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国のかたち、組織のかたち(73) 日本銀行と財政政策⑦(異次元緩和が招いた歪み)

指導者たる者かくあるべし

 第二次安倍政権発足と日銀包囲網

 2012年12月の総選挙で安倍晋三率いる自民党が圧勝して、民主党から政権を取り戻した。選挙戦で自民党総裁の安倍は、バブル経済崩壊後長く続く経済低迷の原因であるデフレからの脱却を訴えて支持を集めた。具体的には、「2パーセントのインフレ目標の設定」と「無制限の金融緩和」を掲げて、「力強い経済成長を取り戻す」と公約した。ここから、アベノミクスと呼ばれることになる成長戦略がスタートする。

 国民は久しく忘れていた「成長」という約束に光明を見出した。成長戦略のキモは大規模な金融緩和にある。つまり金融政策を担う日銀の協力が不可欠だった。

 時の日銀は総裁・白川方明(しらかわ・まさあき)のもとで財政均衡論が根強く、金融緩和とインフレ目標導入には消極的だった。安倍周辺の積極財政派(リフレ派)の学者たちは、この日銀政策が長引く不況の主因であると主張。翌年4月に任期末となる白川の後継に積極財政支持派を据える必要があると進言する。首相についた安倍は年明け後、「日銀はどんどん紙幣を印刷すればいい」と発言し、日銀法の改正をちらつかせて日銀の金融政策を政府方針に合わせるように圧力を強めた。

 2パーセントの物価上昇目標

 白川日銀は、1月22日、政府との共同声明(アコード)で、「物価目標を対前年比2%とする」ことを受諾した。

 3月15日、白川は圧力に抗しきれず総裁再選を断念して辞任するが、最後の金融政策決定会合後の記者会見で、金融緩和が効果を出すためには、「中長期的な財政規律が重要である」と強調している。政府が中央銀行の金融政策に圧力をかけるなら、こちらも政府に物申すという、日銀総裁としての矜持を示した。

 インフレターゲットの設定は、金融緩和とセットとなる。後継総裁に就いた黒田東彦(くろだ・はるひこ)は、「異次元の金融緩和」を打ち出す。安倍政権と黒田日銀がタッグを組んで描いたシナリオはこうだ。

 金利を引き下げ、国債、債権の市場からの買い入れで、資金をどんどん市中に供給する。低利の資金を手に入れた企業は設備投資に積極的に動く。生産性が向上することで労働者の賃金もあがる。上がった賃金は消費に回り、内需が拡大した分、さらに企業の活動は活発になる。良いことづくめのはずだった。

 結果はご存知の通り、絵に描いた餅に終わる。

 日銀金融政策をしばる愚

 2%の物価上昇目標は、いつまで経っても達成されない。黒田日銀10年の平均物価上昇率は0.4%にとどまった。その後、物価は高騰を続け年率2%を超えているが、これは円安による海外からの調達資材の値上がりによる、コストプッシュ型のインフレで、想定した良質のインフレとは異なる。原因となった円安は皮肉なことに低金利政策を継続したことで、この間、金利引き上げに動いた欧米との金利差が生み出したものだ。じゃぶじゃぶと市中に流れた資金も先行き不安な企業の設備投資には回らないで、賃金も上がらない。

 物価が上がっても賃金上昇がそれを上回ることで高度成長を継続するというシナリオは崩れ、負のスパイラルに陥っているのが現状だ。

 元来、政府からの独立性を持っているはずの日本銀行の金融政策に介入して政府の財政政策の道具としようとした安倍政権の経済政策にこそ責任がある。

 かつての欧州では、紙幣の発行権と財政運用権はともに王室が握っていた。王室の浪費による赤字は、紙幣を思いのままに増刷することで補えばよかった。その結果としてのインフレが庶民の生活を苦しめた。そうした歴史を経て確保されたのが、紙幣を発行する中央銀行の独立性であり、中央銀行による財政ファイナンス禁止の原則だった。

 今こそ原則に立ち返るべきではないか。

(書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

※参考資料
 「異次元緩和の罪と罰」山本謙三著 講談社現代新書
 「ドキュメント 異次元緩和」西尾智彦著 岩波新書
 「日本の経済政策 失われた30年をいかに克服するか」小林圭一郎著 中公新書)

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