広々とした店内。バーカウンターで一人で飲むのもオツ。
多様な使い方ができる個室。チーム・ミーティングにも最適だ。
テーブルはサッカーコートを模している
『E,s CAFÉ』の原点、CPサッカー「エスペランサ」の試合。
蒸し鶏のシーザーサラダ
他店舗に負けない様々なメニュー
コンセプトカフェは何かをアピールしたり、新しい考え方を広めたり、同じような好みの人を集めたりするのに便利な存在だ。文具カフェ、猫カフェ、サプリメントカフェ、ハンモックカフェをはじめ、現在は様々なコンセプトカフェができている。そして今年の3月、またひとつ新しいコンセプトカフェが誕生した。
多摩センターのスポーツカフェバー『E’s CAFE』がそれだ。場所はIT企業などが入居しているガラス張りのしゃれたオフィスビルの最上階。隣は、様々な大会が開かれる本格的な室内フットサルコートだ。全国リーグ、通称Fリーグ所属チーム『ペスカドーラ町田』の拠点でもある。練習帰りに『E’s CAFE』で食事をしていく選手用に特別のメニューも用意しているという。
『E’s CAFE』は、自然素材をふんだんに使ったクラブハウス風のつくりで、フットサルコートとも雰囲気がマッチしている。しかし、『E’s CAFE』は、単なるスポーツのコンセプトカフェではない。実は、障害者が自立するための就労継続支援A型の指定を受けた事業所でもある。ちなみに就労継続支援にはA型とB型があり、それぞれの違いは雇用契約があるかないかだ。
「一般にA型事業所の給与は約67,000円、B型事業所だと約15,000円程度。障害を持つ方は、それに障害年金と生活保護を組み合わせて生活しているという状況です。給与が少ないのは事業の収益性の低さが、ダイレクトに給与に響いているため。一方で、福祉事業所には、障害を持つ利用者一人当たり月5万円~12万円程度の給付金が国から出るので、それを運営費に充てれば(※平成29年4月1日より、A型事業所において利用者に支払う賃金は原則として自立支援給付から充当してはならない旨の規定が設けらた)、効率が悪い事業所でも生き残れてしまうのです」と話すのは『E’s CAFE』の立ち上げ支援をした日本財団の廣瀬正典氏。
給付金に頼るのではなく、事業者として収益をあげて障害者にきちんとした給与を支払う。そんな当たり前の職場をつくることをひとつの目的に、『E’s CAFE』のオーナー神一世子氏と事業を立ち上げた。当面の目標は10万円以上の給与を払うことだという。加えて、障害者の仕事のイメージを変えることも狙っている。従来、人目につかない作業場的な職場での単純作業が中心であったことから、大勢の人に接する機会が多く、洒落た雰囲気が漂う職場を用意したわけだ。「将来、ここで働かせたい」と見学にやってくる障害者を持つ母親も少なくない。
店内は45席、それに20席の個室がある。どちらにもスクリーンがあり、フットサルだけではなく多様なスポーツの試合を流している。フットサルコートで試合やイベントがある時には、その様子を中継する。現在、フットサルコートを使った『E’s CAFE』のイベントも準備中だ。
現在、障害を持つ従業員は5人。調理補助やフロアを担当している。神氏をはじめ、健常者のスタッフが仕事に慣れていくにしたがって、受け入れ障害者を増やしているが、65席の店舗での受け入れ人数はたかが知れている。そこで、イベントの企画、映像の編集、また、ビル内の他の企業への弁当やコーヒーの出前など、新たな業務を準備している。
もうひとつの目標は障害者のスポーツ振興だ。そもそも神氏は、CPサッカー(脳性マヒのための7人制サッカー)を支援するボランティアをきっかけに障害者に関わり、エスペランサというCPサッカーチームの運営をしている。エスペランサは、スペイン語で「希望」とか「あきらめない」という意味。『E’s CAFE』の『E』もエスペランサからとられたという。
CPサッカーのチームメンバーが、隣のフットサルコートで試合をし、その様子が店内に流れ、健常者が障害者のスポーツへの理解を深める。また、これまでスポーツなどしたことがなかった障害者が、刺激を受けて自分もスポーツをやってみようかと思う。一方、試合を楽しんだチームのメンバーたちは個室で、試合の様子を撮影したビデオを見ながら反省会をする。
CPサッカーの支援をしながら、いつか、そんな場をつくりたいと考えていたところ日本財団のプロジェクト、障害者雇用を支援する「はたらくNIPPON!計画」(リンク:
http://hataraku-nippon.jp/)を知り、応募し、オープンにつながったのだという。
オープンに際して、注意したのは、福祉関連施設だということに甘えないこと。障害者を支える福祉事業所は、どうしても障害者目線で物事を考えてしまうため、お客様が望む質の高いもの、ではなく障害者がつくったものをどう売るか、の視点に無意識的になりがちだ。それでも給付金で運営できてしまっていたが、商品は売れないために、安価になりがちだ。そのため、価格を安くするのではなく、一般の飲食店と対等に勝負できる質を確保して、むしろ高くすることを狙った。付加価値をつけ、利益率を高めていかなければ、とても障害者の給与をあげることなどできないからだ。そのため、某飲食店グループにコンサルティングも依頼した。コンセプトもじっくり練った。
「『E’s CAFE』は、実はフットサルコートのロビーだった場所。コンセプトをきちっと練り上げたから、理解して下さり、一部のスペースを貸してくれたわけです」(神氏)。
顧客の中心は、平日は同ビル内の各企業の社員や近隣のオフィスに通う方々、休日は近所の家族連れ。障害者事業所とは知らずに入ってくる。そして、障害者が普通に働いていることに驚くそうだ。
「まずは障害者が働いているのが当たり前だという環境づくりから。誰も驚かなくなった時、一般企業でも障害者の雇用は一挙に進むと思います」(神氏)。
ところで、少し前までは、コンセプトカフェは、まずコンセプトありき。コンセプトがよければ味は二の次という雰囲気があった。しかし、すでにコンセプトカフェができて数十年。どれだけ新しいコンセプトでも、まずは飲食店としての魅力がなければ意味がない。『E’s CAFE』は、場所選び、メニュー開発の段階から、それを肝に銘じたことが成功につながったといえよう。(カデナクリエイト/竹内三保子)
◆社長の繁盛トレンドデータ◆
ランチ・カフェ&スポーツ・ダイニング・バー 『E’s CAFE』
東京都多摩市落合1-47 ニューシティ多摩センタービル8階
小田急多摩センター駅より 南口より徒歩6分(約500m)
TEL 042-311-2022
営業時間 11:00〜22:00(L.O.21:00)