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人間学・古典

第131講 「論語その31」
君子は 争う所無し

先人の名句名言の教え 東洋思想に学ぶ経営学


【意味】
立派な人物は、可能な限り争いごとを避けるものだ。(国の政治を司る君主も、可能な限り他国との争いを避けるべきだ)



【解説】
 孔子は春秋時代の思想家で、その後に続く戦国時代に孔子と弟子達の言行録が編纂され『論語』となりました。それ故に格調高い道徳的な生き方を説く『論語』の中にも戦争に関する記述が見受けられ、掲句はその一つです。
 中国の各時代の王朝では、絶えず西北の騎馬民族=匈奴(きょうど)の侵略に悩まされてきました。そのため何れの王朝も、その都度「万里の長城」を整備して匈奴の侵略を防ぎ、その一方で和睦も図る両面作戦を取ってきました。そのため必然的に「戦争・和睦の両面論」が議論され、単なる殺戮に繋がる戦術書と云うよりも深く洞察された兵法書が生まれました。

 その中の一冊が、軍略家孫子の著なる『孫子』です。この書物も代表的な兵法書ですから戦術戦略の書のイメージですが、中身は寧ろ戦わずして勝利を収めることを前提にしています。その上で戦わざるを得ない場合に限り、それに備えた戦術戦略等を説いています。
 例えば「百戦百勝は、善の善なる者に非(あら)ざるなり」とあり、なぜ連勝が最上用兵でないかと云えば、「戦わずして人の兵を屈するは、善の善なる者なり」となり、不戦勝利が最上だと説いています。
 更に「兵は、詭道なり」ともあります。戦争は偽り欺く道で常道ではありません。何時の時代の戦争も、思慮浅き好戦者が声高に国防と称して戦争に走り、その結果双方に多くの死傷者を輩出し、多くの悲しみをもたらします。
 それ故に孫子は「兵は国の大事なり。死生の地、存亡の道、察せざるべからず」とあり、戦争は国の現在未来に係る一大事であるが、国民の生死や国の存亡に繋がる大問題であるから、国の実権を握る者は先々まで考え抜いて対応しなければならないと説いています。

 「勇に三態あり、進勇・留勇・退勇なり」(巌海)
 企業においても積極経営を説くのが主流です。しばしば大手全国チェーンがまるで戦争で敵兵を駆逐するような勢いで地方進出をします。数年もすると勢いが消えてその店舗も消滅し、しばらくすると売り上げ不振の経営不安説も流れてきます。
 本来勇気は勇ましいものですから前進のみと思いがちですが、人間学的な考え方からすれば「勇の三態」の中から、その時々に適した判断が求められます。
 進勇とは進む勇気で外に向けた勇気です。広くは暴走族などの虚勢の蛮勇も含まれますが、本来はもう少し高尚な正義感の伴う勇気で、正義とは進むべき正しい道です。
 留勇とは留まる勇気でじっと待つ勇気です。待つ事は簡単そうに見えても楽ではありません。絶えず進勇と退勇の両方の選択余地を残しながらの緊張状態の待機となるからです。よって留勇においては、この緊張感に自分の心がどれだけ我慢できるかが勝負になります。
 退勇とは退く勇気です。撤退のタイミングが大切で、泥棒も引きさがる時期を逃すから墓穴を掘ります。三つの勇気の中でも一番難しい判断を要求されますが、退勇が自由にできる人物や組織であれば、超一流のレベルです。
 このように分析してみますと、掲句の「不戦の教え」の重みが解ります。

 

杉山巌海

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