頭の中は新しい環境への緊張でパンク寸前です。ここで高度な仕事を求めてはいけません。目標は安心感を提供し、「今日は安心して眠れる」と思ってもらうことです。完璧な受け入れ準備と、一日の見通しが立つスケジュールを渡し、不安を取り除くことに徹します。
次に「3週間」の時期。少し環境に慣れてくると同時に「孤独感」が襲ってきます。この時は社内を案内して色々な人を紹介し、「誰に聞けばいいかわからない」という壁をなくします。また、仕事を教える時は「なぜやるか」という目的と「どうやるか」という手段をセットで伝え、自分で考える力を育てます。
そして最後の「3ヶ月」は、完全に自立させる総仕上げの時期です。小さな仕事を任せて、失敗しても「よく挑戦したね!」と称える文化で自信を持たせます。こうして順を追ってサポートすることで、新人は確実に成長していきます。
「仕組み」をつくれば人は育ち、会社は伸びる
Qなぜ、「仕組み」にする必要があるのでしょうか。どのようなメリットがありますか?
誰でもできる仕組みにこだわるのは、新人・中途社員の受け入れを、教える担当者の「やる気」や「個人の能力」に頼る状態から抜け出すためです。
昔のように「先輩の背中を見て覚えろ」といった根性論や、「うちの会社はこんな感じだから」という暗黙の了解は、今の若者や別の会社から来た人には通用しません。
例えば、上司が「いい感じに、なるべく早く資料をつくっておいて」と感覚的な言葉で指示を出したとします。受け取り方が違う新人とはズレが生まれやすく、見当外れな成果に上司が苛立ち、新人が落ち込んで会社を去る、というケースは珍しくありません。
Q社員の定着化、即戦力化が組織に浸透するために、社長がやるべきことは何でしょうか?
社長がまずやるべきことは、若い世代や中途採用者、パート、「昔のやり方が正解」と主張するベテラン社員まで、多様な価値観を無理に一つにまとめようとするのではなく、会社の「目指す未来(ビジョン)」を熱く語り、皆の目標として掲げることです。
若手は「効率」や「スピード」を重視し、ベテランは「経験」や「クオリティ」、「顔を合わせる安心感」などを重んじます。一見対立しているように見えても、実はどちらも間違っていません。社長は価値観の違いを否定するのではなく、相手を理解することに徹してください。
その上で、「お客様に最高のサービスを届ける」といった会社の目標に立ち返らせるのです。
人が辞めない会社をつくる最終的な決め手は、人事担当者でも現場のリーダーでもなく、トップである社長の熱意と決断です。社長自らが「この会社に入ってくれてありがとう」と一人ひとりに目を向け、心からの歓迎やねぎらいの言葉をかけることが、社員の定着化、即戦力化につながる最も強力な一歩となります。
社員の心を閉ざす言葉は排除せよ
Qでは、社長が良かれと思ってやってしまいがちなNG行動はありますか?
社長や現場のリーダーが良かれと思ってやりがちな最大のNG行動は、相手を理解する前に「自分をわかってもらおう」とすることです。「俺の若い頃はこうだった」「俺はこんな仕事を成功させた」「うちの会社はこういうやり方だから」と、過去の苦労話や常識を一方的に押し付けるのは、社員の心を閉ざしてしまいます。
Q最後に、この講話を聞かれる社長へメッセージをお願いします。
私がかつて新人の頃、入社3日目に大遅刻をしてしまったことがあります。絶望して逃げ出したくなりましたが、電話の向こうから聞こえてきたのは同期の大爆笑の声でした。そして、何もできない私を見捨てず、手取り足取り仕事を教えてくれた先輩がいました。その温かさがあったからこそ、私は激務の中でも辞めずに働き続けることができたのです。
中小企業には、社長自らが社員の顔を見て、日常の声かけができるという最大の強みがあります。
人は、人によって傷つくこともありますが、人の温かさによって癒やされ、居場所を見つけ、成長していくのです。
社長が自ら先頭に立ち、社員が「この会社に入って本当によかった」と心から思える会社を、共に創り上げていきましょう。講話でお会いできることを楽しみにしております。





























