しかし中途入社した女性社員に先輩社員が「田中さん(仮称)の誕生日は何月なの?会社で誕生会をやってるから教えて」と言ったところ、「私は年齢がばれるのが嫌なのでけっこうです。誕生会は年齢差別にあたるのでエイジハラスメントじゃないですか?」と予想しなかったことを言われたので呆気に取られてしまいました。
先輩社員は社長に相談したところ、「エイジハラスメント?何だそれは?」と聞いたこともないハラスメントに首をかしげていました。今までこんなことを言う社員がいなかったので、ハラスメントになるなんて考えてもいませんでしたが、面倒なことになりそうだったので誕生会をやめることになってしまいました。「田中さん抜きでやればいいじゃないか」ということで進めようとしたら、「私だけ仲間はずれにされているのはどうかと思うのですが」と言うので、扱いに面倒になり、誕生会は開催されなくなりました。「田中さんが入ったせいで会社の雰囲気がおかしくなってしまった」と陰で言う社員も増えてきて、殺伐とした雰囲気に変わってきてしまいました。
A社ではみんな楽しみにしていた誕生会が一部の社員によってハラスメント扱いされてしまったという例です。
このケースがセクハラに該当するか否かを100人に聞いたら100人がセクハラと答えると思います。この会社の7割は女性で、セクハラと言われても仕方がない状況です。
昭和世代では体を張った裸芸というのは、宴会の風物詩ということもあり、女性も「また脱いでるわ…まぁ今日は仕方ないわね。」という感じで目くじらを立てる人はそんなにいなかったと思いますが、今のご時世でやるとセクハラ扱いされる可能性が高いです。
だから自然と宴会での裸芸は減っていきました。
私はこの様子を静観していたのですが、嫌そうな人はおらず(内心は嫌な人がいたかもしれません)、むしろ盛り上がっていてアンコールの掛け声が飛び交い、期待に応えてやっていました。後日になっても「あれはセクハラです」と言ってくる社員はいなかったのです。
むしろ栄誉を称えられている節さえありました。
B社は上半身裸でカラオケをやってもハラスメントにならなかった例です。
しかしA社は問題になり、B社は問題にならないという不思議な現象になりました。
私は極論を言えば、一般的にパワハラ、セクハラと判断される行為であっても当事者がそう感じなければ良いのではないかと思います。
企業にとって一番良いのは、社員がイキイキと働き、職場の生産性が向上して会社の業績が向上することです。宴会で裸芸があっても、それが楽しくてみんなで笑って愉快な気分になってリフレッシュになっているのであればそれはそれで良いのではないでしょうか。
ハラスメントに限らず、労働問題は単に法律に違反しているからという理由だけで起きるのではなく、根本的には人間の感情、職場での人間関係、個人の価値観の3つが複雑に絡み合って起きます。A社とB社の違いはここにあるのです。
どんなにハラスメントの定義をして予防策を講じたとしても、行為者が誰ということと、受け手の感情によってハラスメントと感じるかどうかが変わってきます。
研修を実施したり、規則を制定したり、相談窓口の設置を行っても万全な予防策を講じることが難しいのです。ハラスメントが起きない職場にするために会社が取り組むべきことは5回の連載の中で触れていきたいと思います。