第52回（相性の良いサービスを組み合わせる「ミューズ治療院」）

あんまマッサージ、整体、カイロプラクティック、リフレクソロジー…。
今やマッサージ店は、完全な飽和状態。競争を勝ち抜くには、他店との明らかな差別化が欠かせない。

そんな厳しい環境のなか、見事に差別化に成功しているのが、横浜市のミューズ治療院だ。
開業４カ月で早くも黒字経営を実現している。

同院の特徴は、なんといっても、人間だけでなく、「犬」のマッサージも手がけていることだ。
永井院長は、あんまマッサージ師の国家資格と、犬のマッサージ 師「ドッグセラピスト」の
民間資格を保有していて、一人で２種類のマッサージをおこなえる。
法律の関係上、犬のマッサージは出張でしかできないが、
「私だけでなく、うちのワンちゃんも健康にしてほしい」というニーズに、
ワンストップで応えられるわけだ。

こう聞くと、なかには、「犬にマッサージなんて」と思う人もいるかもしれない。
しかし、実態はかなり切実だ。
じつは、椎間板ヘルニアで寝たきりになる犬は 非常に多いという。
同院でも、ヘルニアを発症した、もしくはその予備軍である老犬に、
マッサージを施すことが多いそうだ。

「人も犬もマッサージする」アイデアに行き着いたのは、客の声がきっかけだ。
独立前に勤めていた治療院で、永井院長は、常連客が、
突然、来院回数が減るケースを何度も体験した。
それとなく理由をたずねたところ、
「椎間板ヘルニアになった飼い犬の介護が忙しい」という人が何人もいたという。
そこで、ドッグ マッサージを独学し、一人の飼い主の元に出張して施術すると、
その犬は快方に向かった。この一件でいっそう興味を持ち、
ドッグセラピストの学校に入学し て、本格的に技術を学んだそうだ。

このように、犬のマッサージ技術を身に付けたことで、同院は、人だけでなく、
犬の客も増やせたわけだが、メリットはそれだけに止まらなかった。

想定外だったのは、顧客の愛犬家のネットワークによって、同院の評判が口コミで広がったことだ。
おかげで、「犬」だけでなく、「人」の顧客も一気に増やすことができた。

また、愛犬家との交流が、短期間で地元に根付くことにもつながった。
永井院長は、治療院の前で、犬の散歩で通りがかった客とよく談笑している。
その時に、 地元の人から話しかけられることが多いそうだ。
行きつけの治療院を選ぶ基準に、「人柄」を挙げる人は少なくないが、
新しくできた治療院の先生にはなかなか 話しかけづらい。
しかし、「犬に興味を持った」ということで話の輪に加われば、
客も、それとなく人柄が探れるというわけだ。

じつは、同院は、開業以来、広告をほとんど打っていない。
「それでもお客様に来ていただけるのは、わんちゃんパワーに尽きます」と永井院長は笑う。

「相性の良い２つのサービスを掛け合わせることで、予想以上の相乗効果が得られる」。
ミューズ治療院の例は、他の業種でも応用が利きそうだ。
街を見渡して も、「印鑑店と事務用品店」「本屋とカフェ」
「マンガ喫茶とネイルサロン」などは、その例といえる。
相性の良い組み合わせは、意外とまだ埋もれているかも しれない。
（カデナクリエイト／杉山直隆）


◆社長の繁盛トレンドデータ◆

『ミューズ治療院』

神奈川県横浜市西区平沼1-20-15

TEL：045-323-2923

最寄り駅：相鉄線「平沼橋」駅より徒歩２分