女性専門の“お昼寝”カフェ。成功の秘密は「BtoB」にあり。
都会であることを忘れさせてくれる静かな空間に、天蓋付きのベッドが並ぶ。至福の昼寝を味わう空間だ
寝癖やメイクを直すための大きなドレッサーは、「女性専用」ならではの設備といえるだろう
枕はいくつもの中から好みのものが選べる。一部は販売も。
かつては厳禁だった「仕事中の昼寝」。しかし、今や従業員の昼寝を、むしろ推奨する会社が増えつつあるという。
背景にあるのは、昨今「適度な昼寝が仕事効率をあげる」という研究が広く知られ始めたこと。今年3月、厚労省が11年ぶりに発表した『健康づくりのための睡眠指針2014』で「午後の30分以内の短い昼寝が業務能率の改善に繋がる」と訴えたことも、この流れを太くした。
もっとも、いくら推奨されても、女性にとって「仕事中の昼寝」のハードルは高い。「オフィスや会議室で昼寝していい」といわれたところで、隣に男性が眠る横で同じように横になるのは気が引ける。外に出ても同様だ。公園のベンチや漫画喫茶といった男性にとっての「昼寝の定番スポット」に、女性がひとりで踏み込むのは相応の勇気がいるためだ。
そんなニーズをひろって成功したのが、昨年11月、東京・神田神保町にオープンした『おひるねカフェcorne(コロネ)』だ。
同店は、女性専門の昼寝スペース。カフェと銘打つように、お茶(フリードリンク)や軽食(ホットサンド850円~)も出すが、メインとなるサービスは「昼寝の提供」だ。
10分160円の時間制で、店内にある10の天蓋付きベッドが利用可能。間接照明がほのかに灯り、アロマが香った安眠に最適な環境の中、男性の目を気にせず、気兼ねなく昼寝できる。
立ち上げたのは、『ねむログ』という睡眠時間の記録サイトを06年から運営する株式会社ねむログだ。『ねむログ』はパーソナル睡眠データの蓄積や睡眠改善のためのノウハウ提供などを通して、睡眠障害に悩むユーザーを多く獲得。3万5000人の会員数を抱え、有料会員の月額課金費用と広告料で利益を出してきた。
「しかし、ウェブサイトという媒体の特性上、『ねむログ』はどうしても男性ユーザーが多く6割以上を占めた。『なんとか女性ユーザーにリーチできる方法はないか』と考えたとき、リアルの場で女性が昼寝できる場がないことに気づいた。女性の社会進出も進んでいる割に、こうしたちょっとした“場”が男性向けばかりになっている。“お昼寝カフェ”という業態で、そこを埋めようと考えたわけです」(ねむログ代表取締役・川添祐貴氏)
店内には徹底して“女性の昼寝”に適したものを揃えた。ベッドは高級マットレスを使用したものを、二種類用意した。硬さの好みにあわせて選べる工夫だ。そこに「天蓋」をつけたのは、プライバシーを守るためだけではない。多くの女性が憧れる「お姫様の寝室」のような雰囲気を醸し出す狙いもある。昼寝したあとにスムーズにメイクや髪型を整えられるよう、ドレッサーも完備した。
場所にもこだわった。働く女性が多い場所であること、かつ賃料が高すぎない場所を考えて、辿り着いたのが神田神保町だった。古本街で知られると同時に、出版社が多く集まる地。夜型が多い編集職の女性が集うため「昼寝のニーズが高い」と踏み、彼女たちを一つのメインターゲットとしてとらえたわけだ。もっとも、フタをあけたら予想外の顧客層もつかむことになったという。
「編集者に代表される夜型のビジネスパーソンももちろんですが、目立つのは就活中の女子大生。面接の合間に立ち寄って無料で貸し出しているパジャマに着替えて昼寝。その後、またリクルートスーツに着替えて次の面接へ、という方が結構多い。あとは深夜バスで東京に遊びにきた女性が、わざわざ地下鉄にのって朝いちで来店。午前中はここで眠り、昼からショッピングなどに出かける、という使い方も。それくらい『女性がちょっと一休みする場』が無いということでしょう」(川添代表)
こうして『corone(コロネ)』には月間350人ほどの利用者が訪れる。リピート率は3割ほどだ。
もっとも、同店の平均利用時間は「1時間10分」。客単価の平均は「1300円前後」にすぎない。それでも利益を出せているのには理由がある。「BtoBの収益」があるためだ。
実は同店が提供している「選べる枕」や「無料貸し出しのパジャマ」「ドレッサーに置かれた化粧品」などはほとんどが、メーカーからのタイアップ品。寝具メーカーや下着メーカーとタイアップして、彼らから得るPR料が同店のもう一つの収益源だ。
「睡眠関連用品はユーザーさんのデータをなかなか集めにくいし、製品のPRのタイミングも難しい。しかし、女性のお昼寝に特化したうちには、睡眠に積極的な女性というセグメントされたユーザーの声がつかめる。実際にためしてもらうことはPRにもなるし、アンケートやグループインタビューなどの企画にも対応できます」(川添代表)
ユニークな業態であるため、雑誌やテレビ、ウェブ媒体などに取り上げられる機会も多い。そのたびに、同店で使われているメーカーの商品も、PRのチャンスを得られるわけだ。こうした魅力から、今は二十数社と提携。顧客に最新の寝具などを無料で貸し出すサービスを提供しながら、メーカー側には販促の機会を提供。そして同店は、BtoCだけでは成し得ない利益をあげることができた。
ニッチな市場を狙えば、当然、パイは小さくなる。それでも確実に顧客が集まるプラットフォームにまでなれば、そこに参画を望む他社を巻き込め、収益のチャンスは広がるわけだ。『corone(コロネ)』のうまいやり方は、「パイが小さい」「料金をとれない」とあきらめがちなスキマビジネスを成り立たせるためのヒントになりそうだ。(カデナクリエイト/箱田高樹)
◆社長の繁盛トレンドデータ◆
『おひるねカフェcorne(コロネ)』
〒101-0051
東京都千代田区神田神保町2丁目14番地2F
TEL: 03-6272-3970
http://corne.jp/