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第66回
世界の「超高速鉄道」は”真空チューブ列車”の時代に突入?
~鉄道王国・日本の威信に賭け、さらなる高みを目指せ!~

次の売れ筋をつかむ術

 

 
超高速鉄道と言えば日本のお家芸であり、新幹線と超電導リニアモーターカーは
他の国々を寄せ付けない世界有数の技術と運用のレベルにある。

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しかし、過信してはならない。戦後の高度成長期以降、20世紀末に至るまで、
家電、アナログ通信・放送、コンピュータ、携帯電話といったエレクトロニクス、ITの分野において、
日本は圧倒的に世界をリードしていた。
 
ところが、21世紀に入り、インターネットが登場し、デジタル通信・放送技術が主流になると、
世界のエレクトロニクス、IT産業の勢力図は一変し、
今や日本のエレクトロニクス、IT企業は世界市場において他の国々の後塵を拝し、引き離される一方だ。
 
現在の主戦場であるコンピュータOS、検索エンジン、スマートフォン、SNSなどの分野では、
もはや、見る影もない。
 
超高速鉄道においても、高をくくっていると、根本的に戦い方とルールが変わり、
気が付けば、過去の栄光になりかねない。
 
今世紀の前半、人口が急増しているアジアをはじめ世界中が超高速鉄道の敷設を計画しており、
その巨大インフラ建設市場を巡って、
日本、アメリカ、EU、中国による官民を挙げた争奪戦がますます激化して行く。
 
こんな美味しい市場をおいそれと日本に献上してくれるほど世界は甘くない。
 
次世代の超高速鉄道に関する世界市場において、
日本の新幹線とリニアモーターカーを、ガラケーのようにガラパゴスの遺物として葬り去るべく、
根本的に戦い方を変えようと各国が虎視眈々と狙っている。
 
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●テスラの起業家イーロン・マスクが構想した「ハイパーループ」が5年後に実現!
 
アメリカが超高速鉄道の開発に本腰を入れ出した。
それも日本などが推進して来た現存する高速鉄道の仕組みとは
抜本的に異なる考え方で生み出された技術を使用した運行方法によるものだ。
 
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電気自動車で世界をリードするテスラの起業家として知られるイーロン・マスクによって、
2013年8月に公表された次世代交通システム「ハイパーループ」 (Hyperloop)である。
 
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従来の超高速鉄道と根本的に異なるのは、
出発点から終点までを「真空チューブ」または「減圧チューブ」で結び、
その中に浮かべたカプセル型の車両を走行することで、
空気抵抗と摩擦抵抗を限りなく減らし、
より低コストでより高速な移動を実現するというものだ。
 
「ハイパーループ」の最高速度は時速約800マイル(約1287km)に達する。
リニアモーターカーの約2倍、航空機並みの速さで、
ロサンゼルス=サンフランシスコ間(610km)を約30分、
東京=大阪間をわずか20分で移動できる速度だ。
 
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また、「ハイパーループ」で使用する電力はチューブの外壁に搭載された太陽光パネルで賄われ、
石炭や石油、ウランなどの化石燃料は不要だという。
 
車両には永久磁石を使用し、軌道には受動的コンダクタが埋め込まれる。
日本の超電導リニアのように冷却した超電導磁石を使わないため、
浮上システムに電力を必要としない。
このため、必要に応じたシステムの拡張がより容易になる。
 
ロサンゼルス=サンフランシスコを結ぶ場合、
総建設費は約75億ドル(7,100億円)が見込まれる。
そのうち、チューブの建設費用が必要経費の主要部分を占め、
車体の経費は合計で10億ドル未満と考えられている。
 
最大乗員28人を乗せたカプセルを毎30秒ごとに発車する計画で、
年間片道740万人の超高速輸送が可能になるという。
 
2016年5月11日には、ラスベガスの北に広がるネバダ砂漠で、
ハイパーループ・ワン社が試験車両の走行に成功した。
 
この試験は推進機構だけに焦点を当てたもので、チューブ内を走る実験ではなかったが、
2016年末までには約40㎞にわたる巨大なチューブ状の実物大の走行路を作る予定だ。
 
今後、さまざまなハードルは残るものの、何と5年後の実現を考えているという。
 
 
●中国が世界初の人を乗せた「真空チューブ超高速リニア鉄道」の試験に成功
 
現在、アジアやアメリカなど世界各国における、超高速鉄道の受注合戦で日本と競合している中国も、
だまって指をくわえて見ているはずがない。
 
「真空チューブ」や「減圧チューブ」の中を走行する超高速鉄道についても、
アメリカとしのぎを削り、開発を進めている。
 
2004年には、中国科学院や中国工程院などから専門家数人を集めてプロジェクトを開始。
2007年には、国の自然科学基金プロジェクトの一つに選定され、助成金を得て開発が進められており、
2020年~30年の実用化を目指している。
 
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その開発の拠点となっているのは、中国内陸部に位置する長江上流の中心都市・重慶にある西南大学だ。
 
2014年には、世界初の「真空チューブ超高速リニア鉄道」に乗客が搭乗した状態での
環状軌道試験を成功させたと発表している。
 
減圧したチューブの中を車両が走行する点は「ハイパーループ」と同様だが、
アメリカでは車両を完全に浮かせるのに対し、中国ではチューブの側面に軌道が存在する。
 
軌道を敷設することによって遠心力の制約から来る速度の限界を突破し、
走行速度を大幅に向上させられるのだという。
 
実験では環状真空チューブの半径が6mと小さいことから速度が大幅に制限されてはいるものの、
世界初の真空輸送システムのプロトタイプを作り上げたこと自体に意義があり、
近い将来、運行を実現した上で新たな研究成果を発表する予定だとしている。 
 
