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第41話 「想定外の動きを見逃さない!」

北村森の「今月のヒット商品」

 本来狙っていた消費者層とは別のところから、その商品が突然売れ始めるというケース、意外とあります。

 

 最近の例を挙げてみましょう。まず今年(2020年)の秋、ネスレの麦芽飲料「ミロ」がいきなり品薄状態となりました。
子どもをターゲットに定めたロングセラー商品がなぜ突然? どうやら大人にとっても栄養をとるのに適しているらしい、
というクチコミが広がったのが要因だったようです。

 

 まだ例はありますよ。みなさんご存じの「ワークマン」。プロのための作業服を幅広く取り扱う店舗ですね。
来店するのは建設現場などで働く人ばかりと思うのがまあ普通でしょうけれど、売っている服が堅牢で、しかも防風・防寒の性能にすぐれていると
噂が広がって、いつしかバイク乗りや母親層が店を訪れ始めました。ワークマン側はその事実を見逃しませんでした。

 そして登場したのが2018年の「ワークマンプラス」であり、今年10月オープンの「♯ワークマン女子」です。どちらの一般の消費者向けの店舗ですね。
私、どちらも開業して間もない時期に行ってみましたが、ものすごく盛況でした。「♯ワークマン女子」など、このコロナ禍をものともしないほどの
大反響と言っていいでしょう。

 

前置きが長くなりました。今回の本題はこれです。

 

main.jpg

 

 上の画像で、女性が首からかけているストールのような商品がそれです。東京都墨田区に本社のあるフットマークが開発・販売する
「Table with(テーブルウィズ)」という食事用のエプロンで、値段は5500円。そうなんです、これ、ストールじゃなくて、食事のときに
服を汚さないためのエプロンなんですよ。

 

 このデザインなら、洋服でも洋服でもなじみますし、なにより自然ですよね。その価値を理解した女性層からの人気は上々で、2018年に
発売した直後はたちまち品切れも起こしたといいます。また、東京・東銀座の歌舞伎座のショップでも取り扱いがあり、ここだけで月に
30枚はコンスタントに売れてきたそうです。和服をまとった女性が多く訪れる場所だけありますね。

 

 気になるのは、どうしてまたこんな商品をフットマークが思いついたのか、です。

 

 もともと同社は、1960年代までは赤ちゃんの布おむつカバー製造を主力としてきました。でも、1970年前後には布おむつから
紙おむつへと、市場が大きく変わっていきましたね。

 

 1970年代に入った、あるときのこと。同社の近所に住む女性がそっと訪れたそうです。「大人用のおむつカバーを作ってもらうことはできますか」。
当時は介護用の商品というのは今ほど一般的に広く売られていなかったのですね。

 

 フットマークは、この女性の要望に応え、わざわざ大人サイズのおむつカバーをこしらえました。「1人のニーズがあったなら、その背景には
100人、いやそれ以上のニーズがある」というのが同社の考えだったからだそうです。そして、数年後、大人用おむつカバーの一般販売に踏み切ります。
ここを契機に同社は介護用商品を多数開発することとなり、さらには主力の商品分野にまで育て上げています。つまり、ふとした消費者の声を
見逃さなかったという話ですね。

 

sub.jpg

 

 2000年代半ば、フットマークは、介護用品のひとつとして、介護される人が食事の場面でつけるエプロンを販売します。
それまでのエプロンと違い、「介護する側の利便性にもまして、介護される本人が嫌がらず気持ちよく着けられるエプロン」を
テーマに開発したといいます。エリをつけ、デザインも洒脱にし、着用していても悲しくならないようにとの願いをそこに込めたそうです。

 

 すると……。介護の現場からのニーズだけに留まらなかったんです。ごく一般の消費者からの問い合わせが相次いだ。
「食事をよくこぼす夫に着けさせたい」「私自身が歯磨きのときに着けてみたい」という具合にです。

 

 これはフットマークにとって、本当にびっくりの話でした。「目からウロコでしたね」。担当者はそう振り返ります。

 

 で、ここで終わらなかったのが、同社の面白いところです。そうした一般消費者に、問い合わせが相次いだ介護用の
エプロンを、そのまま販売するだけではなかった。

 

 「だったら」と、一般の方が外食の場でも着けられるようなストール型にデザインして、新たな商品を世に出しました。
それが「Table with」だったのですね。

 

 つまりはこういうことです。ワークマンの話も、このフットマークの話も一緒。販売動向をめぐるちょっとした違和感、もっと具体的に
言えば、意外なところからの反響を放っておかないように感度を高めれば、そこから新しい事業展開が見えてくるかもしれない。
そこが今回お伝えしたかったポイントです。

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