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中国史に学ぶ(6) 真の才を見抜くことが人事の要諦

指導者たる者かくあるべし

 漢王朝を開いた劉邦の将・韓信(かんしん)は、井陘(せいけい)に破った敵の将軍・李左車(りさしゃ)の意見を入れ、戦わずして燕国を手に入れた。

 必勝の建策を斥けられ敗れた李左車(りさしゃ)にかつての自分を見たことを、前回触れた。

 若き韓信は、下臣の意見など聴かぬ自信家の楚王・項羽に辟易(へきえき)として、対立する漢王・劉邦の幕下に入った。実は韓信はその劉邦の下からも逃げ出したことがあった。劉邦が自分をチンピラ扱いしてまったく重用しようとしなかったからである。

 その韓信の才を見抜いていた男がいた。劉邦の丞相(しょうじょう)だった蕭何(しょうか)である。

 幾度か劉邦に韓信を用いるように具申していた蕭何は逃げた韓信の後を追う。韓信の逃亡など意にもかけなかった劉邦も、右腕と頼む丞相が陣から姿を消したと聞いて、「何?  蕭何までおれを見限ったか」と天を仰いだ。

 その蕭何が戻ってきて王・劉邦の前に出る。

 「韓信を説得しに追っておりました」と蕭何。「出まかせ言うな。諸将が居並ぶ中で、韓信ごとき追うてどうなる。お前も逃げようとしたのであろう」と王の怒りは収まらない。

 蕭何は言った。「並みの諸将なら、いつでも容易に手に入るでしょうが、彼は二人とない傑物です。王がいつまでも辺地の漢中王で満足なら韓信を使う必要はありません。天下を取りたいのなら彼を重用なさいませ」

 戦いのみならず、商いの世界でも天下取りの闘争は、つまるところ人材の確保にかかっている。

 自分の才を頼んで、二人まで仕官の相手から逃げ出そうという韓信は、癖のある男だ。自在に使うのは難しい。通常の人事考課では弾かれるタイプだ。しかし、そういう男こそ乱世には用立つ。使い手の力量が問われる。

 蕭何の“人を見る才”を得てこそ、劉邦は天下の名将を手に入れることができた。そして天下人となった。

 「うちのような小さな会社には、いい才能は来ない」と嘆くことなかれ。人材は身近にいる。才を見抜く腹心をまず得るべきだ。

 その韓信。項羽を破り天下を取った劉邦から楚王に任じられた。そして一人の男を呼び寄せる。かつて股潜(またくぐ)りの屈辱を味わった、憎き青年である。彼を楚の治安を司る中尉に任じた。いぶかる側近に言ったという。

 「わしに股を潜らせたこの男こそ壮士である。任に相応しい」

 出世を果たし、かつての“宿敵”を捕まえ縊(くび)り殺すことほど容易いことはない。その顔も見たくない人物を使えるかどうか。

 リーダーとしての人事の要諦である。

 (書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

参考文献
『世界文学大系5b 史記列伝編』司馬遷著 小竹文夫、小竹武夫訳 筑摩書房
『十八史略』竹内弘行著 講談社学術文庫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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