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第18回 株主に説明できる独自のビジネスモデル「サンマルクホールディングス」

深読み企業分析

投資家にとって、安心して投資できる企業の条件に、自社独自のビジネスモデルを経営者が堂々と説明できることがある。それは企業にとっては、他社に真似される危険を伴う行為ですので、長年にわたるノウハウの磨きこみで簡単には真似されないという自信も必要です。

外食チェーンを展開するサンマルクホールディングスは、自社独自のビジネスモデルを堂々と投資家に向かって説明できる数少ない企業です。

大手外食チェーン店が軒並み不振に陥る中、同社の業績に再び勢いが出てきています。同社は1999年3月期から2008年3月期までの9年間、年平均14%の経常利益成長率を達成してきました。しかし、さしもの同社もリーマンショック後に2度、減益となってしまいました。

しかし、ここ数年で子会社の経営を任せられる経営者の育成が花を開き始め、再びかつての成長力を取り戻すことに成功しています。同社の戦略の基本には、外食産業において単一業態は危険であり、いくつもの業態を持つことによって経営の安定を図るというものがあります。しかし、外食産業では新しい業態を開発するのは至難の業であり、100個の業態を開発しても成功するのは多くて2、3に過ぎません。そのような業界で、コンスタントに新業態の開発に成功している同社の戦略にはち密に計算されたノウハウがあります。

同社の業態開発のコンセプトは、小さな市場で大きなシェアを確保するというもので、カテゴリーで日本一を目指すということです。同社では、まず、500億円以上の市場に狙いをつけます。ただし、ここでは500億円を大きく超える市場は狙わないというのが一つのポイントになります。そして、その市場の成熟化を待つのです。市場が成熟化すると、その市場は二極化します。つまり、安さを追求する市場とアッパーウォンツに対応する市場です。同社はその500億円のうち、アッパーウォンツに応える100億円の市場に狙いをつけ、価格を高めに設定して、200億円の売り上げを目指すという戦略を採ります。

業態開発の収益性に対する社内の方針も他社とは一線を画します。通常、外食店はFLコスト60%を基準としていることが多いものです。FLコストのFは食材、Lは人件費で、FLコストとは、(食材+人件費)/売上高で60%が一般的な目安です。それに対して、同社はより厳しい条件を付けており、FLRで60%としています。同社のRは家賃を示すものです。

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一般的な企業より厳しい条件を付けているので、当然高めの価格設定が必要となり、そのための店舗コンセプトやメニュー開発に力を入れる必要があります。新業態の開発は大変ですが、価格で無理をしていないので当たれば着実に稼げるものとなります。また、逆に言えば、これが同社の成功している業態の見えない参入障壁となっているのです。

このような業態が開発できれば、その他の固定費を20%として、店舗利益が20%となります。ただし、これが可能なのは、同社が保有している1,000万人の顧客リストの有効活用があります。DMで様々な宣伝活動を行っており、店舗によってはDM客で50%を占めるようなケースもあります。ここも見えない部分であり、同社の強みとなっています。
 
その結果、細分化されたサブカテゴリーでは高シェアを確保でき、収益性も高水準となるのです。ベーカリーレストランでは同社の3業態がカテゴリーの4位までに入っており、ベーカリーカフェでは断トツのトップです。また、このところ本格展開を始めた鎌倉パスタも生パスタではシェア1位となっています。
 
同社の目指すものは「お客様にとって未だ気付かぬ価値をクリエイトすること」です。今後とも着実に新業態を開発することで、再びコンスタントな高成長が継続する局面に入ったと思われます。
 
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《有賀の眼》

経営者の説明責任は、上場企業ばかりでなく、未上場企業でもそれぞれのステークホルダーに対して負うべきものです。その意味では、自社のビジネスの強みというものを常に説明できるようにすることは極めて重要です。説明できるようにするためには、常にいかに差別化し、収益性を高めるかを考え続けることになり、それは結果的に企業の成長に結びついてゆきます。

ここまで完璧なビジネスモデルを構築し、しかも説明責任を全うすることは簡単な話ではありませんが、そうまでしなければ存続もおぼつかない時代になってきたということではないでしょうか。

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