先月11月22日、銀行法等の改正案が施行された。
ここ数年、銀行の体質を強化し機能拡充を目的とする法案制定は続いているが、今回の改正案は、銀行の業務規制を大幅に緩和する内容であり、地域経済や顧客企業へ与える影響も大きい。
改正のポイントを整理するとともに、銀行の動きを実例から見て行きたい。
改正の背景と概要については、金融庁の説明資料を参照する。
●改正の背景
背景としては、日本経済の回復・再生を支える「要」の役割を銀行が果たすために、規制緩和により経営の自由度を高める必要があるという事である。
従来は、資本力ある銀行の自由度を高めると一般事業者の領域を侵す懸念から規制してきたが、社会構造やビジネスモデル、銀行の経営環境などが変化し、銀行への役割期待も変わってきた事が背景にある。
●改正の概要
改正銀行法のポイントは大きく次の3つである。
- 銀行本体/子会社での業務拡大
先ずは、業務範囲の拡大。銀行業高度化等会社として認可を受けなければならない等の条件が付いている業種もあるが、銀行の創意工夫次第で幅広い業務を行う事が可能となった。
具体的な業務として ITシステム販売、マーケティング、人材派遣などあるが、これらの業務は正に今、日本の中小企業の弱点とも言えるデジタル化、販売戦略、人材確保に対応するものである。銀行が要となって、中小企業の課題解決を実現して欲しいという期待感が表れている。
ITベンチャーと手を組んで取引企業のDX化支援を行ったり、地域の名産品などを集めたマーケットプレイスによる販路拡大、顧客のライフイベントに合わせた広告の発出など様々な展開が予想される。
- 出資規制の緩和 地域活性化事業会社100%許可
銀行が、出資を通じて地域の「面的再生」などを幅広く支援することができるよう、非上場の地域活性化事業会社に対する議決権100%の出資が可能となった。
経営再建中の企業や、事業継承問題を抱える企業などに出資することも可能となり、早期の経営改善・事業再生支援や新事業開拓支援をハンズオンで行うことが可能となった。
そして、銀行自身がベンチャー企業を作り出すことも、有望なベンチャー企業を傘下に入れて経営することも可能である。
- 買収した海外銀行傘下にある業務範囲外の事業会社の継続保有が可能
海外金融機関を買収した際、その傘下会社が業務範囲規制に抵触する場合、従来は売却しなければならず、買収を躊躇する要因ともなっていた。
今回、その必要がなくなり、その事業を活かす事が可能となった。海外金融機関を買収して、その海外子会社を活用した事業展開などもより活発化するだろう。
法改正に対応した動きを実例を基に見てみる
- システム子会社の体制を強化し、地域のDX化を推進 ~紀陽銀行~
子会社の紀陽情報システム株式会社が銀行業高度化等会社の認可を取得。
これまで行ってきたITコンサルティングに加え、取引先企業の基幹系システムなどのシステム開発受託やIT人材の供給などを行い、地域社会のDX化推進に取組む方針。
同行の策定したデジタルストラテジーによると、基幹系システムの他行への販売や取引先企業のDX化推進、地元企業へのIT人材の派遣など行い、銀行の収益力を高めつつ、地域のDX化推進に貢献するとの意気込みである。
紀陽銀行デジタルストラテジー:https://www.kiyobank.co.jp/investors/get_pdf.php?f=00001923
- 銀行発!の地域活性化プラットフォーム
ECモール『COREZO』のオープン ~北國銀行~
北陸の『これぞ』いいモノ、いいコトを紹介するECモールを開設。
モール内では地域の特産品販売はじめ、地元のグルメ店やイベントの紹介、消費者参加型のコト(体験)企画やモノづくり企画も行っている。
地域活性化のプラットフォームとして、掲載店舗と商品は日々増加している。
ECモール「COREZO」: https://www.corezo-mall.com/
- 経営支援システムを手掛けるビジネステックを買収 ~三菱UFJ銀行~
この11月11日、三菱UFJ銀行がビジネステック株式の51%を取得し、資本業務提携する旨、発表された。
ビジネステックは、“Business Consulting”のノウハウと最新の“Technology”を組み合わせることで企業の問題解決を支援している会社で、中小企業のDX化支援やシステム開発も手掛けている。銀行顧客層へのDX化推進などのサービス高度化が狙いである。
- 電通グループとの合弁で広告・マーケティング会社を設立 ~三井住友FG~
新会社「SMBCデジタルマーケティング」は三井住友FG 66%、電通G 34%の合弁で、金融ビッグデータを活用して広告・マーケティングサービス事業を手がける。
三井住友銀行利用者の取引履歴やWebサイトの閲覧履歴などに基づき、スマートフォンアプリ「三井住友銀行アプリ」などに広告を配信。結婚や出産などのタイミングでベビー用品を案内したり、入学や就職のタイミングで家電メーカーと共同販促をしたり、といった施策を想定している。
銀行の持つ大きな顧客データなど情報資産を、新たなビジネスに展開しようとの狙いである。
顧客の課題解決実現が問われている
今回の銀行法改正により、これまで銀行にとっては足かせとなっていた規制がついに外された。しかしその目的は、日本の中小企業が直面するデジタル化や販路拡大、人材確保、事業承継などの課題を、銀行が「要」となって解決する事にある。
単に銀行自身の利益拡大に利用するのではなく、あくまでも顧客の課題解決のために活用出来るかが問われるものだ。
銀行にとっての成功のポイントは、如何に外部の力を活用できるかであろう。デジタル化も販売戦略も、そもそも銀行にノウハウや人材は乏しく、IT企業やベンチャー、専門家らとの連携や人材確保が雌雄を決する。
企業経営者としては、このような銀行の動きを認識する中で、新たなサービスを利用する、或いはビジネスパートナーとして事業展開を図るなど選択肢が増えると捉えていただきたい。