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中国史に学ぶ(7) カリスマトップの権威にすがる悲哀

指導者たる者かくあるべし

 中国最初の統一王朝を開いた秦の始皇帝に、李斯(りし)という能吏がいた。

 若い時に、楚にあった郷里で下級役人についたが飽き足らず、「おれはこの程度で終わる男ではない」と出奔した。儒家の思想家の荀子(じゅんし)の下で礼に基づく帝王術を学んで箔をつけ、客人として秦に入った。

 後に始皇帝を名乗る政(せい)が王位についたが、まだ13歳と幼かった。宮中警護の郎官となったのを機に王に近づく。

 ある日、李斯は王に進言する。

 「漫然と待つていては好機を逸します。天下取りの大功成就のためには、相手の隙に乗じること。心がとがめても忍ばねばなりません」

 李斯自らの人生観でもあったが、後に冷徹に権力を振るう始皇帝の姿は、ここに始まる。

 「いいことを聞いた」と、喜んだ王は李斯を総務部長にあたる長史に取り立てた。「お前のやりたいようにやれ」と任された李斯は、謀略をめぐらして諸国を討伐する。トントン拍子に閣僚に上る。王も天下を統一して、始皇帝と名乗った。

 当時の政治形態は、各地に縁戚の諸公子や功臣を討伐した地方の王として封じる封建制が当たり前であった。

 丞相をはじめ他の大臣たちは統一後も封建制を維持するように進言したが、李斯は異論を述べる。

 「もはや国家は統一された。歴史を見ても封建された王侯は政争、混乱の元凶。諸公子や功臣には、手当を厚くし報いればよい」

 始皇帝は、「その通り」と中央集権的な国家体制「郡県制」を指示し、李斯を丞相に抜擢した。その後の歴史を見れば、李斯の判断は革新的で正しかったが、自らの意見が斥けられた諸臣には不満が蓄積する。

 ともあれ、始皇帝は、李斯の政策立案に支えられて、その独裁権威を四囲に轟(とどろ)かせた。李斯もまた、始皇帝の権威によって、諸臣に有無を言わせず儒教弾圧の「焚書坑儒」(ふんしょこうじゅ)などの強硬策を遂行した。

 だが、しかし。始皇帝が死ぬと、情勢は一変する。

 李斯は宦官の趙高(ちょうこう)の計略にはめられ、諸臣の反発が噴き出し、一族皆殺しの刑に処せられてしまう。

 李斯は丞相に上りつめた後、嘆いたことがある。「荀子先生は、『物極まれば、あとは衰えるのみ』と教えてくれた。今や人臣に私の上に立つ人間がいなくなった。とすれば…」

 しかし気づくべきは、カリスマトップの権威を自らの威勢と見誤り、礼をわきまえず権力をふるった愚であろう。

 出世街道をひた走る管理職のあなたに心当たりはないだろうか。

 (書き手)宇惠一郎 ueichi@nifty.com

 

参考文献
『世界文学大系5b 史記列伝編』司馬遷著 小竹文夫、小竹武夫訳 筑摩書房
『十八史略』竹内弘行著 講談社学術文庫

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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