menu

経営者のための最新情報

実務家・専門家
”声””文字”のコラムを毎週更新!

文字の大きさ

マネジメント

交渉力を備えよ(43) 今しかないタイミングを逃すな

指導者たる者かくあるべし

 日中国交正常化に向けて動く田中角栄が、密かに外務省中国課長の橋本恕に依頼したロードマップ(青写真)は、年が開けた1972年正月早々、まだ通産相だった田中の元へ届く。

 親台湾派の多い与党・自民党内で共産中国との関係改善はタブーであった。しかし野党からは社会党、公明党、民主党の幹部らが相次いで訪中し、情報をもたらす。

 台湾の扱いを含め国交正常化へのハードルは高かったが、最大の難関は、日米安保体制を維持したままで日中国交正常化は可能か、という一点にあった。これまで中国は、中国を敵視する日米安保の廃棄を強く求めていた。

 野党の訪中団がもたらす情報と外務当局者間の接触から、中国が正常化にあたって日本に求めた条件は、以下の三原則の受容だった。

  ①中華人民共和国が中国唯一の正統政府である

  ②台湾は中国の一部である

  ③日華平和条約は廃棄する。

 安保には触れていない。

 国交を正常化するのなら、①と②は当然の前提となる。問題は③にあった。

 敗戦後日本は、1952年、台湾に落ち延びた蒋介石政権との間で、平和条約を結び、締結にあたり蒋介石は日本への賠償を放棄していた。  

 放棄について蒋介石は「以徳報怨(徳を以て怨みに報いる)」と言ったという。実のところ引き換えに中華民国(台湾)を唯一の中国政府として認めさせるという、冷徹な国際政治力学が働いていたが、500億ドルの賠償放棄が日本の戦後復興の原動力になったことは疑う余地がない。日本は台湾に借りがあった。

 しかも、北京政府からあらためて賠償請求があれば、どうするか。難題となる。

 2月、橋本レポートを手に田中側近たちが都内のホテルに集まる。

 「日中国交正常化を望んでいるのはむしろ中国だ」「日本の軍国主義復活を過渡に恐れる中国にしてみれば、日米安保は日本の本格再軍備、核武装を抑える手立てとして認めるだろう」「台湾問題は、私(田中)と毛沢東、周恩来で話し合えばなんとかなる」。議論の流れは「大丈夫、いける」となった。この日、田中は新政権での早期訪中を決断した。

 政権誕生の5か月前のことだ。会合から間もなく米国大統領ニクソンが電撃訪中する。

 「これは日本にとっても一つの大きなチャンスとなったんだよ。政治にはね、そういうチャンスというか、勝機をつかむタイミングというか、かけがえのない一瞬がある」

 田中はそのチャンスを逃さなかった。 (この項、次回に続く)
 

 (書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

※    参考文献

『早坂茂三の「田中角栄」回想録』早坂茂三著 小学館
『田中政権・八八六日』中野士朗著 行政問題研究所
『田中角栄の資源戦争』山岡淳一郎著 草思社文庫
『記録と考証 日中国交正常化・日中平和有効条約締結交渉』石井明ら編 岩波書店
『求同存異』鬼頭春樹著 NHK出版

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

交渉力を備えよ(42) 国際間の利害方程式を読み解く前のページ

交渉力を備えよ(44) 理想と現実の折り合いをつけるのがリーダーシップ次のページ

関連記事

  1. 危機を乗り越える知恵(8)チャーチルが有事にとった組織運用

  2. 人の心を取り込む術(13) 来るものは拒まず(渋沢栄一)

  3. 失敗に原因あり(5) “調整型”では危機に対処できない

最新の経営コラム

  1. 第19話 男女の賃金格差の開示義務化と女性の活躍推進の必要性

  2. 第60回 使い方を決めるのは消費者

  3. 第37回「日本が唯一『女形』」

アクセスランキング

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  6. 6
  7. 7
  8. 8
  9. 9
  10. 10

新着情報メール

日本経営合理化協会では経営コラムや教材の最新情報をいち早くお届けするメールマガジンを発信しております。ご希望の方は下記よりご登録下さい。

emailメールマガジン登録する

新着情報

  1. マネジメント

    第126回 コロナ自粛明けの風景から
  2. 人間学・古典

    第38講 「言志四録その38」得意のときは言語多く、逆意の時は声色を動かす。皆養...
  3. マネジメント

    第105回 『あの人のために仕事をしたい』
  4. 仕事術

    第105回 「おうち時間」も充実。手軽に設置できるプロジェクター「popIn A...
  5. 後継者

    第67回 シニアの心理にセンシティブになろう
keyboard_arrow_up