menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ

健康

第93回 恐山温泉(青森県) 「地獄」に湧き出す「極楽」の湯

高橋一喜の『これぞ!"本物の温泉"』

■荒涼とした地獄地帯

 青森県の下北半島に位置する恐山といえば、比叡山、高野山とともに「日本三大霊場」のひとつとして知られる死者の供養の場である。亡くなった人の魂を降ろすとされる「イタコ」でも有名だ。

 外輪山に囲まれた霊場は、外部からは切り離された途絶された場所にある。地元では古くから「人は死ねば恐山に行く」と言い伝えられてきた。


 慈覚大師円仁が夢のお告げに導かれ、諸国に教えを説いた旅の果てに、862年「恐山菩提寺」を開山したといわれる。


 入山料(500円)を払って境内に入ると、「地獄」を想起させる風景が広がる。荒涼とした岩場地帯のいたるところから、もくもくと火山性ガスが噴き出し、硫黄臭が立ち込める様子は、われわれが思い描くあの世の風景である。


 こうした光景からもわかるように、恐山は活火山である。火山活動のあるところに温泉はつきもの。恐山菩提寺の境内からも、温泉がぐつぐつと湧き出している。

 

■境内に建つ4つの湯小屋

 恐山の境内を歩いていると、木造の小屋があることに気づく。「古滝の湯」「冷抜(ひえ)の湯」「薬師の湯」「花染の湯」という4カ所の無人の浴場があり、参拝者は入山料を支払えば、自由に入浴することができるのだ。


 もともとは境内に参拝する前に浴びる「清めの湯」で、昔の参拝者は温泉に入浴していたという。なお、それぞれの湯小屋は、男湯、女湯、男女入替制、混浴に分かれている。


 最初につかった冷抜の湯は、総木造の素朴な佇まいがすばらしい。浴室内は脱衣所と2つに仕切られた湯船のみのシンプルなつくりで、もちろん浴室の床や湯船も木造である。


 石やタイルの湯船と違って木の湯船はぬくもりがあって肌にやさしいので、木造の湯小屋に出会うとテンションが上がる。


 湯船には少々緑色をおびた白濁湯がかけ流しにされている。存在感のある上質の湯。酸性泉なのでピリリと肌を刺すような感覚が特徴だ。また、つんと鼻を突くような硫黄の匂いが強烈で、窓を開けておかないと、火山性ガスが滞留して危険かもしれない。

 

■神秘的な雰囲気のカルデラ湖

 温泉で身を清めたら、湯上がりに菩提寺を参拝し、境内に位置するカルデラ湖「宇曽利湖」まで歩いた。そこには、それまでの地獄を彷彿とさせる風景とは対照的な風景が広がっていた。

 青く輝く湖面と美しい白浜が広がる光景は、「極楽浜」と呼ばれているように地獄地帯とは対照的である。ひとり浜にたたずみながら、恐山には地獄と極楽の2つの顔があることを知った。


 筆者はスピリチュアルの世界には疎いタイプだが、宇曽利湖周辺は、どことなく神秘的な雰囲気に包まれており、心がスーッと清らかになっていく感覚がある。そもそも火山活動は地球の偉大なエネルギーを感じさせる現象でもある。見方によっては、大地のパワーに満ちている場所ということもできるだろう。


 境内をひと回りしたあと、今度は薬師の湯に浸かる。冷抜の湯と同じ総木造の簡素な湯小屋だが、薬師の湯のほうが若干湯船は大きい。


 誰もいない浴室で極楽気分を味わっていると、後方にただならぬ気配を感じた。誰かに見られているような感覚……。もしかして恐山の霊的なパワーを得て霊感が研ぎ澄まされたのだろうか、と不安を覚えながら恐る恐る後ろを振り返った。


 そこには窓からこちらを覗く老夫婦の姿があった。観光客の多くは恐山に浴場があるとは思っていないので、興味本位で中を覗いていくのである。見えてはいけないものが見えなくてよかった……と安堵し、私が笑顔を見せると、老夫婦も満面の笑みを返してくれた。

第92回 下部温泉(山梨県)  足元から湧き出す! 信玄の隠し冷泉前のページ

第94回 別府温泉(大分県) 世にも珍しい「地獄めぐり」と「泥湯」次のページ

関連記事

  1. 第20回 渋温泉(長野県) 浴衣での湯めぐりが楽しい「外湯文化」

  2. 第87回 裾花峡温泉(長野県) 善光寺参りのあとに訪れたい長野市内の名泉

  3. 第76回 十勝岳温泉(北海道) 道内最高所に湧く絶景の露天風呂

最新の経営コラム

  1. 楠木建が商売の原理原則を学んだ「全身商売人」ユニクロ柳井正氏

  2. 第10講 WILLとMUSTをCANに変える:配属に不満がある社員とどう関わるか

  3. 第147回『紫式部と藤原道長』(著:倉本一宏)

ランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

新着情報メール

日本経営合理化協会では経営コラムや教材の最新情報をいち早くお届けするメールマガジンを発信しております。ご希望の方は下記よりご登録下さい。

emailメールマガジン登録する

新着情報

  1. 人間学・古典

    第50回 余韻のない時代
  2. 税務・会計

    第15回 大企業が避ける・嫌がる仕事で稼いでいる
  3. マネジメント

    失敗に原因あり(6) 大義を貫くためには権威を利用せよ
  4. 人間学・古典

    第115講 「論語その15」 礼の用は、和を貴しとなす。
  5. 教養

    第36回 『憂鬱でなければ、仕事じゃない』 (著:見城 徹・藤田 晋)
keyboard_arrow_up