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第97話 米中欧エリートが集う神秘なる学院(上)

中国経済の最新動向

~グローバルリーダー育成校・清華大学シュワルツマン学院~
 習近平国家主席、胡錦濤前国家主席、朱鎔基元首相など中国の指導者を輩出する清華大学。2013年、この名門大学に極めて神秘なる学院が新たに誕生した。「シュワルツマン学院」(中国名「蘇世民書院」)だ。
 
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写真説明) 清華大学「シュワルツマン学院」を訪れた筆者。

 「シュワルツマン学院」を訪問
 
 シュワルツマンはアメリカ人の名前で、ニューヨークに本社を置く米国最大の投資ファンド会社『ブラックストーングループ』のCEOを務めるスティーブン・シュワルツマン氏のこと。蘇世民は氏の中国語名である。清華大学には20学院、54学部があるが、人の名前で学院や学部を命名したのは初めてである。
 
 外国人8割、世界名門校の教授陣による英語授業、全寮制、食事無料、最高額奨学金支給、入学のための国際旅費全額支給など、清華大学に前例がない事柄が多く、神秘なる学院と言われる。
 
 なぜ米国人の名前で学院を命名したか? シュワルツマン学院は一体どんな学院? 何のために設立し、どんな特徴を持つか? 筆者は今年7月下旬、多くの疑問を持ちながら清華大学シュワルツマン学院を訪れた。
 
 広大な清華大学キャンパス。周囲を歩けば、1時間以上かかる。正門から北方の奥に向かい、約40分歩くと、緑に囲まれる灰色のレンガ造りの低層ビルが見えてくる。入口付近の壁には「SCHWARZMAN  COLLEGE」と「蘇世民書院」と書いてある。ここはまさに神秘なるシュワルツマン学院だ。
 
今の中国がわかる未来のグローバルリーダーを育成
 
 学院関係者の紹介によれば、2013年ブラックストーングループCEOを務めるスティーブン・シュワルツマン氏は1億ドルの私財を清華大学に寄付し、毎年200名の外国留学生を支援する奨学金プロジェクトを設立した。これはこれまで中国の大学が海外から受け入れた最大規模の寄付金でもある。
 
 また、シュワルツマン氏及び清華大学の共同呼びかけで、米化学大手ダウ・ケミカル、英国石油大手BP、スイス信託大手クレジット・スイスなど外国企業から2億7500億ドルの寄付金を集めた。中国企業からの寄付金を合計すれば、2017年8月末現在、寄付金総額は4億5000億ドルにのぼる。
 
 シュワルツマン氏の巨額寄付の目的は極めて明確だ。氏は次のよう自分の寄付行為を説明している。「中国は将来、世界最大の経済大国になるだろう。欧米はより全面的により詳しく中国の社会、政治及び経済環境を理解する必要がある。双方は相互尊重のWin-Win関係を構築することが極めて重要だ。21世紀において、中国は選択コースではなく、(必修)コアコースだ」。「中国で共に学び、中国を理解し、何かあれば電話1本で話ができる将来のリーダーを、50年間で1万人育てる」というのはシュワルツマン氏の構想だ。
 
 シュワルツマン学院の参考モデルにしたのが、イギリスの大富豪で首相も務めたセシル・ローズによる「ローズ奨学金」だ。アメリカをはじめ世界各国の優秀な学生をオックスフォード大学で学ばせるもので、ビル・クリントン元大統領もその1人だ。ローズがアメリカを20世紀の超大国とみたように、シュワルツマン氏は「将来の超大国・中国」と睨み、中国とアメリカのパイプ作りを進める狙いがある。
 
 シュワルツマン学院のホームページによれば、学院の設立趣旨を「異なる文明間の相互理解と協力を促進する未来のグローバルリーダーを育成する」としている。シュワルツマン氏本人の言葉を借りれば、米中連携で、「未来のグローバルリーダーになる最も可能性がある人物を見つける」。「未来のリーダーは今の中国がわからなければならない」。これはシュワルツマン学院設立の最も本質的な部分だと筆者が思う。
 
 最初の名前は「清華大学シュワルツマン学者プロジェクト」だった。その後、著名な建築家、米エール大学建築学院院長ロバード・スターン教授がデザインした専用建物の完成によって、「シュワルツマン学院」(中国語名:蘇世民書院)が正式に誕生した。
 
清華大学はもともと中国指導者育成校だった
 
 周知の通り、清華大学はもともとアメリカ政府の資金で設立したアメリカ留学予備校だった。学校名は「清華学堂」だ。
 
 1900年、中国には外国人を標的とする「義和団の乱」が起きた。アメリカは日本、イギリス、フランスなど8ヵ国の連合軍に参加し、義和団の鎮圧にかかわり、当時の清王朝から4870万円という多額の戦争賠償金を受け取った。日本も同額の戦争賠償金を受け取り、当時の明治政府の歳入が1億円前後という数字を考えれば、4870万円は極めて大きな金額ということがわかる。
 
 しかし、アメリカがほかの国と違うことは、自国の軍隊派遣費用、中国で殺されたアメリカ人ビジネスマン、キリスト伝道師への賠償を差引いたあとの残額である1670万円をすべて中国に返還したことである。
 
 ただし、直接返金したのではなく、返還金を使って中国にアメリカ留学予備校・清華学堂を設立した。この学校はのちの清華大学となる。
 
 この戦争賠償金の返還をアメリカ政府に提言したのは、当時のイリノイ大学のジェームス学長だった。「中国自身が支払った賠償金を還元するという形で、中国の若者たちを教育することができれば、精神面とビジネス面において将来的にはアメリカにとって大きな収穫になるだろう」とジェームス学長は強調した。言い換えれば、知識と精神を持って将来の中国の指導者を育成する方式をとるべきだ、というのはジェームス学長の戦略構想である。
 
 その提言を受けて、セオドア・ルーズベルト大統領は、1907年12月3日、議会での演説の中で、「われわれは自らの実力をもって中国の教育を支援し、この繁栄の国をして徐々に近代的な文化に融合させるべきである。支援の方法は賠償金の一部を返還し、中国政府をして中国人学生をアメリカに留学させる」と述べた。翌年5月、米議会は決議案を採択し、賠償余剰金を中国に返還し、アメリカ留学予備校の設立を実現させた。
 
 100年後、朱鎔基首相、胡錦濤国家主席、習近平国家主席など清華大学出身の中国指導者が相次いで誕生し、いずれも親米的な姿勢を取ってきた中国のリーダーだ。アメリカの対中戦略は「百年の計」と言われても決して過言ではない。
 
 ところが、この度、中国のリーダー育成ではなく、未来のグローバルリーダーを育成する学院が中国の清華大学に誕生した。アメリカによる百年後の世界を見据えた戦略的な行動と見ていい。常に50年先、100年先のことを考えながら戦略的に行動するのはアメリカ人の凄さである。(続き)

 

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