「真空リニア」は、ジェット旅客機の10分の1の燃料しか必要とせず、
騒音や大気汚染もなく、空気抵抗がないため、理論上は時速数千km~数万kmも可能だと述べている。 
 
中国科学院は、「真空あるいは減圧チューブ方式は超高速を実現する唯一の方法であり、
超高速リニア列車は未来の交通輸送の重要な手段である」と主張しており、中国が国を挙げて、
「真空チューブ超高速リニア鉄道」の実現に向けて取り組んでいることがうかがえる。
 
 
●「真空チューブ超高速鉄道」は19世紀から存在する古くて新しい技術
 
ほぼ真空のチューブ内を列車を走行させることで、空気抵抗と摩擦抵抗をゼロに近づけ、
超高速で物資や人を輸送する「真空チューブ超高速鉄道」のアイデアは19世紀から存在していた。
 
「気送管」(英語でpneumatic tube / pneumatic dispatch)、
和製英語では「エアシューター(エアシュート)」と呼ばれた技術で、
専用の筒の中に書類などを入れて管の中を圧縮空気もしくは真空圧を利用して輸送する手段として、
19世紀~20世紀初頭にかけて世界各国で実用化された。
 
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イギリスで1854年、アメリカでは1876年に実用化され、主に電報の運搬に用いられた。
日本でも、明治42年(1909年)、東京江戸橋郵便局と兜町株式取引所の間、
江戸橋郵便局と神田郵便局との間に設置された。
 
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19世紀初頭に技術が登場した当初から、物資だけではなく、
気送管を使用して人を輸送する「気送交通」が構想され、イギリスやフランスで実験が行われていた。
 
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第二次世界大戦後の1960年代にも、アメリカ商務省の依頼で、
ロッキード社とマサチューセッツ工科大学が真空鉄道の実験を行っていたと言われる。
 
しかし、当時はエネルギー効率が悪く、20世紀中に各国でほとんどが廃止され、
その後、かえりみられることはなかった。
 
それが1世紀の時を経て復活して来たのだ。
 
 
●東京=大阪間を14分で結ぶ「超音速滑走体」の実験が日本で成功していた!?
 
「真空チューブ超高速鉄道」は、現時点ではアメリカや中国がリードしていると思われているが、
実は日本こそが元祖とも言えるのだ。
 
1950年代から1970年まで、後に名城大学の学長になる小澤久之丞教授が、
「ロケット列車」の実験を行って何度も成功を収め、世界各国から注目を集めていたのである。
 
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小澤教授は、東京帝国大学の工学部を卒業後、三菱重工の航空機製作所に勤め、
戦時中に旧陸軍の爆撃機「飛龍」を設計した日本有数の航空エンジニアだった。
 
しかし、戦後、連合軍総司令部(GHQ)の指令により、日本では航空機の生産は全面的に禁止され、
その後、航空機設計の夢を断たれた。
 
そこで、名城大学に奉職し、「飛行機づくりに携われないのならば、
航空機の速度を上回る地上の乗り物を実現させたい」と取り組んだのが、
ロケットを動力にした「超音速滑走体」だった。
 
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ダイナマイトにも使われるニトログリセリンを燃料としたロケットエンジン搭載の列車を
真空チューブの中を走行させる実験を行い、
音速(時速1240km)を超えるマッハ2の「超音速滑走体」を現実のものとしたのだ。
 
1970年(昭和45年)の実験では、列車は1600mを3秒で走り抜け、
時速2500kmという驚異のスピードをたたき出した。実に、東京=大阪間を14分で移動できる速さだ。
 
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この時の実験では止まり切れずに脱線して車体は分解し、
乗客のミドリガメとゴキブリは殉職したものの、同乗していたカエルは生還した。
 
戦後、SF作家として活躍した星新一氏(1926年~1997年)は『学士会報』の1970年10月号に、
世界各国のSF作家たちと共に滑走実験の動画を鑑賞した際のことを以下のように記した文を残している。
 
 ※これを一口で言えばロケット列車。実際の映画を見る。まさに驚異のスピード。
  真空のチューブ内を通過させれば、空気内の抵抗がないため速力はさらに高まり、
  ハワイまで40分ほどで行けるという。
  ソ連からのSF作家たちは「これでモスクワ~シベリア間を結べばどんなに便利になることか」と
  非常に興味を示した。
  イギリスのSF作家ブライアン・オールディスは肩をすくめ「カミカゼトレーン」と一言。
  空想小説の中では盛んに登場させていても、現実に実験をやっているのだと知ると、
  やはり驚きなのである。
 
しかし、この「超音速滑走体」には、加速によって最大で約30Gもの大きな重力がかかり、
実際に人が安全に乗車することはできなかった。また、超音速からいかにして減速し、
安全に停車するかという問題もあった。
 
結局、これらの課題への対策が未解決のまま、小澤教授が死去したため、
研究開発は終了してしまった。
 
 
●鉄道王国・日本の威信に賭けて、さらなる高みを目指そう!
 
当時、小澤教授による実験は、テレビ、新聞、少年雑誌、児童向けの図鑑などで次々に紹介された。
 
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また、その後も、東京・万世橋の交通博物館や、大阪・弁天町の交通科学博物館には、
リニアモーターカーと共に、この「真空チューブロケット列車」の模型が設置されていた。
 
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小澤博士の実験に心を揺さぶられ、その後、エンジニアになった人たちが、
現在も日本各地に数多くいるに違いない。
 
古今東西、技術革新に安住の地はない。先んずれば人を制す、後るれば則ち人の制する所と為る。
 
新幹線とリニアモーターカーがあるからと、うかうかしてはいられない。
小澤博士の遺志を継ぎ、鉄道王国・日本の威信に賭けて、さらなる高みを目指そう!
 
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