「売上が思うように伸びない」「立てた目標が形だけになっている」──この課題に悩む企業は少なくありません。目標を掲げても成果につながらないのは、社員のやる気ではなく、「目標設定の仕組み」に根本的な課題があります。
2021年の調査によると、53.8%の企業がMBOなどの目標管理制度を導入しているものの、そのうち多くの企業が「制度が形骸化し、業績向上につながっていない」という課題を抱えています。これは、目標設定が単なる管理ツールになってしまい、本来の機能を果たしていないからです。
「社員の目標は、利益・生産性・成長にどの程度貢献していますか?」
この問いに明確に答えられないのなら、目標設定の仕方の見直しが必要です。目標が曖昧なままだと、社員の判断が揺れ、業務のスピードが低下します。「何を優先すべきか」がはっきりせず、業務が停滞し、結果として時間の浪費・売上機会の損失・組織の成長停滞を引き起こします。
一方、優れた目標設定の仕組みがあれば、現場の行動を業績向上に直結させられます。今回は、目標設定で陥りがちな失敗パターンと回避策について解説し、注目のフレームワークである「OKR」についても紹介します。
この記事のポイント
1.誤った目標設定は、組織の停滞や売上機会損失の原因
2.成長を続ける企業が採用する「OKR」活用は、事業拡大やイノベーション創出の鍵
3.モニタリングと対話で目標達成に導くサポート型リーダーシップが成果を加速
企業の目標設定で陥りがちな3つの失敗
目標設定は企業の成長を左右する重要なプロセスです。しかし多くの企業では、次の3つの落とし穴にはまっています。
1.目標が抽象的すぎる、または厳しすぎる
「売上を増やす」「顧客満足度を向上させる」といったあいまいな目標では、現場は何をすべきか判断できません。目標には具体的な指標を設けるべきです。
例えば「6ヶ月以内に月間売上を15%向上させる」などだと、程度の理解に差が生まれません。ただし厳しすぎる目標も問題です。達成不可能な目標は、社員の士気を下げるだけでなく、目標に対する信頼性自体を損ねます。
2.目標が会社の戦略とリンクしていない
「顧客満足度を向上させる」という目標を掲げても、顧客数減少の方が速ければ意味がありません。目標設定の際には、それが事業の成長にどう貢献するかを明確化しましょう。
大手シンクタンクのレポートによると、「目的と手段が明確な経営ビジョン」や「従業員の経営ビジョンに対する満足度や強いコミットメント」は、企業の業績を高める作用がある、と報告されています。
3.目標を設定するだけで、実行責任が曖昧
CEOが「売上を2倍にする」と掲げても、行動計画を伴わずに現場へ下ろされただけでは実現しないでしょう。
そのために誰が何をするのか不明確では、机上の空論になってしまいます。目標ごとに、達成のための行動計画と担当者をしっかり決め、実行責任を持たせることが重要です。
成果を生む目標設定のフレームワークと運用のコツ
企業の成長を促す目標設定には、効果的な仕組みが必要です。以下の3つのステップを取り入れることで、目標達成の確率を飛躍的に高めることができます。
1.目標を「利益に直結する指標」に紐づける
目標は、「売上増加」「コスト削減」「市場拡大」のいずれかに結びつけることが不可欠です。その際、「ブランド認知度を向上させる」という漠然とした目標ではなく、「Webサイトのコンバージョン率を20%向上させる」といった具体的な数値を明示します。
2.OKRを活用して、野心的な目標と実行計画を両立させる
「OKR」は、単に目標を管理するだけではなく、チャレンジングな目標を通じて個人の成長と組織のブレークスルーを目指す手段です。「何(Objective)」を「どのように(Key Result)」達成するかを管理します。
会社や部門の全体目標に対し、チームや個人でそれを達成する成果指標を設けます。
●目標(Objective):新規市場への進出
●主要成果指標(Key Results):
・新規ディストリビューションパートナーを10社獲得
・ブランド認知度を30%向上
・その市場からの売上を5,000万円増加
OKRでは、「100%達成することが目的ではなく、70%達成できれば成功」と考えるため、より大胆で野心的な目標を設定できます。社員が挑戦し続ける文化を育て、組織の成長スピードを加速させる手法として、多くの企業が導入しています。事実、Googleやメルカリ、Sansanといった企業は、OKRを事業の拡大につなげてきました。
OKRの事例や運用方法については、拙書『成長企業は、なぜOKRを使うのか?』でも詳しく解説しています。
3.継続的に進捗を測定し、調整する仕組みを作る
目標は「一度決めたら終わり」「最初に決めた数値が絶対」ではありません。四半期ごとに達成度をチェックして目標を調整しましょう。個人の目標も、1on1ミーティングで確認し、データを根拠に修正しましょう。柔軟な運用をするのが、実効性の高い目標設定のポイントです。
経営者が果たすべき役割:達成行動を促すリーダーシップ
目標設定を本当に機能させるには、「ただ目標を掲げる」のではなく、目標達成に向けた継続的なサポートが欠かせません。 成長する企業では、経営層が「数字を示すだけでなく、具体的な行動を支援するリーダーシップ」を発揮しています。
そこで、よくある経営者のミスと改善例を以下に挙げます。
- 目標を設定・周知するだけで、進捗を確認しない。
⇒部門ごとにOKRの達成度をモニタリングし、成果を可視化する。
- 社員に優先順位の異なる複数の目標を押し付ける。
⇒最初は目標を最小限に絞り、社員が「何をすべきか」を明確にする。
- 過去の業績ばかりを見て、将来の成長指標を軽視する。
⇒リーダーから率先して、野心的な目標を掲げる。
- 目標達成を報酬や評価制度に安易に関連づけ、社員の意欲を下げる。
⇒成果を出した社員を積極的に評価し、士気を高める。
【まとめ】目標設定は「戦略」と「実行」を結びつけるための指針
目標設定の本質は「社員のモチベーション管理」ではなく、「ビジネスの実行力向上」です。明確で測定可能な目標が社員の行動を変え、企業の成長を加速させます。目標は単なる数値目標ではなく、戦略と実行を結びつけるための指針であるべきです。
最後に問いかけます。
「現在の会社の目標は、具体的な売上・コスト削減・成長指標につながっていますか?」