最近、現地調査のため、3月、4月と5月に3回も中国出張に行ってきた。毎回、筆者は新発見があり、従来のイメージを覆すような変化の凄まじさに脱帽する。この凄まじい変化の1つは、正に中国における豊かさの首位交代である。
これまで、筆者が持っているイメージとして、日本の都道府県に相当する行政単位、中国の31の省・直轄市・自治区のうち、一番豊かな地域は上海だと、ずっと思ってきた。多分、ほとんどの日本人も私と同じイメージを持っていると思う。しかし、今年5月天津出張の結果、このイメージは転覆された。
天津と言えば、「天津甘栗」が有名で、日本人になじみがある都会である。日本の自動車最大手のトヨタが進出しているところでもある。
実は、私は初めて天津を訪れたのは30年前の1983年のことである。今年5月に再び天津を訪れ、記憶に残る昔の面影はなくなり、天津市は上海、北京のように国際大都会に変身してしまった。さらに私を驚かせたのは、天津市の1人当たりGDPが上海市を上回り、全国1位となったことである。1人当たりGDPで見た場合、いま中国の最も豊かな地域は、もう上海ではなく天津である。首位交代だ。
天津市経済の起爆剤は2006年5月国務院(内閣)の批准による同市の国家級開発区・浜海新区の設立である。その後、天津市の開発・開放は急速に進み、超高度成長を実現できた。図1に示すように、2007~12年の6年間、天津市の年平均成長率は16%にのぼり、北京市の9.9%、上海市の9.9%より遥かに高く、全国平均10.1%の1.6倍に相当する。
超高度成長の結果、2011年に天津市の1人当たりGDPは85,213元(13,193米㌦に相当)にのぼり、初めて上海市(82,560元)を上回り、全国一位となった。2012年、天津市の1人当たりGDPは93,110元(14,750米㌦相当)となり、引き続き全国1位をキープした。2位の北京市(87,091元)、3位の上海市(85,033元)との開きを一層拡大させた(図2を参照)。
出所)「中国統計摘要2013」により沈が作成。
出所)「中国統計摘要2013」により沈が作成。
天津経済の躍進ぶりは天津港の貨物輸送量にも反映される。2000年時点で、天津港の貨物輸送量は9,566万トンで国内主要港湾の中で5位を占めていたが、2012年の貨物輸送量は4億7,697万トンに急増し、5倍も増加した。国内主要港湾における順位も5位から3位へ上がった(図3、図4を参照)。
出所)「中国統計摘要2013」により沈が作成。
出所)「中国統計摘要2013」により沈が作成。
2007~12年超高度成長期の天津市の書記を務めていたのは張高麗氏である。張氏は昨年11月の党大会で中央常務委員に選ばれ、中央執行部入りを果たした。今、中国の政治・経済を動かすのは、正にこの党中央常務委員7人の男である。
マスコミへの露出度が低い張高麗氏は、なぜ中央執行部メンバーに選ばれたか?その理由は何か?当時、日本を含むマスコミは、張氏は江沢民・元国家主席の人脈だから、激しい権力闘争の結果、江沢民派が常務委員ポスト7席のうち3席を確保し勝利を収めたと解説している。
確かに、張氏が江沢民氏に近い人物である。しかし、徹底した現実主義を貫く中国では、江沢民人脈だけで中央執行部入りができることはとうてい考えにくい。張氏昇格の決め手はやっぱり彼の実績である。天津市書記在任中、全国1位を誇る経済成長率、全国1位を誇る1人当たりGDP。しかも暴動や反政府デモはほとんど発生していない。これは、経済成長重視、安定重視の中国で、張氏は厳しい党内選挙を勝ち抜く決め手である。張氏昇格の最大の理由はやはり経済成長の実績にあると思う。
現場に行かず、現場感覚を持たずに、急速に変貌する中国の実態が把握できない。中国政治の現実も理解できない。これは今回の天津出張を通じて、つくづく感じたことである。