無数のオレンジの光がゆらゆらと揺れる風景は幻想的で、まさにインスタ映えする絶景。「日本夜景遺産」にも認定されている。
湯西川温泉に宿泊している観光客は、雪が降り積もる中、わざわざ宿から出てきて雪の絶景を楽しむ。雪深い土地にわざわざ行きたくないというのが一般的な感覚だろうが、マイナス要素を逆手にとって温泉街を盛り上げるという発想がすばらしい。
ところどころかまくらのろうそくが消えてしまっているのはご愛敬。ろうそくに1個1個、明かりを灯していくのは大変な重労働だろう。その苦労を想像すれば、この絶景の価値がわかる。ちなみに、今年は3月3日(水曜日、木曜日を除く)まで、かまくら祭は開催されている。
■露天風呂から「氷瀑」の絶景を拝める老舗宿
湯西川温泉には二十数軒の宿が軒を連ねるが、なかでもおすすめしたいのは創業1666年の老舗宿「本家伴久」。代々、平家直系の子孫により継承されて、当館主は第25代にあたるという歴史ある宿だ。
本家伴久の温泉は歴史のある湯として知られる。820年前に発見されたとされる湯西川の源泉。その場所こそが、男性露天風呂「藤鞍の湯」だとされる。湯西川発祥の湯は、源泉かけ流しと循環式の併用で、川に手の届くほど間近に感じられる露天風呂である。アルカリ性単純温泉のシンプルな透明湯だが、冷え切った体を温めてくれる。
冬場は、この露天風呂に絶景が現れる。滝などが氷結してできたものを「氷瀑」というが、藤鞍の湯の対岸に巨大な氷瀑を見ることができる。実はスタッフが人工的につくっているそうだが、いくつもの氷の柱がそびえ立つ様は見事。夜はライトアップされて幻想的だ。
夕食は別棟の囲炉裏端でいただく。炭火焼の囲炉裏で岩魚や餅のほか、山椒と野鳥と味噌などを練りこんだ「一升べら」をいただく。一へらで一升飲めるほどの味わいから、同宿の24代女将が発想、命名したものだという。濃厚で野性味あふれる一升べらで、日本酒も進む。
冬場は雪に囲まれた温泉地だが、その代わり厳しい寒さがつくる絶景を楽しめ、温泉のぬくもりを再確認できる。冷え込みが厳しい季節こそ、温泉のありがたみと魅力を存分に体感したい。